絶メシ、本屋大賞、カンヌライオンズなど
世の中を沸騰させ続ける博報堂ケトル独自の思考法に迫る!
自ら課題を設定し、自ら達成ルートを決める「手口ニュートラル」の思考法を活かせば、最短距離で出口にたどり着ける! 停滞する今を打ち破る答えの一つがここにある。
※本記事は、2022年10月7日(金)に発売された『手口ニュートラル 混沌を生き抜く思考法』から、一部を抜粋し転載したものです。
「付加価値より、新しいコスパ」の時代へ
近年は、価格競争とIT普及によって、「安価で良質なモノ」がどこでも手に入る環境となり、商品情報も手軽に入手できる時代となっています。また、先行きの見えない時代の中で、「老後が不安だから貯蓄したい」「必要だと思うモノしか買わない」と考える傾向はどんどん強くなり、特に、若者世代には「コスパが悪いモノ、興味がないコトにお金を使いたくない」という感覚が根づいています。モノと情報が溢れる中、消費者はより賢くなり、人の価値観もより細分化され、さらにコロナ禍によって「欲しくない、買わない」という空気に拍車がかかったと言えるでしょう。
そんな中でも、モノにストーリー性を付加する“付加価値ビジネス”が流行した時期がありました。機能をアピールするだけでなく、こだわりや歴史、背景などのストーリーを持たせ、購入者の趣味性・嗜好性・ステイタス感などを満たす。モノを買う行為に付加価値を与え、消費者欲求を刺激する手法と言えますが、それはもう古い。すでに消費者は、“コスパ重視”ではなく、“コスパ前提”となっており、「本当に必要なモノ以外には、お金は使いたくない。そこそこ使えて安いほうがいい」と考えているのです。
では、一体どうすれば「欲しい、買いたい」と思わせることができるのでしょうか。ケトルの執行役員・原氏は近年の消費行動をこう分析します。
「今の時代、ストーリー性だけでなく、実効要素も掛け合わせなければ、消費への欲望を発動させることは難しい。商品にプラスαの実効要素を付加し、『得した』と思わせる“新しいコスパ”が重要だと感じます。
機能性食品はまさにそれで、『お茶だけど、コレステロール値が下がる』など、美味しさや価格だけではないプラスαの付加価値があるから売れたわけです。洗剤の『抗菌・抗ウイルス』なども同様ですし、サービス面では『居酒屋なのにサウナも楽しめる』『書店なのに泊まれる』などの新業態も登場し、本来の価値に加えて、何らかの価値をプラスすることで注目を集めています。
現代の消費者を動かすのは“新しいコスパ”であり、手口ニュートラルに『どう欲望を発動させるのか』を考えていくことが重要だと感じますね」
──原氏
一方、ケトルの代表、船木研氏は、「そのモノの価値をずらした角度で考えるといい」と話します。
「購入のきっかけをつくるためには、それを買う“意味”と“価値”を転換することが重要だと考えています。例えば飴を売る際には、味や原材料などを訴求しがちですが、“飴をなめる時間”に視点をずらしてみる。例えば3分半でなめ切ることができる飴なら“3分半”をどんな価値に転換するか、という視点でPRを考えることもできます。その商品における“価値”の規定を変えてみることで、新しいきっかけが生まれます。
テスラがあれだけ売れている理由も、『デカいスマホ』という捉え方ができるからですよね。前席中央に設置されたタブレットのような画面からほとんどの操作を行える。エンジンなどの“乗り物”としての機能より、“乗れるガジェット”であることに価値を感じているんです。原の“プラスαの付加価値”という話にもつながりますが、そのモノが持つ本来の価値からずらした視点の付加価値を与え、差別化することが重要です。こうした部分にも、手口ニュートラルな発想力を活かすことが大事だと感じます」
──船木氏
ケトルが展開する協業ビジネスにおいても、抗ウイルス素材を用いたアパレルブランド『VIBTEXTM』があります。そもそもは繊維専門商社ヤギから「抗ウイルス素材のテキスタイルを開発したので、B to Bでの販売戦略を考えて欲しい」という相談があったことがきっかけでした。この案件を担当したクリエイティブディレクターの皆川壮一郎氏は、「コロナ禍の中、抗ウイルスの素材は必ず求められる」と考えました。そこで、まずはこのテキスタイルを使ったプライベート・アパレルブランドをつくって発信し、それをプロ市場に導入する戦略を立てました。ケトルは、ヤギと協業する形でアパレルブランド『VIBTEXTM』を立ち上げます。コンセプトは「ウイルスと戦う、すべての世界市民を守る服」。ただ抗ウイルスのテキスタイルをアピールするのではなく、日本初の“抗ウイルス・トータルウェアブランド”として、デザイン性やファッション性を付加したのです。これが注目され、『VIBTEXTM』は多くの媒体から取材を受け、露出を高めることに成功しました。
「欲しくない、買わない時代」の中でも、手口ニュートラルにモノの価値を転換させていくことで、認知度を高め、消費欲求を刺激することができます。あなたの企業の商品も、「~な飴」「~な洗剤」「~な車」など、「~」という部分に商品本来の価値とはまた違う価値を代入してみれば、認知や売り上げを向上させる方法が見つかるかもしれません。また、あなた自身の市場価値を高めていく際にも、「~な営業」「~な商品企画」「~な広報」など、その職種が発揮する価値とはまた違う角度の「~」を付加していくことは有効と言えるでしょう。
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本書『手口ニュートラル 混沌を生き抜く思考法』では、世の中を沸騰させ続ける注目のクリエイティブエージェンシー・博報堂ケトルによる独自の思考法「手口ニュートラル」について、全6章に渡って解説。基本の思考法から、実践法、実用例から応用方法まで徹底的に紹介しています。
筆者について
うえの・まりこ。フリーランスのライターとして、人物インタビューを中心に雑誌媒体やWeb媒体などで執筆活動を続ける。起業家や経営者、著名人、企業人、企業人事、大学教授、各種専門家、学生まで、多岐にわたる分野の人々に取材を行い、過去19年間にインタビューした人数は2000人超となっている。