地元にある長く通っているお店を紹介する。駅から徒歩30秒という近さにもかかわらず雑居ビルの地下1階にあるため気づかずに通り過ぎてしまうくらいの存在感だが、「酒に意地汚い男」である僕はビビビとくるポイントが複数あり、偶然入って以来お気に入りの店になった。いつ行っても変わらない。何気ない料理にも感動が詰まっている。今自分が練馬区にいることをうっかり忘れてしまう。
「新鮮組」で初めて飲んだのは、妻と暮らしはじめてすぐくらいだったから、もう十数年は前のことになる。
西武池袋線大泉学園駅北口から徒歩30秒。線路沿いに並ぶ雑居ビルの地下1階にあり、何気なく歩いていれば気づかずに通り過ぎてしまうくらいの存在感だ。けれども僕は酒に意地汚い男。新撰組をもじった店名に、鮮の文字の「魚へん」が魚のイラストになったかわいらしいロゴマーク、そして長崎県の五島列島から直送される鮮魚類が売りであることなど、個人的にビビビとくるポイントが複数あり、妻と入ってみたのだった。
するとここが名店だった。料理はうまいし、それでいてリーズナブルだし、なにより家族経営らしいアットホームさが居心地抜群。以来、夫婦のお気に入りの店となり、よく通うようになった。ところがその後引っ越しをして、家がお隣の石神井公園にぐっと近づいたこともあり、しばらく足が遠のいてしまっていた。しかし2年ほど前、久しぶりに訪れてみたら、かつてとなにも変わらないその様子に感激し、ふたたびよく足を運ぶようになったというわけだ。
店内は外観から想像するよりも広々としており、テーブル席も潤沢。壁の一角にある本棚に、漫画の単行本がずらりと並んでいるのが酒場としては珍しいが、そういったディティールにご主人の人の良さが現れているようだ。奥にはこれまた広々とした座敷席があり、壁際に日本人形が飾られていたり、おもちゃや絵本が置いてあったりして、まるで親戚の家に遊びにきたような雰囲気。これらもまた、子ども好きのご主人が、家族連れのお客のために増やしていったものなのだそう。当然、地元民を中心にファンが多く、店内はいつでも大盛況。複数人での宴会などは、早めに予約をしないと席が埋まってしまっていることも多い。

先日、当連載に関する定期的な打ち合わせも兼ねて、担当編集者である森山裕之さんと、この店を訪れた。森山さんも僕と同じく石神井公園住民だが、訪れるのは初めてだったらしく、しきりに「こんないい店があるなんて知りませんでした」と感激されていて、勝手に鼻が高かった。
なんと言っても、日替わりメニューが良い。几帳面な文字で毎日手書きされるそれは、品数豊富でどれもこれも魅力的。本当ならばすべて列挙したいくらいなんだけど、とてもスペース的に難しいのが残念だ。
訪れた1月某日を例にとると、まずいちばん左上に「自家製からすみ大根」がくる。からすみが自家製だ。しかも税込580円。続く「牛すじ」ものは、バリエーションとして、煮込み、豆腐のほかに、五島列島名物である細麺の「五島うどん」があるのが嬉しい。ちなみに麺は、五島うどんのなかでも高級品「群青の汐の花」を使用とのこと。
単品料理は幅広く、「五島魚団子とナス揚げ出汁」「刺身山かけ」「魚しそ巻き天ぷら」などの和風もあれば、「自家製トマトソースピザ」「フィッシュ and チップス」「カニクリームコロッケ」などの洋風もある。もちろん、ご主人の出身地であるという五島列島直送の刺身や貝類に、もうひとつの目玉である鯨料理も、刺身、ベーコン、竜田揚げと多彩。
お通しも毎回楽しみで、この日はゆでた小さなブリの身に、和風のソースが添えられた小粋な一品だった。これをつまみに「アサヒ生ビール 中ジョッキ」(530円)を空けたら、この日はなんだかふたりとも熱燗モードで、以降は「日本酒 2合」(690円)のとっくりをお燗してもらって、ひたすらおかわり。ちなみに、地酒も焼酎も豊富にあるから、酒にこだわりのある方もご心配なきよう。
行けば必ず頼んでしまうのが「刺身五点盛」(1080円)。この日の内容は、地ダコ、メジナ、メジマグロ、マダイ、平政の5種。笹のすだれと葉をあしらった大皿に色とりどりのつまとともに盛られたその姿は、高級和食店にも引けをとらず、毎度感激してしまう。もちろん鮮度も抜群で、今自分が練馬区にいることをうっかり忘れてしまうほどだ。
春の訪れを感じて嬉しい「うどキンピラ」(400円)は、洗練と野趣が交錯する絶品。「出し巻き玉子」(530円)の仕上がりも美しく、噛みしめればふくよかなだしがじゅわりと染み出す。普通の刺身とは趣向が違う「(刺身)ユッケ」(600円)は、細長めにカットされた刺身数種に甘辛いたれとごま、ねぎがあしらわれ、頂点にはブランド玉子「奥久慈卵」の真っ赤な黄身がのる。全体を混ぜて食べれば、とろりと濃厚な味わいが刺身に絡んで夢心地だ。
この日の僕に特に沁みたのが「厚揚げにら正油」(450円)。自家製らしい厚揚げは、外はさくさく、なかはとろりで、揚げたて熱々。そこにかけられたにら醤油だれの、にらの刻みかたがとても繊細で、ごま、ねぎ、醤油とのバランスも完璧。こんな何気ない料理にも感動が詰まっているんだから、やっぱりご主人、ただものではない。
この店に関してはもうひとつ、印象的なエピソードがある。
以前、ふだんはあまり関わることのない、多ジャンルの方が出演するトークイベントにゲスト出演させてもらったことがあった。それぞれの出演者が偏愛するものをプレゼンするという内容で、僕はいつもと変わらず「酒場の肉豆腐の多彩な魅力」について語らせてもらった。当然、石神井や大泉など、地元の話題も多くなる。
そこに、僕ではなく他のゲストの方を目当てに遊びに来ていた、ある女性のお客さんがいて、僕がやたらと地元の話をしているのを見て声をかけてくれた。
「私の父、大泉学園で居酒屋をやってるんです」
僕は驚き、どこの店かと尋ねると、なんと新鮮組! 思わずあふれ出す愛を気持ち悪いくらいの熱量で語ってしまったことは今になって反省しているが、それから彼女とは、地元のイベントなどでたまに顔を合わせるようになった。
お話によれば店の厨房には今、彼女のお兄さんも手伝いで入っているらしく、なんとも頼もしい話だ。これからもご家族で、地元住民の癒しの場であるこの名店を守っていってほしいし、いち酒飲みの僕は、末長くその恩恵に預かりたいと思っている。

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次回第43回は2026年3月5日(木)17時公開予定です。
筆者について
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。







