インターネット広告の価値証明「インクリメンタリティ(増分割合効果)」とは?

学び
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インターネット広告が登場したのが1990年代。それから20年あまりのうちに、「インターネット広告なんて」と施策から切り離されていたところから、「インターネット広告も」と存在価値を認められる時代へ。さらには、タッチポイントのプランニングや予算を考えるときに「まずはインターネット広告から」へと、インター ネット広告は立場を大きく変えました。そして今や、マーケティングにデジタルが使われないことはほぼなくなりました。
そんなデジタルマーケティング史を軸に、広告にまつわるテクノロジーや当時の社会情勢など30年分の「知っておくべき」がこれ一冊にギュッと詰まっています!

効果を証明して存在価値を認められたいデジタルマーケティング業界

2000年から2003年にかけては、インターネット広告の担い手たちが、自らの「存在証明」を模索していた時代とも言えます。中小企業は前述の通り、インターネット広告を積極的に活用し始めていましたが、インターネットに広告を出稿しても、既存の広告効果検証手法では、効果が証明されないため、大企業からは価値や効果が認められない時期が続いていました。

実際、この頃の一般的なインターネットの利用方法は、電子メールでのコミュニケーションと、検索エンジンを使った情報検索が中心です。インターネットユーザー数がまだまだ大規模ではなかった上に、見ているサイト、読んでいるメールがばらばらでした。ひとつのインターネット広告に触れる人数はまだまだ少ない状況です。そうなると、広告効果を計測するためのアンケート調査で、「このバナー広告を見ましたか?」「このウェブページを見ましたか?」と尋ねても、テレビCMの場合と同じ規模の“数値として見える結果”が出てくるわけがありません。調査結果では、インターネット広告の効果はないに等しいものだったのです。インターネット広告を売りたいという欲望を持つ広告事業者側は、企業に対して効果をなんとか示すために、必死になって論拠となる数字を見つけようとしていました。

そうして、価値証明のために出てきたのが「インクリメンタリティ(増分割合効果)」と呼ばれる概念でした。ここで使われるインクリメンタリティとは、「広告効果によるビジネス成果の純増分」を意味します。要するに「その広告を出稿することで、出稿しなかった場合と比べて、実際に商品がどれだけ売れたか」を示す数値です。これであれば、インターネット以外の広告と比べた数値の大小ではなく、増えたか/増えなかったかにフォーカスすることが可能になるはずですが、それも当時は理解されにくく、なかなか有効な手段とはなりえませんでした。

図 インクリメンタリティ

例えば、シャンプーのメーカーがテレビCMを流した後に、実際に自社のシャンプーの売れ行きが増加したとします。その売上増加がCMの影響なのか、それともCMに合わせて店頭の展開を強化したためなのか、はたまた別の要因なのか、正確に把握できなくてはいけません。しかし、広告そのものがどれだけ売上に繋がったのかを把握するのは、容易なことではないのです(図)。

今でこそ、
・広告によって態度が変わり、購買意欲が高まった人
・広告に接触する前から、もともと購買意欲が高かった人(広告にかかわらず購買意欲があった人)
を分けて広告効果を把握し、PDCA<Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)>をうまく回すことが、効果的なプロモーションを実施するポイントだということは広く知られています。しかし、この時代は広告業界も広告主もこのことを十分にはわかっていませんでした。なぜなら、現在のような統計学に基づくデータ分析を行う手法が確立しておらず、広告業界に「データサイエンティスト」と呼ばれる統計データを分析できる人材がほとんどいなかったからです。インクリメンタリティはマーケティングにおける重要な概念ですが、十分なデータの裏付けがあってこそのものでした。

しかし、この時代にインターネット広告に携わっていた人々が、自分たちのインターネット広告の効果を証明するために必死にがんばったからこそ、ログの解析をはじめとする広告効果の分析技術がどんどん発達し、本書の後半に述べるように、インターネット広告がテレビCMと双璧をなすような巨大な広告メディアとなったのです。

* * *

本書では、1990年代後半から現在にかけてのインターネット広告の変遷を具体例と共に解説しています。テクノロジーが広告業界に与えた影響、また広告業界の欲望が後押ししたテクノロジーの進化についてより詳しく知りたい方は、現在発売中の『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』(森永真弓/太田出版)をチェック!

筆者について

もりなが・まゆみ。株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所上席研究員。通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。共著に『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(マガジンハウス)がある。

  1. 「史上初のバナー広告?」ITテクノロジーの発展とインターネット広告の誕生
  2. インターネット広告の価値証明「インクリメンタリティ(増分割合効果)」とは?
  3. リーマンショックが広告業界に与えた影響と“アドエクスチェンジ”サービスの台頭
  4. スマートフォンの主流化で“非デジタル”マーケティングの存在しない時代へ
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