1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始、最新56巻が2024年12月18日発売！ 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。休刊日の翌日私たちは……。ハムカツの厚さとソースのこだわりついて。
「1日飲んでないといちいち感動しちゃうなあ」
知人と酒場で飲んでいて話を聞いてみると、ふだん家ではまったく酒を飲まないという人は意外と多い。体にもいいだろうし、酒場での会話や料理、なにより酒のうまさをじっくり味わう意味でも、ものすごく良いスタイルだ。
ところが僕や宗達のような酒飲みは、それができない。隙あらば飲んでやろうと、虎視眈々とチャンスを探しながら暮らしている。ただ、たまには休肝日も設けないとなとは、常に思っている。
この話でなんと宗達は、週1日必ず休肝日を作ることを決意する。休肝日明けは当然、早足でなじみの酒場に向かい、酒とつまみを堪能。たった1日飲んでいなかっただけなのにそこまで感動するか、というリアクションが滑稽でもありつつ、同時にすごく共感もできてしまう。
しかしやっぱり我らが宗達。その日は喜びに浸りながらふだんよりもだいぶ飲みすぎ、「かえってカラダに悪いんじゃないかな」と、たった1回だけで休肝日習慣をやめてしまうのだった。
「このハムの厚さだとウスターよりも中濃だよっ」
居酒屋で、かすみ、桜木とテーブルを囲む宗達。夏が近づきビールがうまい！ と豪快にぐびぐびやりつつ、エビフライ＆ハムカツの揚げもの軍団を頼む。
つまみが届き、卓上にソースがウスター1種類しかないことに気づいて肩を落とす宗達。どうやらソースにはかなりのこだわりがあるらしく「ハムカツはウスターでいいんだけど エビフライはトロミのあるとんかつソース系をかけたいんだよね」とのこと。そこからソース談義がヒートアップし、話はその歴史にまでおよぶ。
とはいえ宗達は、ハムカツにはウスターを合わせる派。ところがその組み合わせをひと口食べたところで、まさかのこの反応。いわく「ハムが薄くてほとんどコロモなカツに ウスターが染み込むのがいい」のであって、厚みのあるハムカツには中濃が合うのだそうだ。
ソースひとつでここまで熱くなれる、そんな酒飲みでありたいものだ。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」（漫画：ラズウェル細木／選・文：スズキナオ）は12月13日みんな大好き金曜日17時公開予定。
筆者について
1956年、山形県米沢市生まれ。酒と肴と旅とジャズを愛する飲兵衛な漫画家。代表作『酒のほそ道』（日本文芸社）は30年続く長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』（婦人生活社）、『美味い話にゃ肴あり』（ぶんか社）、『魚心あれば食べ心』（辰巳出版）、『う』（講談社）など多数。パリッコ、スズキナオとの共著に『ラズウェル細木の酔いどれ自伝 夕暮れて酒とマンガと人生と』（平凡社）がある。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。米沢市観光大使。
（撮影＝栗原 論）
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。
