缶チューハイとベビーカー
第20回

ピクニックあれこれ

暮らし
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先日、地元で久々屋外の大型イベントが開かれ、近所の友人たちを誘い、朝からベンチ席を確保して楽しんだ。次々に現地で友人知人たちが集まり、あらゆる世代が集まるカオスな宴に。一方別の日は、保育園のパパママ、クラスメイトが集まり、ピクニックが開催された。そこにはある暗黙のルールが存在していた。

久々の「森のJAZZ祭」

コロナの影響で、多感な時期の娘を、旅行にもイベントごとにも、とにかく連れていってやれない期間が約3年弱も続いた。保育園のクラスメイトとの友達づきあいにしてもそうで、娘ももう5歳。通常なら仲のいい友達と家族一緒にどこかへ出かけたり、お互いの家に遊びに行ったり、お泊まりをしたり、なんてこともあったのだろうが、一切できなかった。

しかしここ最近は、世間も「さすがにそろそろ……」というムードになってきたように感じる。もちろん、コロナの脅威はまだまだ残っているし、感染者数もまた増えだしている。嫌になる。けれども、じゅうぶんな対策をとったうえで、子供たちに今ならではの経験、体験をさせてやりたいという考えが、保育園の父兄たちの間にも広がってきているようだ。もちろん、なにも考えずに居酒屋で宴会をするなんて話ではなくて、主に、屋外で遊ぶ場合においては。

この11月には、地元石神井公園にある野外ステージ広場で、久々に「森のJAZZ祭」というイベントが開催された。屋外にあるステージで、午前11時から午後3時まで、多数のジャズミュージシャンが無料ライブをし、地元飲食店による出店などもある、石神井の一大イベント。コロナの影響で中止や規模縮小などを経て、久々に野外ステージ広場での開催だ。

もちろん僕もこのイベントが大好き。しかも、ステージ前の客席ではなく、ライブの音がちょうどよく漏れ聞こえるくらいの位置にあるテーブル&ベンチ席を朝から確保して、そこで気ままに、友人たちと宴会をやるのが定番だ。

恐竜ボーイ

今年も家がそう遠くないエリアの飲み友達にお声がけしてみたところ、漫画『酒のほそ道』の作者であり、日本屈指のジャズファン、ラズウェル細木先生と、ミュージシャンのディスク百合おんさんが来てくれた。それから、当連載の「プールとビール」の回にも登場した娘の友達、Nちゃん一家。Nちゃんには最近弟が生まれ、そこに現地で偶然会った妻の友達なども加わり、その時点で大所帯だ。

ラズウェル先生と百合おんさん、そこにNちゃんのお父さんらが加わった不思議なメンバーで、昼間っからちびちびと酒を飲む。天気もよく、遠くからはジャズの調べ。なんと心地いい時間だろうか。

ところで、僕は家が近所ということもあり、テーブル席の周囲に配置するためのレジャーシートやポップアップテントを、アウトドア用の大きなカートに入れて持参した。すると案の定、娘とNちゃんがそのカートにのりたがる。疲れるけど、聞いてやらないわけにもいかない。「1周だけね」なんて言いながら、カートを引っぱって周囲を散策していた時のことだ。突然前方から「パリさん!」という声がする。見ると、これまた近所に住んでいて、若かりしころはともに飲んだくれ、今は一児の母となったRさんが、お子さんのSくんと散歩をしていた。たまに会うたびにどんどん大きくなって、なんともう小学生だそう。「お〜、久しぶり! 今あっちでみんなで飲んでるから、よかったら寄ってけば?」。現場は、さらにカオスな面々に。

Sくんは目下、恐竜にどハマり中らしく、飽きずにずっと恐竜のまねをしている。しかもそれが「がお〜!」みたいな生やさしいもんじゃなくて、映画『ジュラシック・パーク』に出てきた「ヴェロキラプトル」の感じっていうんだろうか。「フシュー……ギ、ギ、ギ……ガルルルル」と、妙にリアルなのだ。Sくんが恐竜を演じながら、我々の座っているテーブルの周囲を旋回する。我々も、変わらずバカ話をしつつも、「あれ? どこかに恐竜がいるぞ?」とのってあげる。するとSくんも絶好調となり、たまにランダムなタイミングで、座っている大人の背後に近づき、「ギャオ〜ッ!」と雄叫びをあげるのだ。しかもその対象になるのが、なぜかやたらとラズウェル先生の確率が高く、漫画界の大御所が、そのたびに「ひぃ〜、こわい〜!」などと言っている。その様子がもう、おかしくてたまらなかった。

人生のいろいろな時期に出会った友人知人たちが、時代のレイヤーを無視して一堂に会し、酒を飲んだり、気ままに遊んだりと、自由に過ごしている。その空気感は、まるであの世みたいだ。人間それなりに長く生きていると、こういう楽しいことも起こるんだなぁと、予測不能で楽しい時間を、しみじみと味わった。

