どんな性的アイデンティティを持つ人でも生きやすい世の中になることは全世界の課題です。しかしながら、理想通りとはいかないのが実情です。日本での法整備の歴史を見ながら、私たちが今後どのような意識をもって行動すべきなのか、どのようなことが課題になるのかを考えてみましょう。
2021年9月に発売された『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(社会応援ネットワーク)では、LGBTQ+に関わる詳しい用語解説と、2021年時点でのLGBTQ+を取り巻く社会についてをまとめた記事が満載です。ここでは、その一部を抜粋し、紹介していきます。(全6回)
※以下は、2021年時点での本書の調査をもとに作成された記事を転載したものです。
A.法整備に向けた動きはあるものの、成立にまでは至っていません。
2021年7月現在、日本には、LGBTQ+の人々の保護を含む国レベルの差別禁止法は存在しませんが、法整備に向けた政治の動きは出ています。LGBTへの差別をなくすため法的課題について検討する超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」(LGBT議連)が2015年に発足し、議論を進めてきました。
「理解増進法案」と「LGBT差別解消法案」
LGBTの人々の権利に関する法案には、「理解増進」と「差別解消」という2つの考え方があります。「理解増進法案」は自民党が2016年に設置した「性的指向・性自認に関する特命委員会」によって取りまとめられたものです。差別禁止ありきではなく、あくまでもLGBTに関する基礎知識を広げることで国民全体の理解を促すことを目的としています。
「LGBT差別解消法案」は、民進党(当時)を中心にした野党が取りまとめ、2016年に衆議院に提出しましたが、解散により廃案になっています。行政や事業者が性的指向や性自認を理由として差別的取り扱いを行うことを禁止するとともに、雇用の際の均等な機会を提供し、ハラスメント防止、いじめ防止に取り組むことなどが盛り込まれていました。
オリンピック憲章が性的指向を含むいかなる差別も受けない権利と自由をうたっていることから、自民党は「2020年東京オリンピック・パラリンピック」前での「理解増進法案」の成立をめざしていましたが、国会への提出は見送られました。
このページのキーワード
【ハラスメント】
性別や年齢、職業、宗教、社会的出自、人種、民族、国籍、身体的特徴、セクシュアリティーなどの属性などによって、相手に不快感や不利益を与え、その尊厳を傷つけること。
【性自認(Gender Identity)】
自分の性をどう認識しているかのこと。「こころの性」と呼ばれることもある。
【性的指向(Sexual Orientation)】
恋愛や性的な関心がどの性別に向くか・向かないかのこと。
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本書では他にも、LGBTQ+の考え方や当事者の方への接し方、彼らを取り巻く社会や世界の法律までを詳しくまとめています。『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(社会応援ネットワーク・著)は全国書店・通販サイトや電子書店で発売中です。図版が多くわかりやすいと好評の書籍シリーズ「図解でわかる~」は、日本の宗教、ごみ問題、水資源、気候変動などのSDGsに関する課題や、地政学、資本主義、民主主義、心のケアなどなど、今だから学び直しておきたいワンテーマを1冊に凝縮して3~4カ月毎に刊行されています。
筆者について
全国の小中学生向けの『子ども応援便り』編集室が、2011年東日本大震災時、「メッセージ号外」を発行したのを機に設立。同時に文部科学省等から委託を受け、被災地に「子どもの心のケア」の出張授業や教職員向けの動画配布を行う。以降、全国の4、5、6年生全員に『防災手帳』を無料配布するなど、学校現場からの「今、これが必要」の声に徹底して応えるプロジェクトを展開。心のケア、防災、共生社会、SDGsの出張授業や教材作り、情報発信を続ける。コロナ禍では、「こころの健康サポート部」を立ち上げた。書籍に『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)など。