今、世界ではなにが起きているのだろう?『図解でわかる 14歳からの地政学』では、地政学(国際的な政治・軍事に関わる事柄を、地理的な様々な条件を基に考察すること)というフィルターを通して、世界の今を俯瞰しています。ここでは、本書からロシア情勢に関する記事をご紹介します。地球に生きる「引っ越しのできない隣人同士」が共存するための、理想と理性の地政学を共に学びましょう。
プーチンの初仕事は泥棒退治
旧ソ連の人々は、突然のソ連消滅に茫然自失します。あれほど強固と思えた共産党も消えて、腐敗の元凶だった特権的官僚たちは、一斉に国営企業の財産に群がりました。エネルギーを中心とした資産が、ロシア系ユダヤ人の企業家によってタダ同然で「民営化」され、西側の金融資本の資金がそこに流れこみました。こうして、気がつくと旧ソ連の国営企業の資産は、新興財閥と称される人々に簒奪され、その資源を西側諸国に販売した利益によって巨大エネルギー企業群が誕生していたのです。
国営企業の消滅、国家の混乱の中で、人々の収入も途絶え、ロシアは破綻国家になりかかっていました。そんな絶望的なときに、人々が喝采することが起こります。新興財閥の中心的人物を「泥棒」と呼び、逮捕・収監するヒーローが現れたのです。エリツィンに替わって登場したウラジーミル・プーチン大統領です。プーチンは次々と問題のある企業人を告発しました。その一人、ミハイル・ホドルコフスキーは、個人資産をキプロスなどの秘密口座に隠し、企業の株をアメリカの石油メジャーに売り払おうとさえしていました。
プーチンはこれらのエネルギー企業を再び国有化し、国家管理のもとに、ヨーロッパ諸国に対するエネルギー供給国としてロシアの国家戦略の再構築を図ったのです。
解体寸前だったロシア経済をエネルギー政策で再稼働させたプーチンは、もう一つ、ロシアの新しい統一理念をつくろうとしています。それは、共産党政権下では非合法だったロシア正教の復権です。ロシア正教は、ローマ帝国の東西分裂後、カトリックと袂を分かったキリスト教の一派、東方正教会がロシアに根づいたものであり、ロシア帝国時代以前からロシア人の心の拠り所であり続けてきました。プーチンはこのロシア正教の聖地に何度も出向いて教会との連携を深め、宗教の権威のなかに、自らの権威も位置づけようとしています。
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本書では、ロシア・ウクライナ情勢のほかにも、アジアやアメリカ、中東などの地政学的危機の現場についてわかりやすく解説しています。『図解でわかる 14歳からの地政学』(インフォビジュアル研究所・著、鍛冶俊樹・監修)は全国書店・通販サイトや電子書店で発売中。地球上のすべての隣人のために、今一度世界情勢を見つめなおしてみましょう。なお、「図解でわかる14歳からの~」は現在第19弾まで刊行されている人気書籍シリーズ。地政学のほかに、ごみ、水資源、気候変動などの環境問題、資本主義、宇宙開発、食料問題、LGBTQ+、防災などなど、今だから学び直しておきたいワンテーマを1冊に凝縮して3~4カ月毎に刊行されています。
筆者について
2007年より代表の大嶋賢洋を中心に、編集、デザイン、CGスタッフにより活動を開始。ビジュアル・コンテンツを制作・出版。主な作品に『イラスト図解 イスラム世界』(日東書院本社)、『超図解 一番わかりやすいキリスト教入門』(東洋経済新報社)、「図解でわかる」シリーズ『ホモ・サピエンスの秘密』『14歳からのお金の説明書』『14歳から知っておきたいAI』『14歳からの天皇と皇室入門』『14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来』『14歳からの地政学』『14歳からのプラスチックと環境問題』『14歳からの水と環境問題』『14歳から知る気候変動』『14歳から考える資本主義』『14歳から知る食べ物と人類の1万年史』『14歳からの脱炭素社会』『14歳からの宇宙活動計画』(いずれも太田出版)などがある。
鍛冶 俊樹
かじ・としき 軍事ジャーナリスト。元航空自衛隊幹部。『日本の安全保障の現在と未来』で第一回読売論壇新人賞受賞。著書に『領土の常識』『国防の常識』(共に角川新書)、『戦争の常識』(文春新書)など、監修に『超図解でよくわかる!現代のミサイル』(綜合図書)、『イラスト図解戦闘機』(日東書院本社)。配信中のメルマガ「鍛冶俊樹の軍事ジャーナル」は、メルマ!ガ オブザイヤー2011受賞。