1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新56巻が絶賛発売中！ 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。町中華でいちばん長持ちするつまみ。屋上で花火を見ながら飲むためにふさわしい酒。
「木須肉の構成具材 卵 きくらげ 豚肉を チマチマとつまんでは 飲む 飲む」
酒飲みならではの美学とこだわりが詰まった一話。とはいえ、そこは宗達なので、だいぶせこいこだわりなんだけど。
ひとり昔ながらの町中華で飲んでいる宗達。まずは瓶ビールでのどを潤し、つまみを選ぶ。ただし「フツーならここで餃子とくるところだが 餃子を頼むのはシロートである」のだそう。そこで選んだ一品が、きくらげ、豚肉、玉子の炒め物「木須肉（ムースーロー）」。選択基準は「なるべく安くて具の品数が多いやつ」というもの。
宗達はそれを、具材ごとに1種類ずつちまちまとつまみにしはじめる。読者的には、それだともはや木須肉の意味がないのでは？ という気もするが、本人が「これが一番長持ちするんだよ」とごきげんそうなので、他人が口を出すところではないのだろう。
やがてシメに移行するにあたり、ここでもラーメンやチャーハンを頼むのは素人だと語る宗達が選んだのは「ワンタン」。確かにちょっと粋な感じがしてかっこいいが、その夜、しっかりラーメンと餃子の夢を見てうなされてしまうのだった。
「酒はビールに焼酎をプラスして 花火見ながらチビチビやろうっと」
斎藤の友人に、夏の花火大会の開催場所に近いマンションに住んでいる梅ちゃんという人物がいて、宗達、竹股も便乗して、屋上で優雅に花火見物飲みをすることに。
スーパーで買ってきたと思われる惣菜類をつまみに上機嫌に飲みはじめる4人だったが、実は梅ちゃんがこのマンションに引っ越してきたのは昨年の夏以降。いざ花火がはじまってみると、目の前の建物がじゃまでほとんど見えないことが判明。結局全員で部屋に戻って、TVの花火中継を見ながら飲むことになった、というのが話のオチだ。
ただ、もうひとつ注目すべきはその途中に宗達がさらりととった行動。注文すればいくらでも酒が出てくる居酒屋や、冷蔵庫がすぐそばにある部屋飲みと違い、屋上に持ち込める酒には制限がある。その問題を、柔軟かつ自由な発想でいとも簡単に解決してしまう様に、長年本気の酒飲みをやっている宗達の地力を感じずにはいられない。と、僕のように賞賛する人よりはるかに多く、眉をひそめる人もいそうな行動ではあるけれど。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」（漫画：ラズウェル細木／選・文：パリッコ）は4月18日みんな大好き金曜日17時公開予定。
筆者について
1956年、山形県米沢市生まれ。酒と肴と旅とジャズを愛する飲兵衛な漫画家。代表作『酒のほそ道』（日本文芸社）は30年続く長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』（婦人生活社）、『美味い話にゃ肴あり』（ぶんか社）、『魚心あれば食べ心』（辰巳出版）、『う』（講談社）など多数。パリッコ、スズキナオとの共著に『ラズウェル細木の酔いどれ自伝 夕暮れて酒とマンガと人生と』（平凡社）がある。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。米沢市観光大使。
（撮影＝栗原 論）
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。
