気鋭の若手作家・波木銅による当サイト連載小説『ニュー・サバービア』が、待望の書籍化決定。本日、画家・髙木真希人による描き下ろしイラストを使用したカバーデザインも発表されました。これを記念して発売前インタビューを公開!
原発のある片田舎の町で、小説家を夢見ながら友人たちと退屈な日々を送っていた馬車道ハタリ。高校卒業を機に上京し数年が経ったある日、彼女のもとに見知らぬ作家の私小説の原稿が届く。そこには原発事故で壊滅した故郷にまつわる、彼女たちの重大な秘密が描かれようとしていたーーー原発や貧困、搾取構造など現代日本が抱える“閉塞感“を描いた新世代ハードボイルド小説『ニュー・サバービア』は、どのような背景から誕生したのか? Z世代の小説家から見た「原発」、そして社会に蔓延る「搾取」の構造についても話を伺いました。
【追記】刊行記念イベントが3月3日に開催決定!当記事の最後にご案内します。
――今回の小説では、原子力発電が大きなモチーフとして描かれています。波木さんはもともと、北関東の原発近くの町の出身なんですよね。
波木 はい。小学生のころは遠足で原子力科学館に連れていかれたり、作文を書いたりしていたのを覚えています。今になって思い出すと「とんでもないことをしてたな」と思うんですけど、当時は無邪気だったし、変だとも思わなかった。
――それに違和感を感じるタイミングはあったんですか?
波木 幼少期はもちろん意識したことはなかったんですが、小学生のころに東日本大震災を経験して、それ以降は原発に対する批判的な意見も目にするようになって。都市部で使う電力を作るために、地方の人たちにリスクを押し付けるのはどうなんだ?という思いも生まれたりして。
――ほかにも本作のなかでは、主人公の馬車道がたびたび世の中の構造を批判していますよね。「ファストファッションの搾取構造に加担したくはない」とか。
波木 そうですね。その大きな搾取の象徴として「原発」というモチーフを描いた、というのもあります。あとは主人公が日銭を稼いでいるフードデリバリーの仕事もそうですし、主人公のファストファッションに対する批判もそうですし。世の中に自然に組み込まれている搾取の構造ってけっこう普通にあると思うので、それに対する意趣返しというか、反発みたいなものをテーマに描きました。もちろん、その搾取の構造に取り込まれざるを得ない人たちの視点も描いたつもりです。
――波木さん自身もフードデリバリーの仕事をしたことがあるとお聞きしました。
波木 すぐにやめちゃったんで、業務経験があるとは言えないですけど……。真夏だったのでめちゃくちゃ暑くて、こんなに苦労してこれっぽっちしかもらえないのかよ、という気持ちもありましたし(笑)。うまくやれる人は効率よく回って収入を得ることもできると思うんですけど、一方で「自分のメシくらい自分で買いに行けよ」みたいな気持ちもあったりして。
――大学進学を機に東京に出てきたことで、地元に視点も変わったりしましたか?
波木 そうですね。地元にいたころは気づけなかったこともあるし。学生のころには帰省するたびに「この町、こんなに何もなかったっけ」とか思ったり。
――そうした体験が、郊外をリアルに描くことにつながっている。
波木 ただ、自分の場合は普通に高校を卒業して、自分の行きたい東京に出て、そのまま生活を続けてきて。でも、必ずしも全員がそこから抜け出せるわけじゃなくて、その町で生きていかなきゃいけない人ももちろんいる。そういう人にとっての郊外ってどういうものなんだろう、というのは常に考えていました。
小説家という立場にいる以上、
少しでもマシな世の中にしたい
――もともとこの作品は、『Quick Japan』での連載していた短編小説がベースになっています。当初は「地元での体験を私小説で描いてほしい」という依頼でしたよね。
波木 当初の構想とはまったく違うものになっちゃったんですけど(笑)。雑誌の連載も初めてだったので、「次号はどう読んでもらおうか」って考えながらいろんなアクションとかイベントを起こして話を進めていきました。最初はけっこう迷いながら書いていた部分もあったんですけど、書きながらテーマを手繰り寄せていった感じです。「このテーマを書くならこうするべきだな」っていうのが自然と見つかったというか。
――まさか、途中から異形の生物が出てきて大暴れするとは思いませんでした。
波木 もちろん、モンスターみたいな生き物が出てくるアイデアは最初のころにはまったくなかったので(笑)。雑誌の連載を終えて、次にそれを長編小説として再構成するときには、なにか大きいアイデアがあるといいなと思って考えていたんです。『ニュー・サバービア』というタイトルは編集の方に考案してもらったんですけど、「サバービア」という言葉が持つ不気味なイメージをどうにか生かせないか、と思ったんですよね。
――そして何より、主人公の馬車道ハタリがとても魅力的でした。自分で「人間的にどっかおかしいことは自覚している」と言っているように、純粋だけどどこか歪んでいて、口は汚いけれど愛らしさもあって……。今の時代を生きている、強い意志のある若者という印象を持ちました。
波木 そうですね、いわゆる一般的な社会生活を送れなさそうな人、ちょっと人格に問題のありそうな人物が主人公だと面白いかな、と思って。そこまで自己投影して描いたわけじゃないですけど、今小説を書くんだったら世代特有の感覚や現代性みたいなものは常に書きたいなと思っています。
――自身2作目となる長編を描き切ってみて、見えてきたものはありますか?
波木 やっぱり執筆を続けていくたびに良くなっていったなというのはもちろんありますし。やっぱり大きなテーマである「地方・郊外」と「搾取構造」と「不自然さ」っていうのもどんどん強調されていったと思います。
――最終的には、そういう閉塞感を打開するような結末になったと思っています。
波木 難しいですよね。今でも現実にそういう搾取の構造があるっていうのはまだ解決できない問題ですし。そういう問題を考えたりするのは大変なことだと思うんですけど、せっかく文章を書く立場にいる以上は、考える続けるべきなのかなと思いますね。それで、少しずつマシな世の中にしていけることがあればいいんじゃないかな、と。
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波木銅による長編小説・第2作『ニュー・サバービア』は、2024年1月19日(金)より発売。四六判、288ページ。全国書店、Amazonなどの通販サイト、電子ブックストア各店で取り扱い。
なお、本書刊行を記念して、渋谷の大盛堂書店にて著者・波木銅トークイベント&サイン会が開催決定! 波木の恩師である小説家・額賀澪をゲストに迎え、類まれな“小説家師弟トーク”が繰り広げられます。作家を目指す方には特に、色々な気づきがあるであろう貴重なトークイベント。ぜひ参加しよう。
『ニュー・サバービア』(太田出版) 刊行記念 波木銅さんトークイベント&サイン会
日時:2024年3月3日(日)15:00~16:30(開場14:40)
場所:大盛堂書店 3Fイベントスペース
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町22-1
出演者:波木銅、額賀澪(ゲスト)
※ご参加にはご予約が必要です。詳細は大盛堂書店ウェブサイトよりご確認下さい。
【お知らせ】
当連載を収録した書籍『ニュー・サバービア』が待望の刊行! 全国書店やAmazonなどの通販サイト、電子ブックストアにて好評発売中です。
筆者について
なみき・どう 1999年生まれ。茨城県出身。大学在学中の2021年、茨城県に暮らす3人の女子高校生の大麻栽培を描いた小説『万事快調(オール・グリーンズ)』(文藝春秋)で第28回松本清張賞を受賞しデビュー。