1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新55巻が絶賛発売中! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。日曜の夜中に目覚めたときの飲兵衛がとる行動とは? 酒に最も合う効果音とはなにか?
「どーせ日曜だし一杯ひっかけるか」
セリフ自体はなんの不自然さもない、酒好きなら一度はつぶやいたことのあるようなものだろう。ところが『酒ほそ』の場合、そのシチュエーションがすごい。
時刻は深夜3時。1週間の仕事の疲れがたまり、珍しく缶ビール1本を飲んだだけで寝落ちしてしまった宗達。夜中に目が覚め、普通ならばもう一度寝るかとなるところ、つぶやいたセリフがこれだ。さすがすぎる。
そこからはいつもの宗達。ベランダに保存していた長ねぎのことを思い出し、「刻みネギのオカカしょうゆかけ」「焼きネギ」などを作って飲みながら、「やっぱ冬の夜はネギにかぎるよ」と楽しそうだ。
調子が出てきてねぎが足りなくなり、いちかばちかでコンビニへ行って、運良く手に入ったねぎを使って2回戦。メニューは「ネギしゃぶ」に「長ネギと油あげの柳川風」。なんだか羨ましくなってくるが、一体今は何時なんだろう……?
「みんなうれしそうに飲んでる酒場のざわめきがいちばんかもしれないなあ」
雨の夜、酒場のカウンターで飲んでいる宗達、斎藤、竹股の3人。店内には「ボベ〜ン」と、なにやら間抜けな音が定期的に響いている。ママになんの音かと聞けば「裏の家の庭に置きっぱなしになってる金だらいに雨水が当たる音」とのこと。
それがきっかけで、春夏秋冬、酒に合う効果音はなにか? という話を始める3人。斎藤と竹股は、春ならば「鳥のさえずりを聴きながら」と粋な想像をするが、宗達は「ノンノン」と言いながら「猫が発情する声」などと身も蓋もない例えを出しては、ふたりに責められる。
そして最終的に全員の結論として落ち着いたのが、今回のセリフ。これには、酒場を愛する誰もが納得せざるをえないだろう。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:パリッコ)は9月20日(金)17時配信予定。
筆者について
1956年、山形県米沢市生まれ。酒と肴と旅とジャズを愛する飲兵衛な漫画家。代表作『酒のほそ道』(日本文芸社)は30年続く長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』(婦人生活社)、『美味い話にゃ肴あり』(ぶんか社)、『魚心あれば食べ心』(辰巳出版)、『う』(講談社)など多数。パリッコ、スズキナオとの共著に『ラズウェル細木の酔いどれ自伝 夕暮れて酒とマンガと人生と』(平凡社)がある。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。米沢市観光大使。
(撮影=栗原 論)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。