荻窪メリーゴーランド
第5回

夜がぼくらに手こずっている

文芸
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いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。第5回は、「出会い」。

きみの目とトイプードルの目が合ってその交点にある硝子窓

見るだけのつもりのペットショップからいのちをひとつ抱いて帰る

ゆびをなめられてよろこぶ表情をはじめてとおくとおくから見た

浴室で子犬を洗っている腕を見るたび撫でたくなってしまって

人間に尾のないことを確かめるためにふたりで洗い合ったり、

閉じるべきまぶたが2枚増えてから夜がぼくらに手こずっている

あぐらとはペットを股でねむらせるために続いてきた座り方

もう寝た?って、囁くたびに延びてゆく夜をまた思い出せますように

引っ越しのお祝いを口実にしておそらく母はきみに会いたい

正装をして母を待つ恋人の恋人であるぼくはパーカー

はじめましてじゃないみたい きみというより私に似ているきみの母

お辞儀するきみを無視して母さんがぼくに渡してくる萩の月

「広いわね」「まあふたりだとちょうどだよ」「そっか、子猫も家族だもんね」

3180グラムを産んだ日を未来の話みたいに聞いた

お母さんと呼ぶのはすこしこそばゆくマルセイバターサンドこぼれる

「恋人はいないの?」「なんで?いるじゃんか!?そこに!!!」と指せば母が泣き出す

* * *

この続きは、12月15日(木)17時公開予定。

筆者について

きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。

木下龍也 × 鈴木晴香

すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。

  1. 第1回 : くちづけるとは渡しあうこと
  2. 第2回 : 〈永遠〉で終わらせるしりとり
  3. 第3回 : 恋に埋もれてうつむいている
  4. 第4回 : きみのこの世のまぶたを舐めた
  5. 第5回 : 夜がぼくらに手こずっている
  6. 第6回 : きみにはぼくを生きてほしくて
  7. 第7回 : 皮膚のぶんだけ遠いと思う
  8. 第8回 : 恋愛は羽で数えよ
  9. 第9回 : 妖精に生まれ変わるのはきみだろう
  10. 第10回 : おそろいのコップがひとつ欠けていて
  11. 第11回 : 二度目のはじめましてをしよう
  12. 最終回 : エピローグ
連載「荻窪メリーゴーランド」
  1. 第1回 : くちづけるとは渡しあうこと
  2. 第2回 : 〈永遠〉で終わらせるしりとり
  3. 第3回 : 恋に埋もれてうつむいている
  4. 第4回 : きみのこの世のまぶたを舐めた
  5. 第5回 : 夜がぼくらに手こずっている
  6. 第6回 : きみにはぼくを生きてほしくて
  7. 第7回 : 皮膚のぶんだけ遠いと思う
  8. 第8回 : 恋愛は羽で数えよ
  9. 第9回 : 妖精に生まれ変わるのはきみだろう
  10. 第10回 : おそろいのコップがひとつ欠けていて
  11. 第11回 : 二度目のはじめましてをしよう
  12. 最終回 : エピローグ
  13. 連載「荻窪メリーゴーランド」記事一覧
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