「コミュニケーションの目的はコミュニケーションを成立させること」情報伝達より先にあるもの

学び
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ニッポン放送の大人気アナは、些細な会話すらままならないコミュ障だった!
そんな彼が20年かけて編み出した実践的な会話の技術を惜しみなく披露。話すことが苦手なすべての人を救済する、コミュニケーションの極意をまとめた、吉田尚記・著『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』がOBS試し読みに登場。本書から抜粋したエピソードを全6回にわたって公開していきます。
今回は、コミュニケーションの目的について。

「最初はいつも他人」が基本

これはライターになるための専門学校で講師をしている友だちから聞いた話ですが、そのカリキュラムに、見知らぬ人に電話をかけるという演習があるそうなんです。

アーティストにインタビューしたい、取材をしたいとなったら、まずレコード会社に電話をかけますよね。「いまの時代、そこから教えなきゃいけない」と聞いて、正直驚いた。「いくらなんでもそんな必要はないでしょう」って苦笑したんですが、真剣に「いや、それが必要なんです」と。その演習で泣き出しちゃう子もいるって言うんですね。

みんなも結構、若い世代の人たちはそうなのかもしれないけど、いまは誰でも携帯電話を持っているから、個人と個人で話をするのが基本になってるでしょう。それがケータイのない時代を知ってるぼくくらいの年齢だと、たとえば気になる女の子に電話をする場合、どうしてもおうちにかけなきゃならなかったわけです。それで親御さんや兄弟が電話に出たとき「私はこれこれこういう者ですけれど、○○さんいらっしゃいますか」って、電話を取次いでもらわなければならなかった。

でもいまはケータイからケータイ、個人から個人だから、当事者以外の人に取次いでもらう状況自体がない。誰か知らない人に電話をして取次いでもらうにはどうしたらいいか、18、9歳だとまったく経験がなくてわからない子がふつうにいるんですね。ジェネレーション・ギャップって、いつの時代もささやかれることではあるんですが、そんなふうに世の中が分断されていると知ってさすがにびっくりしました。

知らない人とコミュニケーションをとるのが誰にとってもストレスなのは大前提です。でも、この世に知り合いがすでにいて、その人と待ち合わせるように生まれてくる人はいません。母親や父親、兄弟や双子だって、ある意味最初は他人なんです。

最初はいつも他人。エレベータと一緒、それが基本です。

情報の伝達より先にあるもの

コミュニケーション、ふだんの何気ない会話と言い換えても結構ですが、多くの場合それは情報の伝達手段だと思われています。でもぼくは、そのまえにもっと大切なことがあると思う。情報の伝達より先に、話をしていて楽になる、心地よくなることのほうがずっと重要だと思っています。

そう<コミュニケーションがうまくとれるようになったら、生きやすくなるかな>、そのとおりです。人と話をして、少しでも生きやすくなりたい。ぼくも生きづらかったし、いまでも放っておいたらたぶん生きづらくなると思う。情報の伝達よりまずそこをなんとかすべきなんです。

たとえば「営業の○○くんと経理の××さんが婚約した」なんて日は、会社のエレベータでふだんちょっと距離のある人と会っても、「知ってました?」「いや知らなかった!」みたいに、その十数秒が気まずくないどころか会話が弾んだりしますね。このとき、ふたりの婚約の情報はそれほど重要なことでしょうか? それが伝達されなかったばかりに重大なチャンスを逃す、損失を被るなんてことはまずありえないでしょう。

エレベータ内で絶対に伝えなければいけない情報など、非常時の対応以外にはありません。もしコミュニケーションの第一義を情報の伝達とするなら、エレベータは無言でもまったく気にならないはず。機密情報を口にしてはいけないエレベータにコミュニケーションは不要、それですんでしまうはずなんです。でも実際には、みんな気になってる。なぜでしょうか。

コミュニケーションというのは、じつは、コミュニケーションが成立すること自体が目的であって、そのときに伝達される情報は二の次なんです。情報の質や内容なんてどうでもいい。エレベータ内の十数秒の価値は、コミュニケーションが円滑に為されたかどうかによってのみ測られます。スムースに言葉のやりとりができ、その場を楽にすごすことこそが第一なんですね。

実際に、一般的に考えられているコミュニケーションとはどんなものか、辞書を引いてみます。「一.通信、連絡、報道」、まずこっちが先なんですね。「二.言葉による意思、思想などの伝達」。要は5W1Hを相手に伝えることが第一義になっているようです。一般的にはこれが伝わるとコミュニケーションは成功とされる。なるほどそうかと思うと同時に、ちょっと待てよって思いませんか?

5W1Hを伝えると言っても、ときに強い立場の人間が弱い立場へ一方的に下達するというパターンもありますよね。場合によっては権力をふるったり争いごとがあって上下関係が決まると、下の者は上の者の言いなりになるしかない。それではコミュニケーションが成功したとは言えないと思います。

5W1Hを相手に伝えたり信じさせたからといって、それだけでコミュニケーションは成立するものではありません。コミュニケーションをとったあとに、その人と一緒にいたあとに、おたがい心地よくなってこそ成功と言えると思う。ディベートでも討論でも、やったあとに気持ちよくならなかったら、良きコミュニケーションとは言えないんじゃないでしょうか。

* * *

本書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(吉田尚記・著)は、世にあふれる「○○のためのコミュニケーション術」とは一線を画す、「コミュニケーションの目的は、コミュニケーションである」という原理に基づいた、コミュニケーションそれ自体について考察した画期的な一冊。コミュニケーションのあり方を感覚ではなく基本として、また、精神論ではなく技術として、誰でもすぐに実行へ移せる方法を知ることで、現代コミュニケーション論の新しいスタンダードになり得る内容になっています。

筆者について

吉田尚記

よしだ・ひさのり。1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。
2012年第49回「ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など、レギュラー番組以外に年間200本ほど出演。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人、バーチャルアナウンサー「一翔剣」の「上司」であるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。共著を含め13冊の書籍を刊行し、ジャンルはコミュニケーション・メディア論・アドラー心理学・フロー理論・ウェルビーイングなど多岐にわたる。著書の『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)は国内13.5万部、タイで3万部を突破するベストセラーに。最新作は2022年11月28日発売の『オタクを武器に生きていく』(河出書房新社)。
Twitterアカウント @yoshidahisanori

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