借金地獄から詐欺の世界へ──財界の大物をも虜にした美貌の女詐欺師・岩合直美

M資金 欲望の地下資産学び
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昭和から次々と大物財界人や著名人が飲み込まれてきた「M資金詐欺」をご存知だろうか? 戦後に端を発する長い歴史を持つ、ある意味「伝説的」なこの詐欺は、暗号通貨やメタバースが世界を覆い尽くそうとする令和になってもなお、その「魔力」を持ち続けている。時代から時代へと一部の人間を次々と魅入らせてきた“幻”=「M資金」。その正体を追ったノンフィクション『M資金 欲望の地下資産』が、2022年7月26日(火)に発売された。
今回は、M資金を利用した詐欺グループの中でも異彩を放つ、有名女詐欺師について一部ご紹介する。

伝説の女詐欺師・岩合直美~岩合グループ~

通称『岩合グループ』のリーダー格である岩合直美は、何度も週刊誌に取り上げられるほどの有名な美人女詐欺師である。

インターネット上には当時の週刊誌記事だけではなく、本人の顔写真やあらゆる情報が氾濫し、容易に彼女が起こした数々の事件を知ることができる。まさに彼女は詐欺業界や裏社会のみならず、多方面でその名を知られた存在となっている。

岩合直美は高知県で生まれた。地元の高校を卒業後、老舗百貨店の高島屋に勤務。1985年頃に納入業者社長の愛人となり、その社長が借り入れた借金10億円の連帯保証人となってしまう。

連帯保証人になったせいで借金地獄に陥る苦しい人生を歩みそうだが、ここから彼女の詐欺師としての才能が開花し、岩合直美は数奇な人生を歩むことになる。

岩合は愛人だった納入業者社長に見切りをつけて、その社長に10億円を貸していた金融会社会長・具 次龍氏の愛人となり、10億円の連帯保証人という立場をウヤムヤにしてしまったのだった。

具 次龍氏は朝鮮総聯全国商工会の副会長で、朝銀東京信用組合の副会長も務め、東京都内の半蔵門駅から徒歩数分の龍伸ビルで金融業の『龍伸興業』を営んでいた。

この会社は一般的な金融業ではなく、選挙に落選した政治家たちに対して次の選挙までの生活費や活動費、選挙資金を貸すことを主とする特殊な業務内容であった。莫大な資金を運用していた具氏は『朝鮮総聯における日本国内の金庫番』とも呼ばれていた。

そして岩合は具会長に対して、自分が経営していた会社を『高島屋と取引している大口納入業者』に見せかけて「私の会社に投資してもらえれば高島屋に確実に納品できるので、あなたにその分の見返りとして報酬を渡すことができます」と説明した。そして岩合は納品商品の購入経費として、具会長から総額約3600億円の現金を引き出したのだ。これが岩合の女詐欺師としてのデビューだったと言われている。

約3600億円もの大金を愛人という立場を巧みに利用して引き出すことに成功した岩合は、ここからさらに自身の美貌を最大限に活用してヤマを踏んでいく。

標的の男性を自らホテルや自宅に誘い、全裸に近いシースルーのネグリジェ姿で籠絡し、毒牙にかけることも珍しくなかった。権力のある男ほど自分にとって勲章やトロフィーのような、特別な価値や意味のある女を求めることを熟知していた彼女は、常に自らを高く売った。

岩合はそのように見せる自己演出が非常に巧妙で、男心を操り、金を引き出させる天賦の才能があったようである。

彼女は偽造した経費明細や納品伝票をタテにして、高島屋への納入業務をやっているかのように装いながら、具会長から引き出した約3600億円を原資に不動産と株式の投資をはじめた。

この時期、岩合は具会長のコネクションに食い込み、具会長以外にも複数の男性たちの愛人を同時にやってのけ、着実に人脈を広げていった。

そして彼女は自ら投資するだけではなく、他人の金を投資にまわす『資産運用』にも手を出すようになった。1988年頃は、まだまだバブル経済期で、不動産投資や株式投資が大流行していた。

この頃の岩合は「あの具会長の愛人で自らもロールスロイスを乗り回す男勝りのやり手」と呼ばれ、証券街である兜町や永田町界隈でも『錬金術師』として一定の評価を得ていた。

「表向きは具会長の愛人だが、実際は小泉純一郎(当時は厚生大臣)の愛人だ」とも噂されるぐらいだった。岩合自身が根拠もなくそう吹聴した。

そして着々と政財界にコネクションを広げていき、知り合った会社社長の現金を預かり、それを自分の懐に入れていったのだ。これで彼女はさらに総額数十億円もの詐欺行為を成功させた。

