現在進行形で起きているM資金詐欺─人々を魅了する「M資金」とは何なのか?

M資金 欲望の地下資産学び
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昭和から次々と大物財界人や著名人が飲み込まれてきた「M資金詐欺」をご存知だろうか? 戦後に端を発する長い歴史を持つ、ある意味「伝説的」なこの詐欺は、暗号通貨やメタバースが世界を覆い尽くそうとする令和になってもなお、その「魔力」を持ち続けている。時代から時代へと一部の人間を次々と魅入らせてきた“幻”=「M資金」。その正体を追ったノンフィクション『M資金 欲望の地下資産』が、2022年7月26日(火)より順次発売される。
今回は本書より、著者・藤原 良が如何にして本書を執筆するに至ったか、そして「M資金」とは一体何なのか……その概要について記された内容を一部ご紹介する。

「M資金」との思いがけない邂逅

「藤原さん、M資金に興味ありますか?」

ある事件に関する取材を進めているなかで知り合った人物にこう言われた。

今から6年近く前のことだ。

「M資金……ですか? たまに事件の話は聞きますけど、今じゃ古典的な手口すぎて誰も騙されないでしょう?」

「それがここ数年でまた復活してきてるんですよ。しかも、相変わらず標的は財界の大物ばかりです。もし取材にご興味あれば、関係者に繋ぎをつけますよ」

M資金といえば、昭和の詐欺事件で度々浮上した詐欺師の常套句のひとつである。

財界人や著名人をターゲットに、日本やアメリカなどの政府機関関係者と偽った詐欺師がねつ造した資料を使い、「戦後復興のどさくさに紛れて消えた莫大な金額の日本の隠し資産。それを秘密裏に引き出すのでご協力を……」と、もっともらしい説明をして金を出させて消えるというのがM資金を使った詐欺の典型だ。

「今時、財界人が果たしてそんな手垢だらけの手口に引っかかるのだろうか?」

そんな疑念を持ちつつも『M資金』というキーワードに妙な懐かしさを覚えた私は、その人物にM資金詐欺関係者たちへの繋ぎを依頼したのだ。

その結果、思いもよらず執筆段階で『現在進行形で起きているM資金詐欺の現状』の数々に遭遇することになった。

本書は、平成から令和にかけて、すでに消えたと思っていた『M資金詐欺』を今も生業としている詐欺師たちの生態、どうしてこんなにも使い古された手口に人々が引っかかってしまうのか、そしてM資金詐欺がこの世からどうして消え去らないのか、その奇妙なメカニズムを追った記録である。そこには仮想通貨やメタバースがどれだけこの世を覆っても、最後の最後で覆いきれない何かがあった。

これが世に出ることで多少なりとも被害根絶の一歩となることを切に願う。

M資金とは何か

M資金の頭文字である『M』には諸説ある。一般的には第二次世界大戦終戦直後(1945年)ポツダム宣言執行による日本の占領政策を実施するべく、東京都千代田区に設置された連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)最高司令官だったダグラス・マッカーサー元帥の下で、経済科学局の局長を務めたウィリアム・フレデリック・マーカット少将のイニシャルである『M』が由来とされている。

言うまでもないが、ポツダム宣言とは第二次世界大戦終結における日本の降伏に関して連合国が定めた要求書で、1945年8月、日本が受諾。同年9月、降伏文書として調印・発効されたものだ。この宣言に基づき1952年のサンフランシスコ講和条約が発効されるまでの約7年間、日本はGHQによる占領支配を余儀なくされた。

その占領下でマッカーサー元帥直属の側近グループ『バターンボーイズ』のひとりとして腕を振るったのが、前出のマーカット少将だった。彼は経済科学局長として日本の財閥解体などの経済政策を主導しつつ『旧日本軍の隠し財産』の調査・押収を進めていた。旧日本軍の隠し財産とは、戦費を稼ぐために軍主導でおこなわれていた経済活動の成果であり、敗戦不可避と判断した軍の一部がその成果物を連合国に戦利品として押収されるのを嫌って極秘に保管し、主に敗戦後の反撃用戦費や日本軍再興費用として各地に隠匿した軍資産である。

この隠し財産の存在については、山下泰文大将率いる日本軍がフィリピンに隠したとされ、いまや『山下財宝』として知られている。都市伝説と見る向きもあるが、大本営の情報参謀であった堀栄三が金塊による兵站維持計画について証言しており、この計画で日本からフィリピンに移送された金貨が後に山下財宝と呼ばれる代物になったようだ。

