ニッポン放送の大人気アナは、些細な会話すらままならないコミュ障だった!
そんな彼が20年かけて編み出した実践的な会話の技術を惜しみなく披露。話すことが苦手なすべての人を救済する、コミュニケーションの極意をまとめた、吉田尚記・著『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』がOBS試し読みに登場。本書から抜粋したエピソードを全6回にわたって公開していきます。
今回は、コミュニケーションと自己表現について。
コミュニケーションは自己表現ではない
これはサッカー元日本代表のオシム監督によるポジションの解釈ですが、フォワードとかミッドフィルダーとか、あれはキックオフのときプレーヤーがどこに立っているかを決めてるだけだって言うんですね。ゲームがはじまった瞬間から、どんなポジションをとるか、個々の選手が自分で考えてどう動くかが重要なんだと。
ゲームの状況によって、フォワードがディフェンスに回るときもあれば、右サイドと左サイドの選手が入れ替わるときもある。それは流動的におこなわれるので、自分で全体をモニタリングしていないとできないことなんです。
同様にコミュニケーションは、プランが立っていて脚本どおりにできたから成功ではありません。これはゲームなんですから、みんなが協力して、流動的にゴールを積み上げて元気が出るところまで行けたらいい。それがゲームに勝利するということです。相手がしゃべってくれた事柄に対して、自分で考えて、どう動いて対応するかが大切なんです。
サッカーでも自分を表現しようと思ってみんながプレーしていたら、どんなにうまい選手をそろえてもきっとそのチームは勝てないでしょう。だいたい「ぼくの持ち味はドリブルなのでヘディングはしません」とか、「社会に対する不満をシュートで表現する」ってプレーヤーがいたら負けますよね。みんなが自己表現のためにプレーするなんて、ゴールどころかゲームにすらならないはずです。
これは舞台演出家で声優の浅沼晋太郎さんが言ってたことなんですけど、テーマパークへ行ってジェットコースターに乗ったら、「わーい、楽しかったあ」と言えるかどうかがすべてであって、「このアトラクションは怒りを表現しているから、それさえ伝われば楽しくなくてもいい」なんてありえませんよね。ジェットコースターの価値は、乗って楽しいか楽しくないかに尽きる。コミュニケーションも同じ、その一点に尽きるんです。
面接の「志望動機は?」を噛み砕いてみる
面接を例にとってみましょう。
面接はもしかしたら、平均的な若者がはじめて社会と接する大事な場面かもしれない。でも面接って、元気出ませんよね。緊張するし、なんかすごくツラいでしょう。あれはね、じつは面接する側に問題があるんです。
よく「志望動機は?」ってありますね。「自己PRをどうぞ」とか。それは訊く側が悪い。実際ヒドいなと思います。そんなことふだんの生活で訊かないでしょう。仕事だって取引相手にそんなこと訊きませんよね。それをなんでわざわざ面接で訊くのか。基本的に面接でツラツラ自分のことを話せた人間を採用する会社って、ダメな会社だと思う。
そんなときは質問を自分で噛み砕いてみましょう。むこうから「志望動機は?」というものすごく雑な問合わせがきています。それをこっちは「なんでウチ受けてんの?」って変換したら、答えられませんか? それなら「ぼく、この会社がつくっている○○が大好きなんです」と言えるし、まだふつうに話ができますよね。
きっとマジメな人は面接のマニュアル本を読んで、それこそ脚本みたいに準備して、つかえず話せるよう練習してってことなんでしょうけれど、もし優秀な面接官ならそんなところ見てないと思う。自己PRなんてほとんど聞いてない。自己PRの中身ではなく、話している雰囲気を見ているんです。会話になったときこの人はどういうふうにしゃべるのか、みたいなことですね。
面接は楽しくなる話をしに行こうくらいの気持ちでいいんじゃないか。それがぼくの考えです。面接だってコミュニケーションなんですから。
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本書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(吉田尚記・著)は、世にあふれる「○○のためのコミュニケーション術」とは一線を画す、「コミュニケーションの目的は、コミュニケーションである」という原理に基づいた、コミュニケーションそれ自体について考察した画期的な一冊。コミュニケーションのあり方を感覚ではなく基本として、また、精神論ではなく技術として、誰でもすぐに実行へ移せる方法を知ることで、現代コミュニケーション論の新しいスタンダードになり得る内容になっています。
筆者について
よしだ・ひさのり。1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。
2012年第49回「ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。ラジオ番組でのパーソナリティのほか、テレビ番組やイベントでの司会進行など、レギュラー番組以外に年間200本ほど出演。またマンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、「マンガ大賞」発起人、バーチャルアナウンサー「一翔剣」の「上司」であるなど、アナウンサーの枠にとらわれず活動を続けている。共著を含め13冊の書籍を刊行し、ジャンルはコミュニケーション・メディア論・アドラー心理学・フロー理論・ウェルビーイングなど多岐にわたる。著書の『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)は国内13.5万部、タイで3万部を突破するベストセラーに。最新作は2022年11月28日発売の『オタクを武器に生きていく』(河出書房新社)。
Twitterアカウント @yoshidahisanori