彼女が預かった金を持ち逃げしても会社社長たちから訴えられなかったのは、ほとんどの社長たちと彼女が情を交わした『愛人関係』になっていたからだった。

加えて彼女が掠め取った現金は、それぞれの会社の裏金で『表に出せない現金』だったことから、彼女が訴えられることはなかった。

彼女は金になるとわかれば某指定暴力団の会長からでさえも多額の現金を掠め取ったと言われている。

岩合に多額の現金を獲られた某指定暴力団の会長は「女相手に取り立てはできん」と見逃したそうだ。推定で10億円以上はカモられたはずだが、それを見逃す会長も見上げたものだ。しかし、きっと岩合は天賦の『犯罪的嗅覚』で、この結末を予測していたのかもしれない。したたかなオンナであったと言える。

しかし、時代がバブル絶頂から終焉を迎えるのと軌を一にするように彼女も詐欺師としての活動に陰りが見えてきた。

1989年頃、高島屋の納品の件で約束した儲けがまったく渡されないことに業を煮やした具会長との関係が悪化したのだ。執拗に分け前を迫る具会長に対して岩合は配下の者たちに命じて、具会長を軽井沢の別荘に監禁した。

具会長は監禁された別荘から隙をついて脱走、ただちに警察へ被害届を出した。これにより岩合は営利略取・監禁容疑で当局に逮捕され、1990年に執行猶予判決が下された。

本来ならば、岩合には明らかに実刑判決が下される罪状だったが、彼女と具会長の関係が『愛人関係』であったことから、審理は不透明さをはらみ、初犯ということもあって執行猶予の判決が下されたのだ。

その後も、具会長は岩合を詐欺容疑でなんとか立件しようとしたが、ここでもやはり愛人関係だった事実が足かせとなった。

彼女は「私の浮気が気に入らなくて彼は意地悪してるのよ」と、事件自体が痴情のもつれかのように言ってのけた。

その後、具会長は1994年に新宿区内のマンションで至近距離から発砲され、その人生を終えた。

総聯の金庫番とも呼ばれ、日本の政財界に強大な裏権力を有していた具会長を長年に渡って手玉に取った彼女だったが、執行猶予判決を受けた後は『小泉純一郎の元愛人』と勝手に名乗り、配下の者たちを使い、政財界の人間をターゲットに投資詐欺を繰り返して『M資金詐欺』を扱うようになった。

そして、詐欺業界では彼女と配下の者たちのことを『岩合グループ』と呼ぶようになった。

岩合グループは岩合直美を中心に、現役議員やその秘書、そして現役官僚や官僚OBといった錚々たる顔ぶれで構成されているが、主要なメンバーは5~6人と言われている。

大手町グループや新橋グループのように明確な活動拠点はないが、主に東京都内や京都・大阪府内の富裕層エリアでの活動が目立つ。

彼女らはM資金信者、トレジャーハンターなのか? その答えはノーだ。

岩合グループは、その豊富な人脈を活かして、ありとあらゆる詐欺行為に手を染めている詐欺師集団である。

そして70歳過ぎという高齢となった岩合は2014年頃から『M資金詐欺』に積極的になった。これが彼女の詐欺師としての最後のヤマとも言われた。

彼女がM資金詐欺を選んだのは、詐欺被害金額の大きさである。一度の詐欺で大金を手に入れるには、M資金詐欺が丁度いいと考えたようだ。

詐欺をするような人間には、慈善的な思想はなく、経済人として一国の経済の潤滑や繁栄に貢献する気もなく、とにかく金、金、金の意識だけだ。

あらゆる経済行為が電子化された現代では、たとえば大金を狙いやすい手形詐欺はもう通用せず、長引く不景気も手伝い、彼女のデビュー戦のような高額狙いの取り込み詐欺も鳴りを潜め、他の詐欺も同様に少額狙い(といっても数千万円単位の儲けは可能なのだが)となってしまっているため、岩合にとってはどれもこれも最後のヤマとするにはやや魅力的ではなかった。

一時、推定で数千人規模の偽医師を発生させたとさる医学部への裏口入学詐欺や医師免許取得詐欺は、リスクとベネフィットの観点から考えると、そこまでのうま味もなく、入試制度の変化など、時代の流れによって、今となってはやりにくい状況となった。

また、振り込め詐欺や、海外の取引先を装ってメールを送り、事業経費などを送金させるBEC(Business Email Compromise)詐欺などは、高齢者詐欺師集団の岩合グループでは、新しい分野に対する知識と技術のなさから、やりたくても取り組みようがなかった。

そのため岩合グループは、一攫千金のM資金詐欺に前のめりとなり、M資金ブローカーと成り果てたトレジャーハンターたちと精力的にコンタクトをとるようになったのだ。

* * *

※この続きは現在発売中の『M資金 欲望の地下資産』にてお読みいただけます。

本書では、今回紹介した内容のほかに、全5章に渡ってM資金の誕生から現在も続く令和のM資金詐欺の手口、詐欺師たちの生態、M資金に群がる大手企業などの経済人、M資金最新の手口や次の“生贄”とされる危険について記されています。本書内にはM資金関連年表も掲載。令和のM資金詐欺問題に立ち向かうための必読書です。

筆者について

ふじわら・りょう。週刊・月刊誌や各種web でアウトロー分野の記事を多数執筆。マンガ原作も手がける。万物斉同の精神で取材・執筆にあたる。

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