「コミュ障」だった私がコミュ障の壁を超えるまで

学び
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ニッポン放送の大人気アナは、些細な会話すらままならないコミュ障だった!
そんな彼が20年かけて編み出した実践的な会話の技術を惜しみなく披露。話すことが苦手なすべての人を救済する、コミュニケーションの極意をまとめた、吉田尚記・著『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』がOBS試し読みに登場。本書から抜粋したエピソードを全6回にわたって公開していきます。
今回は、コミュ障の著者がいかにしてラジオアナウンサーになったかについて。

コミュ障がラジオアナウンサーになった!

コミュ障のぼくの症状は、具体的にどんなものだったか。まず人から「つまらない」と言われるのが怖い。人と会うことが非常に苦手でした。

やがて初対面のときはそれなりに盛り上がるところまできるようになるんですが、その後2回目に会ったとき、「あれ、この人そんなにおもしろくないな」と思われるのが怖いっていう段階が来る。その壁を越えるといつか「もう、どうでもいい」というところにたどり着くんですね。

初期段階では、人に迷惑をかけたくないとか、つまらないと思われたらどうしようとか、まだ自己顕示欲が働いている。それがやがて、固執するのをやめるというか、誤解されてもいいって自分を突き離すことができたんです。

いちばんはじめの何もできないときは、アナウンサーで食って行けるのかどうか、本当に不安でした。2回目でつまらない顔をされたときも、もちろんそう。でもそのあと、もうどうでもいいやってなったときに、「あ、食えるかな」って思ったんですね。

そんなふうに思えるまでいろんな出来事があったわけですが、人から「つまらない」と言われるのが怖かったのは、その裏に、そもそも「おもしろいと思われたい」という欲が歴然とあったからなんです。

そんな「出来事」のひとつ、ぼくの入社当時の話をしてみたいと思います。

宴会場で新入社員歓迎会が催されて、同期の新人が一人ひとり壇上に登ってあいさつをする。先輩社員に向けて何かしゃべるんですが、またこの業界のよくないところは「ここはラジオ局なんだから、きっとおもしろいことを話してくれるんだろうね」みたいな無意味なプレッシャーがあるわけです。

そういう雰囲気のなかで、ここは何かやらなきゃいけないってヘンに意気込んでしまった。アナウンサーどころかディレクターとして入社した同期のあいさつが結構おもしろかったりして、さらにプレッシャーがかかる。いま思えばふつうに出て行って、にこやかにしゃべって戻って来るだけでよかったのに、俄然、場を盛り上げるべきだと思っちゃったんですね。「どうする!?」、切羽詰まりました。

それでぼくはなにを血迷ったか、「それではみなさん、ご唱和ください。イチ、ニー、サン、ダー!」とやってしまったんです。

きょとーん、ですよね。誰も反応してくれない。ひとり振り上げた手をすぐには下ろせなくて、徐々に、細かく震わせながらゴマかす感じ。いきなりテンパっちゃって、「あれ、アナウンサー入社の若者、いま何してくれたの?」みたいな空気が会場を包む。全体が水を打ったように静まり返って、ホントにスベったことを克明に憶えています。

いま思い出しても身体がきゅーっと萎むくらい恥ずかしい。コミュ障の壁を超えるまでの症状がいかに重かったか、捨てられたらいいのに捨てようがない黒歴史の一幕です。

「聞き上手」というナゾのスキル

さて、そんな相手の目も見ることができないコミュ障がどうしてラジオアナウンサーになったのか? 大学の就職課に募集要項が貼ってあったから。きわめて単純な事情です。でもそれは、職業としてアナウンサーに就いただけのことですよね。ではどのような経緯をたどって、少なくとも人前で話をして大丈夫なくらいになれたのか。よくよく考えてみると次の3つのステップがあったように思います。

①自己顕示欲がなくなったこと
②コミュニケーションは「ゲーム」なんだと気づいたこと
③コミュニケーションの盤面解説ができるようになったこと

もちろん、どれもが一朝一夕に実現できたわけではありません。むしろ思い出すのもツラい、長い葛藤の日々でした。

まあ、上司や先輩アナウンサーからいろんなことを言われるんです。なかでもいちばん困ったのが、「聞き上手」になれという話。

よく考えてみてください。聞き上手、ナゾのスキルじゃないですか?

