1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新57巻が絶賛発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。気軽で最高な酒のつまみとは。外で酒を飲むに最高な季節とは。
「おお パリパリだった海苔がスライスチーズと密着するや 見る見るしっとりしていくぞ」

3軒の酒場をハシゴしつつ、「チーズサラミ」「海苔チーズ」「チーズの串揚げ」と、それぞれの酒場でチーズ系つまみを頼む宗達。
ごきげんな顔で語るポイントは、使われているのが「プロセスチーズ」であること。ナチュラルチーズを加熱して熟成を止めたプロセスチーズは、そのクセのなさが、むしろ気軽な酒のつまみにいいという持論のようだ。
帰宅し、その夜のシメに市販のチーズちくわを食べてみると、意外にも本格派のカマンベールチーズ入り。「ったく けしからんなあ よけいなもの入れよって〜」と言いつつも、なぜか嬉しそうなのだった。
ところで今回の名言。このシーンからしばし、ひとり海苔チーズ論を語りながら嬉しそうに飲む宗達。酒場でたまに見る、スライスチーズを海苔で挟んでカットしただけのごくごく簡単なつまみにも、こんなにも饒舌な感想を語れる酒飲みって、やっぱり幸せな人種だ。
「いやあいい季節だなあ 暑からず寒からずで」

ビアガーデンやテラス席のあるレストラン、もしくはしっかりと準備をして臨むバーベキューなどのオープンエアーで飲む酒はもちろん素晴らしい。けれどもそこまで大げさでなく、公園のベンチや芝生の上で飲む気軽な一杯だって、それに負けないくらいに極上なものだ。ただし重要なのは、気候や気温が心地よい日であること。
広々とした公園のベンチで缶ビールで乾杯する斎藤と宗達も、「一年の大半は暑いか寒いかのどっちか 春と秋が短くなってるよな」「まあこの貴重な一日を存分に楽しもう」と語り合っている。
世の中の多くの人にとってあまり興味のない話かもしれないが、暑からず寒からず、ただ外にいるだけで、そしてそこで酒を飲めるだけで幸せな日というのは、実は初夏と初秋あたりにわずかしかない、1年のうちでとても貴重なものなのだ。
ぜひ感覚を研ぎ澄まし、そんな日を無駄に過ごすことのないよう、いい酒を飲んでいきたい。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:スズキナオ)は7月4日みんな大好き金曜日17時公開予定。
筆者について
1956年、山形県米沢市生まれ。酒と肴と旅とジャズを愛する飲兵衛な漫画家。代表作『酒のほそ道』(日本文芸社)は30年続く長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』(婦人生活社)、『美味い話にゃ肴あり』(ぶんか社)、『魚心あれば食べ心』(辰巳出版)、『う』(講談社)など多数。パリッコ、スズキナオとの共著に『ラズウェル細木の酔いどれ自伝 夕暮れて酒とマンガと人生と』(平凡社)がある。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。米沢市観光大使。
(撮影=栗原 論)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。