2022年に翻訳されてほしい、アメリカで話題になった本5選 世代論、環境問題、ライフワークバランス

暮らし
スポンサーリンク

2024年3月31日、惜しまれつつもサイトが閉鎖されることになったWebメディア「Wezzy」。そこで掲載されていた記事の中から、OHTABOOKSTANDで「やさしい生活革命――セルフケア・セルフラブの始め方」を好評連載中の竹田ダニエルさんのコラムを、竹田ダニエルさんと「Wezzy」編集部の許諾を得た上、OHTABOOKSTANDでアーカイブしていくことになりました! 今後は貴重な論考をOHTABOOKSTANDにてお楽しみください。

※本記事は2022年1月1日に「wezzy」に公開されたものを転載しています。

 2021年の初めに連載「お砂糖とスパイスと爆発的な何か」の北村紗衣さんに、「フェミニズム本のブームが続くいま、2021年に翻訳が期待されるジェンダー関連本」という記事をお書きいただきました。ここ数年フェミニズム関連の書籍が人気を博している中で、翻訳されてほしい英語圏の書籍を紹介いただいたものです。

 今年は、ライターの竹田ダニエルさんに、ジェンダー関連に限らず、2021年に読んだ本の中から、ぜひ日本語に翻訳されてほしい本を5冊ほど選んでいただき、その内容を紹介いただきました。

『An Ordinary Age』(「平凡な時代」)

An Ordinary Age: Finding Your Way in a World That Expects Exceptional』(Harper Perennial)

■『An Ordinary Age: Finding Your Way in a World That Expects Exceptional』(「平凡な時代: 特別なことを期待される世界で、自分の道を探し出す」)

 「アメリカのZ世代事情」をメインに執筆活動を行っている私にとって、バイブルのような存在になった一冊。以前よりTeen VogueやForbesなどで、「今時の若者」に対するステレオタイプを誰よりも鮮明な解像度で覆してきたジャーナリスト、レインズフォード・スタウファーの初の文庫。

 出版前からSNS上で大きな話題になり、すでにホットなトピックになっている「Z世代」に関する議論において、初めてと言っても過言ではないほどしっかりとした文献として、2021年の最注目本リストにも数多く選ばれている。

 メディアによって作られた有害な世代間論争やマーケティング的な役割しか持たない「世代の特徴」を、社会的な背景や細やかな取材で深掘りすることで、より大きな問題提起を行い、今の若者たちが抱える危機感やストレスの原因を解明する。同時に「生きる希望」や「人生にとって本当に大切なもの」を得るために必要な価値観の変革を提示してくれる。

 さらには、コロナや不況、深刻な環境問題など、上の世代が行ってきた無責任な行いのツケを負わされている現代の若者たちに期待を背負わせ過ぎている現実に警鐘を鳴らしている。

 「今時の若者」に対するネガティブなステレオタイプを覆すべく、まさに「今」を必死に生きている若者のリアルな声を聞き、筆者本人(現在28歳)の実体験や切実な声を絡めて発信している一冊だ。

 行き過ぎた資本主義社会の中で生きていくためのセルフケアやSNSの活用方法など、当たり前かつ「クール」とされてきた処世術に対して批判的に、かつ冷静に向き合い、読んでいる側もつい共感し過ぎてエモーショナルになってしまうほど、包み隠さず全てを曝け出す著者。人生にとって本当に何が大切なのか、今の社会において何が足りていないのか、より自分を本質的に「愛し、大切にする」ためには現状の何を変えなければならないのか……を考えさせられる。

 リアルな世界でもSNSの世界でも常に「完璧」を目指すことが求められている社会において、何を持って「成功」とするのか。「大人」になりきれない若者たちの孤独や葛藤、絶望感はどこから来るのか、そしてそれらをどう癒して行けば良いのか。筆者と同世代のミレニアル世代とZ世代に強く共鳴するような、力強く、同時に寄り添うような文体でありつつ、「今の若者の現実」を知りたい大人にも、世界の見方が変わるような「共感性」を与える。

