“プライバシー・データ保護”を抜きには語れない、デジタルマーケティング

学び
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インターネット広告が登場したのが1990年代。それから20年あまりのうちに、「インターネット広告なんて」と施策から切り離されていたところから、「インターネット広告も」と存在価値を認められる時代へ。さらには、タッチポイントのプランニングや予算を考えるときに「まずはインターネット広告から」へと、インターネット広告は立場を大きく変えました。そして今や、マーケティングにデジタルが使われないことはほぼなくなりました。
そんなデジタルマーケティング史を軸に、広告にまつわるテクノロジーや当時の社会情勢など30年分の「知っておくべき」がこれ一冊にギュッと詰まっています!

世界のプライバシー・データ保護はどう変化するか

インターネット広告はこれまで、広告の配信対象をどのような手法でグルーピングするかの下に成長してきたとも言えます。そのグルーピングのためにさまざまなインターネット上の行動履歴が活用されています。そうして生み出された広告収益がインターネットのさまざまな無料サービスを成り立たせ、ユーザーにとっても有益な情報に触れやすくしました。

しかし行動履歴等のデータは、サービスの質を高める半面、知らぬ間に悪用されるリスクがあります。そのリスクに改めて世界の目を向けたのが、イギリスのデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカがFacebookのユーザーデータを不正に取得したとされた、2018年3月の事件です。同社はこの疑惑により大きな非難を浴びます。さらに、データを悪用されたFacebookも、プラットフォーマーとしての管理を厳しく追及されることになったのです。
 
ときを同じくして、同年5月から「一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)」がEUで施行されました(2016年4月27日に採択され、2年間の移行期間の後、2018年5月25日から適用)。このGDPRを大きなきっかけとして、全世界的にインターネットにおけるプライバシー・データ保護の認識が変化します。

GDPRはEU域内に適用される法令で、データ収集する際に、個人データについての利用の明示、利用についての承諾を得ること等を詳細に定めています。その特徴として、規制に違反したときに多額の制裁金が課せられるということがあります。EUに商品やサービスを提供している企業や、EUに子会社や支店等を有している企業等、EU域内で活動する企業だけではなく、EU域内に住む個人のデータを取り扱う場合は、企業規模にかかわらず対応が求められます。

インターネットの普及によってグローバルにサービスを提供し、個人データを収集し、使用している多くの日本企業にとってもGDPRへの対応が必要となりました。また、保護の対象も厳格化されました。画像、映像、音声、Eメールアドレスの他、従来は個人データとは見なされてこなかった従業員IDやIPアドレス、Cookie等も、個人データとして保護されます。これ以降、GDPRは欧州地域での統括的なプライバシー法となり、各国法も厳格化に向かっています。

その後、2020年1月にアメリカのカリフォルニア州で施行された州法が「カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA:California Consumer Privacy Act)」です。CCPAが施行されたカリフォルニア州は、アメリカ国内で最も人口が多く、世界的なIT業界が集約するシリコンバレーや、ハリウッド、大企業が集まる州です。経済的にも影響力を持った州であるため、他の州もこの動きに追随し、GDPRが欧州地域での統括的なプライバシー法となったように、CCPAがアメリカにおけるプライバシー法の基準となる可能性もあります。

日本では2020年6月5日に「改正個人情報保護法」が成立し、2022年4月1日から施行される予定です。2003年に制定された個人情報保護法は、3年ごとに見直すとされていて、2015年の改正以降の社会・経済情勢の変化を踏まえ、見直しが進められてきましたが、今回はGDPRやCCPAをはじめ、海外でのプライバシー法も意識した改正になると言われています。同様にブラジルでも、GDPRやCCPAの影響を受けた「個人情報保護法(LGPD:Lei Geral de Proteção de Dados Pessoais)」が(2020年8月16日施行予定を、新型コロナウイルス禍の影響を受けて延期)、中国で2021年8月20日に「個人情報保護法(中华人民共和国个人信息保护法)」が成立しています。

これらの法規制と共に注視すべきなのが、サードパーティCookieの扱いに関する動きです。Cookieには、ファーストパーティ/サードパーティの2種類があります。ファーストパーティCookieはアクセスしているサイト、つまりアドレスバーに表示されているサイトによって作成されるデータ。それに対しサードパーティCookieは、アクセスしているサイトではなく、ページ内に表示されているコンテンツの一部(広告、画像等)を所有しているサイトによって作成されます。

これら「Cookieで得られるデータ」と「その他の個人データ」との照合には事前の同意を得ることが必要です。その一方、アップルの標準ブラウザである「Safari」ではサードパーティCookie自体を2020年3月に完全ブロック。Googleも、ブラウザ「Chrome」でのサードパーティCookieのサポートを2023年までに段階的に終了すると発表しました。

これからのデジタルマーケティングはプライバシー・データ保護を抜きにしては語れなくなります。なぜデータを取得するのか、どう活用するのかをユーザーにしっかり説明した上で、それを好まない人がデータ取得を停止したり削除要求したりできる仕組みを作る。または、データを提供することによってユーザーが得られるメリットをきちんと理解してもらい合意を得る。法令遵守という側面だけでなく、ブランディングの観点からも、企業側により高いプライバシー意識が求められているのです。

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本書では、1990年代後半から現在にかけてのインターネット広告の変遷を具体例と共に解説しています。テクノロジーが広告業界に与えた影響、また広告業界の欲望が後押ししたテクノロジーの進化についてより詳しく知りたい方は、現在発売中の『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』(森永真弓/太田出版)をチェック!

筆者について

もりなが・まゆみ。株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所上席研究員。通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。共著に『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(マガジンハウス)がある。

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