第二次世界大戦に参戦した日本の戦費総額は、大蔵省(現:財務省)が発表したものだけでも当時の金額で約7600億円。これは現在(2021年)の価値にして約4400兆円以上にものぼる。

戦費には国民からの税徴収だけでなく、進軍先となった諸外国内で戦争手形と呼ばれる軍票を乱発しての現地通貨調達も含まれた。これは主に帝国陸軍の任務であり、軍内部では資金調達グループが複数配置され、それぞれのリーダー格の苗字を冠した「〇〇(苗字)機関」と呼び、戦後の政財界でフィクサーと呼ばれた児玉誉士夫が率いた上海の『児玉機関』などは後に広く知られるようになった。

各機関はこういった経済活動の他にも各地で戦利品として、現地での金塊、宝飾品、美術品など押収し、戦費に充当していた。また軍票による資金調達だけでなく、さまざまな非合法ビジネスによる収益も確保していた。

終戦間際の日本軍には弾薬はおろか食料すらなかったというイメージもあるが、各地域で押収していた金塊などを駐屯先の現地通貨で現金化したり、食糧などを買いつける補給ルートが連合国軍の猛攻により途絶えていただけで、すべての戦線に財産がなかったというのではなく、それまでのような経済活動ができず、物資の入手が困難となり、保管していた財産を使用できない状態にあった。

つまり、大蔵省が発表した戦費総額よりも『公表されていない資金や財宝』『使い切れなかった財産』が各国にあったのだ。その一部は連合軍に押収されることもなく『隠された財産』と呼ばれるようになった。その中には前述した山下財宝のような都市伝説レベルの情報も多いが、戦後の混乱で氾濫していた情報をもとにGHQが調査をおこない、昭和21年、東京湾芝浦沖の海底から金塊103個を含む貴金属が発見された。一時は『天皇の隠し財産』とも言われたが、噂好きや識者たちの間で議論が繰り返された結果、発見場所の近くに軍の関連施設があったことから「これは旧日本軍の隠し財産である」との見方が強まり、それまで謎に包まれていた旧日本軍の隠し財産が『実在する財産』として認識されるようになった。

そして、マーカット少将率いる調査隊は次々と押収した隠し財産を戦時中の記録にもとづいてオランダなど返還すべき国に戻し、さらに日本の戦後処理や反共工作活動の費用として公的に流用した。

その後、経済科学局の管理下にあった日本銀行(日銀)の金庫管理担当者だったGHQ職員が保管されていた隠し財産の一部であるダイヤモンドを不正に持ち出し、米当局に逮捕され、日本の国会でも話題となったことで旧日本軍の隠し財産は『実体をともなった財産』として世間に認知されるようになった。

また敗戦時の混乱に乗じて、海外で秘匿されていた旧日本軍の隠し財産を私物化した者がいたり、在外邦人から届けられた援助物資(ララ物資)が闇市に流れるなどの不正行為を働く者も目立ち始めたため、1947年、それらを摘発すべくGHQ主導で検察庁内に隠匿退蔵物資事件捜査部(後の東京地検特捜部)が設置され、隠し財産の存在はますます庶民に広く知られるようになった。

サンフランシスコ講和条約が発効された1952年まで日本は戦勝国による占領統治下での焼け野原からの復興という大きな国家テーマの渦中にあり、一般国民の大半が貧しかった。しかし朝鮮戦争(1950~1953年)による軍事特需を契機として戦後不況から脱却し、経済成長率は毎年平均10%上昇という右肩上がりが続く高度経済成長期に突入した。1960年には、当時の池田内閣が国民所得倍増計画を打ち出し、わずか7年間で国民総生産を2倍にするという驚異的な経済成長を遂げたのだった。

* * *

本書では、今回紹介した内容のほかに、全5章に渡ってM資金の誕生から現在も続く令和のM資金詐欺の手口、詐欺師たちの生態、M資金に群がる大手企業などの経済人、M資金最新の手口や次の“生贄”とされる危険について記されています。本書内にはM資金関連年表も掲載。令和のM資金詐欺問題に立ち向かうための必読書です。

筆者について

ふじわら・りょう。週刊・月刊誌や各種web でアウトロー分野の記事を多数執筆。マンガ原作も手がける。万物斉同の精神で取材・執筆にあたる。

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