参考:「Deconstructing the Myth of the Avocado Toast Generation」

『No Planet B』(「第2の地球はない」)

No Planet B: The Teen Vogue Guide to the Climate Crisis』(Haymarket Books)

■『No Planet B: A Teen Vogue Guide to the Climate Crisis』(「第2の地球はない: Teen Vogueの気候危機へのガイド」)

 副題は「ティーン・ヴォーグによる、気候危機と向き合うためのガイドブック」。端的に紹介するならば、「Z世代のための環境問題対策マニュアル」だ。

 「報道」「アクティビズム」「インターセクショナリティ」の3部に分かれており、科学的に正確な情報を驚くほどラディカルに、そしてどんな年齢の人が読んでも明瞭に「行動」を後押しするような構成になっている。本書で取り上げられている主な声は(当時)10歳から25歳までの若者たちで、まさに「若者による、若者のための本」といえるだろう。本質的な事象を「子供向け」に簡易化するわけでは決してなく、若者をサポートしたい、未来のために行動を起こしたいという大人にもぴったりな内容だ。

 本書は、Teen Vogueのオンライン媒体に掲載された環境問題に関連する記事を集め、編集したものだ。32編のエッセイで、気候危機の厳しい現実を示しつつ、若い活動家たちの努力を称え、同世代に向けたインスピレーションとして紹介している。

 Teen Vogueという名前を聞いて、若者向けのオシャレでポップで、セレブのゴシップや恋愛アドバイスが中心のファッション雑誌を思い浮かぶかもしれない。

 しかし、現在の米国のTeen Vogueは紙面の販売を廃止し、オンライン上でのみ運営されている。メインストリームメディアにおいては最もZ世代に対してラディカルに教育的で、当事者たちの声を取り上げている媒体だと言っても過言ではない。ファッションだけではなく、ウェルネスやメンタルヘルス、ライフスタイルや社会、政治問題など、若者の生活に関連するありとあらゆるトピックについて、ファクトと「若者に対する真摯な姿勢」で向き合っている、稀有な媒体になっている。

 『No Planet B』では、制度改革を政府に働きかける若者の活動家の声を聞き、メディアがあまり取り上げない環境の危機的状況について知り、人種差別や政治、または資本主義がどのようにして環境問題に影響を与えているのか、本質的な側面からファクトを学ぶことができる。また、絶望を常に抱えるZ世代をさらなる不安に陥れさせるのではなく、あくまでも「私たちには変化を起こす力があり、背景と方法さえ知れば自分たちの声もパワーに変わる」と、同世代を鼓舞する役割を果たしている。読者を「当事者」に変え、「仲間」として迎え入れる、そんな革新的な一冊だ。

参考:「Teen Vogue’s Book ‘No Planet B’ Offers a Guide to the Climate Crisis
No Planet B: A Teen Vogue Guide to the Climate Crisis

『This Is Your Mind On Plants』(「これが植物の影響を受けたあなたの心」)

This Is Your Mind on Plants』(Penguin Press)

■『This Is Your Mind On Plants』(「これが植物の影響を受けたあなたの心」)

 著者のマイケル・ポーランはサイケデリックスと人間の脳や認知の研究を行い、ハーバード大学とカリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズムの教鞭も取っている。他に『How to Change Your Mind』『The Botany of Desire』など多数の著書もある。

 まさに「体を張った」ジャーナリズムを体現している彼の新しい作品は、3種類の植物性薬物(オピウム、カフェイン、メスカリン)を自ら消費するだけでなく、それらの文化的・歴史的背景について参加型ジャーナリズムによる調査を通して探究し、精神作用のある植物に対する人間の太古からの執着と関心について考察している。

