飢えている/梅津瑞樹『残機1』重版記念!お試し読み第1回

カルチャー
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舞台『刀剣乱舞』(山姥切長義役)など人気作品に多数出演する傍ら、鴻上尚史主宰の「虚構の劇団」に所属し役者としての高い実力と類稀な美貌で注目を集めている俳優・梅津瑞樹、初の随筆集『残機1』(2022年12月8日(火)発売)の重版が決定! これを記念して、OHTABOOKSTANDでは、本書の中から6つのエピソードを抜粋し、特別に公開していきます。(全6回)
孤独と自意識に揺れ、もがき、あらゆる決めつけに抗って生きる。
「異端の2.5次元俳優」が“穴”の中から見つめる、その先にあるものとは――?

飢えている

先日、事務所に立ち寄った際、マネージャーから「梅津は欲がなさそうだね」というようなことを言われた。

その時は、今こうして演劇で生計を立てられている状況こそ欲していたことなので、というような返答でお茶を濁したが、帰宅する道すがら、思い返せばこれまでの人生、「欲が薄い」と言われることが度々あったように思う。

対して、自分では専ら欲の深い人間だという自負はあったが、同時に欲が薄そうに見える原因にも心当たりがあった。

己の欲望が露呈してしまうのを恥ずべきことだとして、ひた隠しにする如何にも日本人らしい慎ましさであればまだ良い。

欲望に忠実である、更に言えば、感じたことが表に出ているように見えるという謂わば、ある種無防備な状態を意識的に晒す勇気が僕にはない。何故なら、そうした状態で己から表出したものが、誰の心にも届かず、見て見ぬ振りをされて流れていくのが堪らなく恐ろしいからだ。

叫びたい程に心動いた瞬間に腹の底から吠えてみたい。心切り刻まれる程悲しければ、滂沱の涙を流してみたい。嬉しいことがあれば、その場で飛び上がって踊り出してみたい。

そうした衝動の根底には、誰かと分かち合いたいという至極シンプルな渇きがあるように思う。

さりとて、他者によって形作られた僕という人間の影法師と、自らこうあらねばと律してきた自意識が今や怪物のように肥大化したその身で覆い被さってくる。総じて、情報が肉付けされ過ぎて最早雪だるまのようになった自分というアバターをかなぐり捨て、自由になりたいという衝動にも苛まれるのでままならぬ。

芝居で食べている者の言葉ではないように聞こえてしまうかもしれないが、僕達は常に舞台上にいてスポットライトを浴びているわけではない。

去年の暮れ、『新サクラ大戦』が発売された。

長く続き、愛されてきたシリーズである。発売からしばらく経った今年の2~3月にかけて、秋葉原のヨドバシカメラではフェアが開催され、ゲーム売り場の一角には様々なグッズで彩られた『新サクラ大戦』のコーナーが設置された。

買い物帰り、何の気なしに立ち寄ったヨドバシでその一角を発見し、ボーッと眺めていた僕の背後から叫び声があがった。

「サクラ大戦だ!!!!」

甲高い叫びを上げて走り寄ってきたのはどこにでもいそうな中年男性。

周囲から彼に注がれる奇異の目を一顧だにせず、並べられたグッズを手に取っては感嘆の声を漏らしているその姿を眺めていたら、何やら胸の奥底が熱くなり、一人の人間の感情が迸る瞬間に立ち会えたことに無類の感動を覚えた。自由な心。僕はこうありたい。骨の髄から憧れ、同時に彼を妬ましく思った。

そうした出来事から、ついつい秋葉原に立ち寄ってしまうのは、彼のような人にまた会いたいという思いに突き動かされている部分が多分にある。

秋葉原はその街の特性上、何があるのかが公然のものとなっている分、自身の欲望が表面化していることに対して無自覚でいる人間が多いように見える。

人間性が剥き出しになっている様は、さながらゴーストであり、執着を感じさせる分むしろ生き生きとして映る。誰もが互いを知らない筈なのにはみ出たパーソナリティから嗜好がばれているのが愛おしい。まるでインディアンポーカーだ。

そんな彼らが行き交う様は百鬼夜行のようなお祭り感を醸し出しているので、最早踊らにゃ損損。僕もこの自意識の怪物を引き連れて、そのパレードの中で踊りたい。

この心の昂りを、飢えをいつか叫べるように。

写真=梅津瑞樹

* * *

本書『残機1』(梅津瑞樹・著)では、本エピソードを含めたエッセイ22作品の他、書き下ろしの短編4作品を収録。【通常版】に加え、【NFTデジタル特典付き特装版】【アニメイト限定版】【フォトブック付き限定版】の4バージョンで、好評発売中です。
詳しくは、以下のページ、または太田出版公式サイトをご確認ください。

SOLO Performance ENGEKI「HAPPY WEDDING」出演情報

(C)東映

東映が企画・プロデュースをする、一人芝居企画“SOLO Performance ENGEKI”の第三弾「HAPPY WEDDING」が上演決定! 第一弾でお届けした「HAPPY END」と同じ布陣で、完全オリジナルのまったく新しい一人芝居をお届けします。

【公演情報】
公演期間:2023年2月17日(金)〜2月26日(日)
会場:シアターサンモール
脚本:宮本武史
演出:粟島瑞丸
出演:梅津瑞樹
企画・プロデュース:東映
※チケット情報他、詳細は公式サイトにてご確認ください。

筆者について

梅津瑞樹

うめつ・みずき。俳優、表現者。1992年12月8日生まれ。千葉県出身。主な出演作は、舞台『刀剣乱舞』(山姥切長義役)、TVドラマ『あいつが上手で下手が僕で』(天野守役)、映画『漆黒天-終の語り-』(嘉田蔵近役)など。『ろくにんよれば町内会』(日本テレビ系)ほかバラエティ番組でも活躍するなど、活動は多岐にわたる。2020年、『GIRLS CONTINUE』Vol.2にてコラム『残機1』連載開始。その後、兄弟誌の『CONTINUE』でも同時連載。同コラムと書きおろし短篇を収めた同タイトル著書『残機1』にて、作家デビューを果たす。

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