『荻上チキ・Session』配信イベント「宗教2世、その実態と課題」のイベントレポートを公開!

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11月25日、荻上チキ編著『宗教2世』の発売に伴い、『荻上チキ・Session』配信イベント「宗教2世、その実態と課題~『宗教2世』刊行にあたって」が開催された。12月4日までアーカイブ配信中のこのイベントの模様をレポートする。

安倍晋三元首相の銃撃事件以来、注目を集めたのが、旧統一教会と「宗教2世」だ。銃撃を行った山上容疑者は母親が旧統一教会信者で、多額献金によって家庭が崩壊した。それを恨み、旧統一教会と関わりが深いと考えた安倍を撃った…ここまでは誰もが知るところだろう。

ここで取り沙汰されたのが、宗教2世だ。親の信仰によって、有無を言わさず宗教を押し付けられ、ときにはカルト的な思想に基づき、さまざまな虐待(精神的・肉体的・経済的・性的)を受ける。今まで黙殺されてきた宗教2世の苦しみが、事件をきっかけに、注目されるようになったのだ。

TBSラジオのニュース・報道番組『荻上チキ・Session』は、特集「シリーズ・宗教2世」を行った。この特集をもとに大幅な増補を加えた書籍『宗教2世』(太田出版)が出版され、それを記念して行われたのが今回のイベントだ。

政治と宗教が複雑に絡まり、さまざまなアクターが登場するこの問題。救済法案や質問権山上徹也容疑者の鑑定留置期間が年をまたぐことになるなど、新たなフェーズに入りそうだ。その前に事態を多角的に見通すことができるイベントとなった。

最初に登場したのはジャーナリストの鈴木エイト。長年カルトと政治、カルトと2世問題を追ってきた彼は事件発生からこれまでを振り返り、「これまで発信してきても問題視されてこなかった。現在の状況は隔世の感がある」と語る。

荻上は「メディアは学習して、報道を続けていく。この数ヶ月でメディアの宗教報道リテラシーも変化していった」と評価する。他方で「ときどきリマインドしないといけないのは、自民党と旧統一教会のテーマがうやむやになってること」だと指摘する。

長年、旧統一教会にお墨付きを与えてきた自民党。特に安倍派(清和政策研究会、清和研)が“やってる感”を演出していることを鈴木は疑問視する。被害者救済新法や多額献金の規制など一応議論はしているものの、その内容は心もとない。“やってる感”は、言い得て妙だ。

また、旧統一教会の被害者をどのように守るか、という課題も出た。事件以降、当事者たちの発信も増え、一般への理解が進んだが、声を上げた彼らに対してバッシングや心ない発言が少なからずある。また、離脱した宗教2世に対して、教団側が辛辣な言葉をぶつける動きもあるそうだ。鈴木は「当事者性は重要だが、矢面に立たせすぎない」ことの重要性を強調した。

さらに、旧統一教会の問題だけでなく、他の宗教やカルトをも含めた宗教2世たちが、「自分たちの声が拾われてない」と声を上げるケースが増えたそうだ。すべてに共通しているのは孤独や孤立で、いずれの人々も精神的に摩耗していると鈴木は言う。

そこで荻上が所長を務める「社会調査支援機構チキラボ」にて、1,131人もの当事者たちに大規模調査を敢行した。書籍『宗教2世』は、この調査結果にも多くのページを割いており、多様な宗教2世のあり方を浮き彫りにしている。特に、創価学会とエホバの法人の宗教2世たちは割合的にも大きく、旧統一教会にとどまらない宗教2世たちの苦しみにもスポットが当てられることになった。

脱会しても終わらない宗教2世問題

この日のイベントに登場した横道誠(京都府立大学准教授)は、文学や当事者研究を専門にしながら、エホバの証人の宗教2世として、自助グループも運営するという。

自身も宗教2世として苦しんだ横道は、オウム事件のとき世間の追及が自分の宗教問題には及ばなかったと振り返る。「たしかに統一教会が悪質なので解決してほしいけど、そこで終わってほしくない」という横道の言葉は、他の宗教2世たちの声も代弁していた。

ここで大規模調査を元に、宗教2世に対して「家族や教団から行われる声かけ」の分析も行われた。

特に印象深いのは、《性愛禁止の実態》についてだ。旧統一教会とエホバの証人では、恋愛などの制限経験が多い。また、個別に見ると、エホバの証人がデート行為そのものに厳しく介入するのに対し、旧統一教会は婚前のセックスに厳しく介入する傾向が見られたという。

実際の当事者の声として以下のようなものが上がった。

「教会内のマッチングサイトを通じてでなければ、恋愛はしてはならない」

「婚前交渉やそれに準ずる行為が怪しまれた場合、長老ふたりから尋問を受けます」

「結婚相手が信者でない場合は、入信させてから結婚するように。外国人との結婚は許さない」

横道自身も「思春期の頃にエロティックなものを発見されて、エホバの名のもとに自己批判を促されたことが何度もあります」と語る。

一方で創価学会でも、交際や結婚というイベントの際に、親から「相手も同じ創価なの?」「創価じゃないなら、どうするの?(入信してくれるの?」といった声かけが行われるという。宗教2世たちは、性愛という極めてプライベートな領域まで侵されるのだ。