 なぜ人間は薬物を求め、なぜ普遍的な欲望から生まれる探究心を法律で厳しく罰したり、社会的にスティグマを植え付けているのだろうか。人間 と植物は古来より共生し、相互作用によって「繋がり」を築いてきた。ポーランは10代の頃にガーデニングを始め、大麻を栽培しようとした際にこのテーマに対する探究心が本書の中心的な好奇心につながっている。

 本書は、単に薬物を摂取したジャーナリストの体験記では決してない。近年急激に合法化が進んだ大麻やマッシュルームに対する社会的な意識の変革、その他違法薬物に対していまだに根強く存在するスティグマを背景にとりつつ、「なぜ一部の薬物が合法で(または推奨されていて)、一部の薬物はタブー視されているのか」という大きな疑問を突きつけ、読者が抱く偏見を政治や法律、歴史や科学を通して覆していく。

 例えば私たちも日常的に摂取しているカフェインには覚醒作用があり、覚醒剤の一種と言えるが、一方で幻覚剤であり(自然に存在する)メスカリンの使用は違法とされている。よくよく考えてみると、これらを合法/違法とする線引きはどのように引かれているのだろうか。

 本書では「薬物とは何か」という問いを掲げながら、政治が掲げる「薬物の取締り」の背景にある社会的な意図を暴く。大麻をはじめとした薬物が強くタブー視されている日本においても、「なぜ違法なのか」「なぜ”ダメ”なのか」を再考させるきっかけ、そして重要な視点とファクトを与えてくれる一冊になっている。

参考:「This Is Your Mind on Plants by Michael Pollan review – the trip of a lifetime
Out of His Mind: Michael Pollan digs deeper and further in his new book ‘This Is Your Mind on Plants’

『Out of Office』(「オフィス外労働」)

Out of Office: The Big Problem and Bigger Promise of Working from Home』(Knopf)

■『Out of Office』(「オフィス外労働」)

 新型コロナウイルスによって、世界中で人々の「働き方」が大きく変化した。リモートワークが一般的に普及し、不安定な世の中において「仕事」や「キャリア」に対する意識にも変革が起きた。パートナーであり、それぞれ著名なジャーナリストであるWarzelとPetersonたちは、リモートワークが持ちうる労働者に対する魅力やポジティブな可能性と、それと同時にワークライフバランスの崩壊やメンタルヘルス面への悪影響などについて、個人の労働者へインタビューや企業の調査を通してタイムリーに解説していく。

 著者の一人であるAnne Helen Petersenは『Can’t Even』」の著者であり、ミレニアル世代の燃え尽き症候群やブーマー世代からの社会的負債を負わされている状況について常に報道している、ラディカルな視点から「世代論」についてリサーチしているパイオニアでもある。

 この本を読んでいると、仕事がどれほど我々の生活と人生の大部分を占めているのか実感し、改めて「何を大切にしたいのか」と向き合うことができる。資本主義社会の中で仕事は我々からアイデンティティを奪い、コミュニティの繋がりを希薄なものにし、孤独な環境へと陥らせてしまう。そういったラディカルなスタンスから、著者たちは柔軟性、職場文化、オフィステクノロジー、コミュニティの4つの主要概念を元に調査を行っている。

 例えば、実際には生産性は低く、「パフォーマンス」の目的のためだけに行われているメールのやりとりや会議などに疑問を呈し、リモートワークへの転換を機に「本当に必要な仕事」と向き合うためにはどうしたらいいのか、上司としてどのような思考を持つべきなのか、労働者としてやりたいことを成し遂げるためにはどう行動したら良いのかなど、目まぐるしく変化する社会と職場環境の不安定さを大いに加味しながら、「より幸せな職場」を形成するために必要な手順を提示していく。

 さらに、一般的なオフィスワーカーだけではなく、有色人種や障がい者、女性などの経験を聞き入れ、よりインクルーシブでインターセクショナルな内容であるよう努めていることも伝わる。個人の労働状況や一社のオフィス環境を改善するためには、社会問題から見直し、人間としてどうより良く生きていく必要があるのかについて、再検討させてくれる。

