大袈裟なウソほど騙される⁉「コロワイド事件」に見るM資金詐欺の実態

M資金 欲望の地下資産学び
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昭和から次々と大物財界人や著名人が飲み込まれてきた「M資金詐欺」をご存知だろうか? 戦後に端を発する長い歴史を持つ、ある意味「伝説的」なこの詐欺は、暗号通貨やメタバースが世界を覆い尽くそうとする令和になってもなお、その「魔力」を持ち続けている。時代から時代へと一部の人間を次々と魅入らせてきた“幻”=「M資金」。その正体を追ったノンフィクション『M資金 欲望の地下資産』が、2022年7月26日(火)に発売された。
今回は、2020年の犯人グループ逮捕によって明るみになった「コロワイド事件」について、本書から一部ご紹介する。

千代田区Zビルディング~コロワイド事件~

被害総額約31億円以上という莫大な額のM資金詐欺事件を起こした男たちは主犯格と目される武藤薫、そしてXとYら3名で全員50歳以上の男性だった。Xに至っては79歳という高齢者だった。

彼らが詐欺容疑で神奈川県警捜査二課によって2020年6月から7月にかけて、それぞれ逮捕されたことでこの事件は明るみとなった。

マスコミは「M資金詐欺!」と大々的に取り上げ、市民は「そんなやり方で騙される人がいるのか?」と仰天し、約31億円以上という巨大な被害総額に唖然となった。

このM資金詐欺事件の被害者となったのは会社経営者・蔵人金男会長(72歳)だった。

蔵人会長は日大藤沢高校卒業後、父親が経営していた神奈川県逗子市にあった甘太郎食堂の経営を引き継ぎ、手作り居酒屋甘太郎一号店を開店したのを手始めに、甘太郎を有力チェーンに押し上げながら、有名回転寿司チェーンのかっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイト株式会社や有名焼肉チェーンの牛角、しゃぶしゃぶ温野菜、フレッシュネスバーガーを運営する株式会社レインズインターナショナルなどを次々と買収し、一代で外食産業大手『コロワイドグループ』を築いたビジネスマンであり、神奈川県逗子市内でも資産家として有名だった。このような立志伝中の人である蔵人会長が、いったいどのようにしてM資金詐欺の被害者となってしまったのか?

武藤、X、Yの3名は、東京・丸の内にあるZビルディングの高層階にあるレンタルオフィスに『一般社団法人アジア経済協力会議所』を構えていた。

この社団法人は、すでにXとYが持っていたジャパンドリームという会社を発展させたものだった。そして武藤は、この社団法人を根城にして自らのことを『元財務省事務次官』で『東京オリンピック・パラリンピック組織委員会事務総長の武藤敏郎の甥』と称した。また国際通貨基金で働いていた『マック・アオイ』と名乗ることもあった。

社団法人格とはいえ、社屋はレンタルオフィスである。しかし『元財務省事務次官』『東京五輪関係者の親族』『国際通貨基金のマック・アオイ』と、信頼されやすい要素が大いにあった。

武藤がオフィスをレンタルしていたZビルは、東京駅から徒歩数分圏内で皇居を目前としており、ビル内には財閥系の有名企業本店や高級腕時計ブランド、海外銀行の支店もあり、歴史と威厳ある立派な建物だが警察や裏社会の筋ではZビルが持つブランドイメージが悪用されて『詐欺師ビル』として認識されている有名な場所だ。

たとえば2012年、杏林製薬株式会社の創業者一族間で起きた被害総額約10億円と言われる架空土地取引詐欺事件で逮捕された犯人グループのアジトも、このビル内のレンタルオフィスだった。

2012年の報道ではこの犯人グループのアジトがZビルであると言及され注目されることはなく、この杏林製薬事件以降も複数の詐欺グループがZビルの歴史と威厳を悪用するため、ビル内のレンタルオフィスに入居しダマシ(シゴト)を繰り返しており、Zビルは当局の捜査関係者や裏社会では「皇居前の詐欺師ビルか」と苦笑交じりで語られている。詐欺師の世界では「舞台装置は大掛かりなほうがいい」と言われている。この言葉には客(被害者)に対して自らを大きく見せれば見せるほど客は信用し、その威厳にひれ伏すのでダマシ(シゴト)がやりやすくなるという意味が含まれている。

確かに着古しのスーツよりも最新のブランドスーツを着こなした人物のほうが優秀に見えてしまい、プレハブ小屋で儲け話をされるよりも高級ホテルのスイートルームで密かにされる儲け話のほうに信憑性を持ち、手書きの図面よりもコンピューターで設計された図面のほうが、より正確だと思い込んでしまう。人間の無意識下における権威への盲目的信頼性というものである。

2000年代にM資金話で数々の芸能人たちを騙した詐欺師は某財団法人の理事長を名乗り、打ち合わせは常に一流ホテルの一室を使用していた。また同時期に発生した皇室を騙ったM資金詐欺事件で、犯人は被害者に対して「明治天皇の孫で日本全国を講演している」と偽り、権威付けしていた。

Zビルのレンタルオフィスは月の家賃が15万円からで、東京・丸の内の一等地にある。内装やフロア演出についてはチープなレンタル感が抑えられ、この立地に相応しい高級感が醸し出されている。それゆえ、ここがレンタルオフィスであると説明をされない限り、しっかりとした会社のオフィスと勘違いしてしまうだろう。

その住所に登記された『一般社団法人アジア経済協力会議所』という重厚な看板を掲げ、元事務次官の肩書を偽り、東京五輪関係の利権話や苦労話を当たり前のように語られたターゲットは「この人は丸の内の経済人だ」「日本経済界のやり手だ」と錯覚してしまうのだ。

蔵人会長に対するダマシの流れは、まずXとYが過去にM資金話のネットワークで知り合った大学関係者のツテを頼りにして、2017年頃に蔵人会長と接触したことからはじまった。

会長は彼らの看板や見た目や人脈に対して「身なりもしっかりしていて本物だ」と思わされてしまったそうだ。

極めつけにXとYは「当法人がZビルの陰のオーナー(ビル全体のオーナー)である」と大ウソをついたという。これも自分たちのことを『大きく見せる手口』のひとつだった。M資金詐欺の変形類似型で活躍した女詐欺師の天野光子も、自身のことを「国際興業創始者で帝国ホテル会長職も務め、ホテル王の異名を持つ大実業家・小佐野賢治の隠し子であり、正統な相続権者である」と大ウソをつき、ダマシの看板とした。

岩合直美はロールスロイスを乗り回して、自身が上流階級の住人に見えるように演出した。

詐欺師たちは自分を大物に見せることで、相手を信じ込ませることに長け「大物の私が、特別に、あなたにだけ、儲け話を教えてあげましょう」と相手の物欲心や自尊心を最大限に刺激することが巧妙なのだ。

* * *

※この続きは現在発売中の『M資金 欲望の地下資産』にてお読みいただけます。

本書では、今回紹介した内容のほかに、全5章に渡ってM資金の誕生から現在も続く令和のM資金詐欺の手口、詐欺師たちの生態、M資金に群がる大手企業などの経済人、M資金最新の手口や次の“生贄”とされる危険について記されています。本書内にはM資金関連年表も掲載。令和のM資金詐欺問題に立ち向かうための必読書です。

筆者について

ふじわら・りょう。週刊・月刊誌や各種web でアウトロー分野の記事を多数執筆。マンガ原作も手がける。万物斉同の精神で取材・執筆にあたる。

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