たとえば、走れって言われたら、とにかく走りゃいいんです。同様にしゃべり上手になれって言われたら、習得方法はべつとしても自分で努力のしようがある。でも聞き上手って自分じゃないんです。話をうまく引き出すことだと言われても、話をするのは相手であって自分は聞くしかない受け身の状態です。

聞き上手にはなりたい。でも魔法使いじゃないんだから、相手がしゃべってくれるよう念を送ればどんどん話をしてくれて、それをすべて聞けるなんてことはありえないでしょう。

では、何をして聞き上手と言うのか。サッカー選手だったら足が速くて持久力があって、正確にボールを蹴る能力とかゴールキーパーなら背の高いほうが有利だとか、いろいろ特徴があるし練習の方法もある。でも聞き上手ってどうやって練習すりゃいいんだと、本当に悩んじゃったんですね。

同じような話で、そのころ「アナウンサーがいるのにその場が盛り下がったら意味がない」と言われてすごくショックを受けた。そのとおりですよね。何のために現場にアナウンサーがいるのか。実際に番組がおもしろくならなければ、キャスティングされている意味はない。アナウンサーになりたてのころはそんなふうに、なんだかんだうまくいかなかったわけです。

たとえばナンパをしたくても、そもそも人に声をかけるのが怖かったらできませんよね。でも、ラジオのアナウンサーというのは、声をかけるのが怖いからといって黙ったままですむ職業ではなかったんです。あたりまえのことです。イベント会場や街頭ロケへ行って、片っ端から声をかけ何度も気まずい思いをする。悩む。でも途中で止めるわけにいかない。声をかける。気まずい。悩む。そのくり返し。

毎日毎日、コミュ障にとってはツラいです。だからといって仕事をほったらかすことはできない。でもそうしているうちに、自分のことがいつしか、どうでもよくなってきたんですね。答えてくれなくてあたりまえ、話しかけてくれなくてあたりまえ、人から興味を持たれなくてあたりまえ、そうなってきた。いちばんはじめのステップはそこらへんにあったのかもしれません。

ぼくに興味がある人なんかいないんだってことを、あきらめではなく事実として、肌で知った。そうしたら自己顕示欲が干乾びていった、、、、、、、、、、、、、んですね。「つまらない」と言われるのが怖くなくなっていた。それがまず最初の、大きなターニングポイントだったように思います。

* * *

本書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(吉田尚記・著)は、世にあふれる「○○のためのコミュニケーション術」とは一線を画す、「コミュニケーションの目的は、コミュニケーションである」という原理に基づいた、コミュニケーションそれ自体について考察した画期的な一冊。コミュニケーションのあり方を感覚ではなく基本として、また、精神論ではなく技術として、誰でもすぐに実行へ移せる方法を知ることで、現代コミュニケーション論の新しいスタンダードになり得る内容になっています。

筆者について

吉田尚記

よしだ・ひさのり。1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。
2012年第49回「ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など、レギュラー番組以外に年間200本ほど出演。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人、バーチャルアナウンサー「一翔剣」の「上司」であるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。共著を含め13冊の書籍を刊行し、ジャンルはコミュニケーション・メディア論・アドラー心理学・フロー理論・ウェルビーイングなど多岐にわたる。著書の『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)は国内13.5万部、タイで3万部を突破するベストセラーに。最新作は2022年11月28日発売の『オタクを武器に生きていく』(河出書房新社)。
Twitterアカウント @yoshidahisanori

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