参考:「Out of Office: The Big Problem and Bigger Promise of Working from Home

『Work Won’t Love You Back』(「仕事はあなたを愛し返さない」)

Work Won’t Love You Back: How Devotion to Our Jobs Keeps Us Exploited, Exhausted and Alone』(C Hurst & Co Publishers Ltd)

■『Work Won’t Love You Back』(「仕事はあなたを愛し返さない」)

 衝撃が走るようなタイトル、そしてそのジャーナリズムの質の高さによって、多くの「2021年のベストブック」リストにランクインしている本書。フリーランスのライターであるジャッフェは、In These Timesのスタッフライター兼AlterNetの労働エディター(いずれも左派系メディア)であり、The New York Times、The Atlanticなどの大手メディアにも寄稿している。

 「アメリカでは珍しい存在」と称えられているジャッフェは、労働運動について報道している数少ないジャーナリストの一人である以上に、歴史、社会、文化的な差別や搾取、そして格差や社会運動などの実例を通して「権力と政治」について、ラディカルなフェミニストの視点から「働く人々の真実」を伝えてきた、稀有な存在だ。

 この本は、どのようにして仕事で生産性を上げられるか、または生活のQOLを上げられるか、といった表層的なテーマを取り上げているわけでは決してない。教育、アート、アカデミア、テックなど、10個の職域における根深い労働問題をそれぞれ取り上げ、加速する資本主義社会の現代において労働者がいかにして年々醜悪な環境で働かされているのか、そして根本的な「やりがい搾取」の問題に警鐘を鳴らしている。

 本書の前半は、伝統的に女性が中心的に背負わされてきた無報酬労働を基にした「ケア」労働を取り上げ、もう一つは、クリエイティブ産業やNPOなどの団体を探求している。各章は、インタビューや調査を通した個人のストーリー、それぞれの産業の歴史背景、そしてコロナがそれらにもたらした影響についての内容で構成されている。

 自由市場経済を促進させる新自由主義の社会の中で、労働者はどんどん「私生活」を奪われ、家事労働は軽んじられ、無給・薄給で、不安定な雇用形態であっても「キャリアのために」様々なことを犠牲にすることが当たり前になってしまっている。このような問題と向き合うことで初めて、労働者(この場合は読者)自らが置かれている搾取状況を認識し、ストライキなどの行動を通じて「正義」を求めていくことを強く促してくれる、社会的な「正しさ」と革命的な「愛」でこの本は成り立っている。古典的なマルクス主義理論に加え、シルヴィア・フェデリーチ、アンジェラ・デイビス、ベル・フックスなどによるモダンな分析を織り交ぜていることも、論理的な支柱として高く評価されている。

 この本の中心にある著者の哲学は、「他者との関係を大切にする」ことだ。そしてそのような世界を形成するためには、仕事から「愛」を感じることを期待してはならない、と説く。そうすることで初めて、本当に「愛」の力を生活で感じることができる、というのだ。

 「仕事は決して私たちを愛し返さない。でも、他の人は愛してくれる」この一節こそが、本書の中核を体現している。

参考:「Review – Work Won’t Love You Back
Work Won’t Love You Back: How Devotion to Our Jobs Keeps Us Exploited, Exhausted, and Alone

筆者について

たけだ・だにえる 1997年生まれ、カリフォルニア州出身、在住。「カルチャー×アイデンティティ×社会」をテーマに執筆し、リアルな発言と視点が注目されるZ世代ライター・研究者。「音楽と社会」を結びつける活動を行い、日本と海外のアーティストを繋げるエージェントとしても活躍。著書に文芸誌「群像」での連載をまとめた『世界と私のA to Z』、『#Z世代的価値観』がある。現在も多くのメディアで執筆中。「Forbes」誌、「30 UNDER 30 JAPAN 2023」受賞。

関連商品