昭和から次々と大物財界人や著名人が飲み込まれてきた「M資金詐欺」をご存知だろうか? 戦後に端を発する長い歴史を持つ、ある意味「伝説的」なこの詐欺は、暗号通貨やメタバースが世界を覆い尽くそうとする令和になってもなお、その「魔力」を持ち続けている。時代から時代へと一部の人間を次々と魅入らせてきた“幻”=「M資金」。その正体を追ったノンフィクション『M資金 欲望の地下資産』が、2022年7月26日(火)に発売された。
今回は、実際にどのような詐欺グループが存在し、どのような手口で事件を起こしているのか、中でも老舗の「大手町グループ」について一部をご紹介する。
MSAの名刺~大手町グループ~
M資金詐欺は古くから存在するが故に、年月を経るごとに詐欺師の逮捕や死亡が多くなり、取り扱う詐欺師たちは年々減少傾向にある。
武藤、X、Yたちは、その手口から東京都内に古くから存在しているM資金詐欺師グループ、通称『大手町グループ』のメンバーだとわかった。
2000年以降、大手町グループの他に都内には『新橋グループ』『岩合グループ』『上野グループ』が、関西には『在日系グループ』が存在していた。
この中でも、約50年前から存在している老舗は大手町と新橋だ。自分たちで「〇〇グループだ」と名乗ることはなく、リーダー格の名前や詐欺師たちが集まっている活動拠点の町の名前や特徴をもじって、詐欺業界や裏社会の人々から、そのようにあだ名されている。
武藤たちが加わっていた大手町グループは、その名の通り大手町界隈を活動拠点としており、彼らが事務所を設置したZビルも地下鉄大手町駅の出入り口の目と鼻の先だった。
大手町グループのリーダー格は『MSAの名刺』を持つ『M』という頭文字の人物だった。このM氏は令和4年時点で80歳代という高齢で、M資金詐欺師たちの間では当然のごとく広く知られた存在となっており、M氏が使用している『MSAの名刺』がM資金信者やM資金狂いのトレジャーハンターたちに絶大な効力を発揮している。
MSAというのは、日本とアメリカの間で1954年に締結された『日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定(日米相互防衛援助協定)』に代表された4つの相互援助に関する協定を指す。
アメリカの国内法である相互安全保障法(Mutual Security Act)に基づいて、アメリカと日本の双方がお互いに軍事的支援をするだけではなく、農産物取引、産業育成支援などもおこなうことが定められている。
その詳細はMSA秘密保護法(1954年)によって守られてはいるが『MSA協定』が存在し、この協定が遠心力のように外部から機能しているのは事実で、日本国内に日本および周辺地域の安全保障維持名目で米軍が駐留しているのもこの協定の影響である。
戦後復興名目で大量の米ドルが三菱商事株式会社や日清製粉株式会社などの大手企業で運用され、その利益が日本経済の復興と発展に流用されてきた。また学校給食でパンとミルクが定着したのもこの協定によるものだった。
大手町グループのトップであるM氏はMSAの文字が入った名刺を使用することで自らを「MSA協定の関係人である」と売り込み「MSA資金の資金援助の担当官をしている」と自称するのである。
M氏が本当にそうなのかどうかについてはまったく裏付けがないが、名刺の肩書を安易に信じ込む日本のビジネス習慣も手伝って、M氏は本物のMSA資金の担当官であると信じられてしまうことが多い。そしてこのM氏のもとに集まっているM資金詐欺師たちが、大手町グループと呼ばれる連中である。この詐欺師たちがM氏のもとに集うのは、そうすればM氏からMSA関係の資料をもらえるからである。
どうせウソをつくのならわざわざそんな物をもらわなくても勝手に自分で作ってしまえばいいとも考えられるが、M氏が使用するMSA関連の資料は「精密度(説得力)が高い」と言われている。もちろん、そう見えるにすぎないのだが。
繰り返すがM氏は一介のM資金詐欺師では気がつかないMSA協定の話を持ち出し、自らその名称を刻んだ名刺を使用している人物だ。そんな人物が作成する資料は、M資金詐欺師たちから言わせれば『至高の道具』なのである。