また、宗教2世が求める対策についてのアンケート結果も紹介された。多くの2世が、複数の支援オプションの充実や、「子どもでも、親や教団から安全に離れられる制度の整備」、すなわち「信じない自由」の確保を求めた。

横道は「薬物乱用防止『ダメ。ゼッタイ。』」のポスターを例に挙げ、「『カルト問題、宗教問題で困ってる子供いませんか?』的なポスターを貼る」ことで、宗教的虐待を受けている子どもたちに気づきを与えることを提案した。

ところで、脱会した当事者の言葉で重たかったのが「教団はふるさとでもあるから、言葉を選ばない全否定などは辛い」というものだ。宗教的虐待が辛く逃げてきても、そこで生育してきた宗教2世は、アンビバレントな思いを抱いている。ここに宗教2世の問題の複雑さがある。

鈴木は「タブー」が多いカルトが、思考停止を生むと指摘する。宗教2世の場合、生まれてからずっと自分でものを考える機会を奪われている。そのため、自分の宗教に疑問が生まれ脱会しようとしても、「自分で考えること」が極めて難しいのだ。

また、お金についても宗教間で問題のあり方が異なるようだ。旧統一教会の場合、多額の献金要求が問題視されているが、横道は「エホバの証人の問題は『時間の献金』。ほとんどの時間を捧げること」だと語る。

常に宗教に奉仕することが求められるため、子供の頃からろくに勉強をさせてもらえず、就職も教団活動に支障のないような単純労働しかできない。「お金を巻き上げる宗教か、お金を作らせない宗教か」(荻上)という違いはあるものの、両者とも経済的に有害であるということは明らかだ。特にエホバの証人の場合、脱会後も働く能力が極めて低いために社会活動ができなくなってしまう。

脱会すれば安心、ではない。社会活動にアクセスできるようにリハビリが必要になるのが宗教2世問題だ。2世問題は長期的な視点で対策や支援を行わなくてはいけない理由がここにある。

宗教2世問題でも目立つ「ジェンダーの不均衡」

TBSラジオの澤田大樹記者による国会議論についての説明をはさみ、最後は「宗教右派によるジェンダー教育による問題点」について意見が交わされた。フェミニズムを専門にする、山口智美(モンタナ州立大学准教授)と斉藤正美(富山大学非常勤講師)を迎えられた。

山口は宗教2世の問題を見ていても「ジェンダーの不均衡」が見られ、「専門家として出てくるのもほぼ男性。救済法でもジェンダー(の観点)が落ちてくる」とコメントした。

表に出てくるのは男性なのに、「教会に行ったり、イベントに出ても、出席しているのは女性が多い」と斉藤は語る。女性の被害者が多い実態と、現実の対応に大きなギャップがあるのだ。荻上からも今回の大規模調査の回答者は、女性が男性の倍だったと明かされた。

山口は、宗教2世の性差別構造は「一般社会にもあるもの」だと釘を差した上で、「それが強く要求されている」のが旧統一教会をはじめとする団体なのだという。

宗教右派、特に旧統一教会は家父長制を強く打ち出し、「伝統的家族」に固執している。そのため家庭の問題は、他者が口を挟まず、家庭内で解決するという主張を繰り返す、と山口は説明する。

荻上は前半で、旧統一教会が推進する「教育は家庭で」というイデオロギーを指摘していた。一例として、「子ども家庭庁」が設置される際、「子どもコミッショナー」というアイデアが自民党によって潰されたことを挙げた。「子どもコミッショナー」とは、育児に困難がありそうな場合、子供の側に立ち、第三者機関でサポートするというものだった。これを自民党の一部議員が「そのアイデアはマルクス主義の発想だ」と切り捨てたというのだ。

鈴木も「いわゆる宗教右派とか反ジェンダーの動きをしてきた団体が、どれくらい関わってきたのか興味深い」と話していたが、宗教右派的な価値観が、ジェンダー問題に与える影響は、かなり大きいと言える。

斉藤は「現状の政治を変えないと、宗教2世も変わらない」と言った。我々ひとりひとりが政治を厳しく注視することが必要だ。

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【救済ダイヤル】

子供の人権110番 0120-007-110
児童相談所虐待対応ダイヤル 189

民間団体
チャイルドライン(18歳までの子供専用電話) 0120-99-7777
心理的危機対応プラン「PCOP」

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荻上チキ・Session配信イベント
「宗教2世、その実態と課題~『宗教2世』刊行にあたって」

以上レポートしたイベントは現在でもアーカイブ配信されています。ぜひ全容をご覧ください。

日時:アーカイブチケットの購入期限は12月4日21時まで(※視聴は24時まで)
出演:荻上チキ、南部広美、澤田大樹(TBSラジオ記者)
ゲスト:鈴木エイト(ジャーナリスト)、横道誠(京都府立大学准教授)
    山口智美(モンタナ州立大学准教授)、斉藤正美(富山大学非常勤講師)
※イベント詳細は、TBSラジオ公式サイトをチェック。チケットはイープラスにて発売。

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