1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、最新57巻が6月18日発売予定! 累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。串カツはどこで食べるべきか。酒場において通とは何か。
「つまらんやろ 東京でいつでも食えたら 紅ショウガ天と串カツは」

僕が生まれて初めて大阪の紅しょうが文化に触れたのは、今から10年以上前。本連載の第36回でも取り上げた、大阪で初めて本格的にラズウェル先生、スズキナオさんと飲み歩きをした日のことだった。
まず合流したラズウェル先生と僕で何気なく入ってみたのが、日本一長いことでも有名な「天神橋筋商店街」にある小さな串カツ店。そこで食べた紅しょうがの串揚げは、あぁ、今自分は大阪で飲んでいるんだ……! と強く実感する、忘れられない味となった。
近年、その他の地域でも紅しょうがの串揚げを食べられる店は増えてきたし、特に関西出身の方には嬉しいことだろう。しかしやっぱり、ご当地の味はその土地の文化とともに食べるのが至上と感じてしまう。
この大阪出身の店主の言葉には、そんな酒場の真理が詰まっている。
「よし じゃあオレは ゴボウとにんじんのかき揚げと玉ネギと枝豆のかき揚げのハーフ&ハーフ そんで最初天丼で途中から天茶」

前編、中編、後編の3部からなる、天ぷら飲みがテーマの大長編の締めくくりのシーン。
コの字カウンターの酒場で、まずはキスとハモを注文し、それぞれを塩、カレー塩で食べて大満足の宗達。ところが並んで飲む店の常連たちに「岩間ちゃん 通ぶってない…?」と言われると、本当に食べたくて頼んだだけだったのにも関わらず、気になって自由な注文ができなくなってしまう。その後も天ぷら談義が続くが、うっかりうんちくを語り出してしまったりするのはいかにもだ。
やがて周囲から「悪かったよ」「好きなもの好きなように食って元気出してくれよ」となぐさめられ、やっと笑顔を取り戻す宗達。そしてシメに頼んだのがこの注文。さすがのよくばりっぷりで、やっぱり酒飲みはこうでなければ! と、こちらまで嬉しくなってしまう。
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次回「小さなシアワセの見つけかた『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:スズキナオ)は6月20日みんな大好き金曜日17時公開予定。
筆者について
1956年、山形県米沢市生まれ。酒と肴と旅とジャズを愛する飲兵衛な漫画家。代表作『酒のほそ道』(日本文芸社)は30年続く長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』(婦人生活社)、『美味い話にゃ肴あり』(ぶんか社)、『魚心あれば食べ心』(辰巳出版)、『う』(講談社)など多数。パリッコ、スズキナオとの共著に『ラズウェル細木の酔いどれ自伝 夕暮れて酒とマンガと人生と』(平凡社)がある。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。米沢市観光大使。
(撮影=栗原 論)
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。