そして大手町グループに加わっていれば、こういった資料だけではなく、M氏からM資金やMSAにまつわる『新情報』が続々と提供される。
こうして精密度の高い資料と最新情報を持ち歩くことでM資金詐欺師たちは、新たな被害者をひっかけているのだ。これが大手町グループの最大の特徴である。
大手町グループはM氏の存在を頼りに『よくあるM資金話』と『MSA協定』を掛け合わせ、他のグループのM資金話よりも信憑性があるように聞こえるトークを展開するのが実に巧みだ。
具体的には「MSA協定の原資がM資金である」と話す。
「アメリカは、第二次世界大戦で物量戦を展開したことから戦勝国になったとはいえ経済は相当疲労していた。そんな状況下で日本国内に複数の米軍基地を瞬時に建設できたのも、日本から押収した旧日本軍の隠し財産であるM資金を用いたからであり、やがてその財産が日本に返還されたとはいえ、MSA協定によって日米間でロンダリング的に運用できる権利をアメリカは保持し、日本経済もその恩恵にあやかった」と言うのである。
そして「現在もMSA協定は継続中であり、MSA資金拡大のための注入先が必要とされている」と事実と嘘を巧みに絡めた宣伝文句を使いM資金信者たちの人脈を悪用して、同類のM資金信者の大手企業社長や会長らに話を持ち掛け、大金を掠め取るのである。
このように大手町グループは、大手町エリアのレンタルオフィスを悪用しながら純粋なM資金話だけではなく、リーダー格であるM氏によって、MSA協定話、MSA資金話も絡めて金を取るベテランM資金詐欺師の集団なのだ。
中心人物は、M氏を軸にして、5人程度。そして、その5人の周辺に複数のトレジャーハンターたちがいるという構成だった。メンバーはM氏、そして、武藤たちを含め、全員が中高年および高齢者の男性のみだが、その活動範囲は日本全国を網羅している。
彼らは、M資金やMSAに関連した詐欺行為ばかりを繰り返しており、他の詐欺行為にはほとんど手を出さないという筋金入りのグループだ。
かつて大手町グループに属していたものの、別の詐欺で稼ぐために大手町グループを抜け、現在は有楽町を拠点として六本木界隈の富裕層相手に投資詐欺を繰り返しているH氏によると「大手町グループはM資金詐欺とそれをパワーアップさせたMSA資金詐欺に特化した詐欺師集団」だという。
またH氏が大手町グループとM資金詐欺に見切りをつけたのはM資金詐欺に限界を感じたからではなく、年齢的にH氏が40代後半と大手町グループ内ではまだ若かったことから知り合う人脈の顔ぶれも年齢的に若く、近年流行する暗号資産をネタにした投資詐欺に活動を移行したかったためだ。
大手町グループに縄張りのようなものは特にないが、とH氏は前置きをしてからM資金詐欺を今も続けるグループの詐欺師たちのことを、
「詐欺にも流行がありますからね。今イケるもので勝負するのが早い(荒稼ぎができる)のに、おじいちゃんたちじゃ暗号資産やマイニングなんてチンプンカンプンでしょ。スマホもろくに使えないんですから」
と蔑みつつ、
「でも、M資金詐欺はまだ続くでしょうね。あれは病的というか、騙されるほうが夢を見まくってますからね。徳川埋蔵金みたいなもんで、もしかしたらホントにあるかもって、そう信じたらどこまでも信じ込んでいけるネタですからね。伝説ネタですから。昭和を知っている人がいなくならない限り、ずっと続くでしょうね。いや、昭和を知らない人でも、そこにロマンを感じたら、ハマるでしょうね」
と真剣な眼差しで語るのだった。
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※この続きは現在発売中の『M資金 欲望の地下資産』にてお読みいただけます。
本書では、今回紹介した内容のほかに、全5章に渡ってM資金の誕生から現在も続く令和のM資金詐欺の手口、詐欺師たちの生態、M資金に群がる大手企業などの経済人、M資金最新の手口や次の“生贄”とされる危険について記されています。本書内にはM資金関連年表も掲載。令和のM資金詐欺問題に立ち向かうための必読書です。
筆者について
ふじわら・りょう。週刊・月刊誌や各種web でアウトロー分野の記事を多数執筆。マンガ原作も手がける。万物斉同の精神で取材・執筆にあたる。