“暗黙のノンアル”問題

先日も、保育園のクラスメイトとそのパパママたちが、休日に予定を合わせて遊ぶという機会があった。しかもそれが、かつてない大規模で、娘を含めて女の子が4人、男の子が2人、そこに兄弟姉妹や、我々父母など、来られる人が気ままに集まり、最終的には15人以上になっただろうか。もちろん、園外で会うのは初めてな人のほうが多い。

こういうご時世だから、親たちが親しくなる速度はゆっくりではあるものの、それでも、顔見知りになった母親どうしがLINEを交換して、みたいなことはあるようで、今回はそれが数珠つなぎになった感じ。偶然でも、我が家まで届いてくれたことがありがたい。

コースは、まず地元の畑のイベントで、午前10時からの野菜の収穫体験。さすが練馬区というか、広大な畑にいろいろな種類の野菜が植えられており、ところどころにいる作業員さんに教わりながら、好きな野菜を収穫できる。しかも、参加費はかからず、野菜はたとえば、大根や白菜ならひとつで、かぶなら4つで、と単位が決められていて、それが一律200円というんだからありがたい。

よく晴れた畑のなかを子供たちがかけまわり、「これがいちばんおおきい!」なんて言いながら、かぶや大根を引き抜いている様子を見守るのは、なんとも言えない幸福感がある。それに、少しでも新しい経験をさせてやれたという、安心感のようなものもある。

ただ、元気がありあまっている子供たちの相手はやっぱり疲れるし、最終的に1000円ぶんの野菜で、念のため持っていった45リットルのビニール袋がいっぱいになってしまった。それを自転車のカゴに詰め、シートに娘をのせて帰るのは、さすがにけっこうな苦行だったけど。

野菜を持っていったん解散したら、昼の12時からはふたたび同じメンバーが石神井公園に集まり、6家族合同ピクニック。

実は今回の本題は、ここからと言っても過言ではない。というのも、そういった子供たちがいる場での集まりって、たとえピクニックであっても、“ノンアルコール”が基本なのだ。

いや、すでに何度か遊んでいるNちゃん一家と会うときや、JAZZ祭りのような例外はあるが、こういった、若干手探り感のある会の場合、それが基本。暗黙の了解。以前、飲み友達で育児の先輩であるスズキナオさんが、「パリッコさん知ってます? 小学校の運動会って、酒の持ち込み禁止なんですよ。あんなに酒に合いそうな催しなのに!」と言っていて笑ったことがあるが、今、まさに自分がそういう状況にいるというわけだ。

メンバーのなかにノンアルコールビールを持ってきていたお父さんがいて、「いいな〜、僕も持ってくればよかったっす」と言ったら、そこに別のお母さんが、「おふたりはお酒、お好きなんですか?」なんて加わってきて、あきらかにその方も嫌いじゃない雰囲気だ。というかもしかしたら、僕と同じように「あぁ、今、缶ビールの一杯でもいいから飲めたらなぁ」なんて思っていた人も、意外といたのかもしれない。が、とにかく今は探り探り。ゆっくり、一歩一歩、酒に向かって前進していくしかない。

それでも子供たちが芝生で大はしゃぎし、その様子を眺めつ、ふだんはなかなか話す機会もないパパママさんたちとのんびり過ごす時間は、とてもいいものだった。

家に帰り、ちょうど作ってあった豚の角煮に、娘が採ってきた大根を角切りにして加えた。それから、数少ない娘の食べられる野菜料理で、保育園で出て気に入ったという「麻婆大根」(大根の角切りとひき肉を炒めて、だし醤油などで味つけしてとろみをつけるだけ)も作った。試しに食べてみると、採りたてだからか、それとも思い入れ補正があるからなのか、大根がびっくりするくらいとろとろで甘い。それをつまみに、ついに喉に流し込めたキンキンのビールが、日中の外遊びでヘトヘトになった僕の全身に沁みわたったことは、言うまでもない。

筆者について

パリッコ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』(シカク出版)。

  1. 第1回 : 缶チューハイとベビーカー
  2. 第2回 : のびた「アンパンマンうどん」で酒を飲む
  3. 第3回 : 娘、人生初映画館
  4. 第4回 : 保育園での「仕事バレ」問題
  5. 第5回 : 子育ては常に切ない
  6. 第6回 : 「たぬきや」最後の思い出
  7. 第7回 : 子連れ外食
  8. 第8回 : ぼこちゃん、言い間違い語録
  9. 第9回 : 娘、初めて父のトークライブを見る
  10. 第10回 : 子供と酔っぱらいは似ている
  11. 第11回 : ボーナス“酒”チャンス
  12. 第12回 : 卒業
  13. 第13回 : 不安と混乱の1週間
  14. 第14回 : 特別な夜
  15. 第15回 : 娘が生まれた日
  16. 第16回 : ぼこちゃん、カルビ焼肉を好きになる
  17. 第17回 : プールとビール
  18. 第18回 : 子乗せ電動アシスト自転車がパンクした夜
  19. 第19回 : インプットの時間が足りない問題
  20. 第20回 : ピクニックあれこれ
  21. 第21回 : 酒場ライターと子育て
連載「缶チューハイとベビーカー」
  1. 第1回 : 缶チューハイとベビーカー
  2. 第2回 : のびた「アンパンマンうどん」で酒を飲む
  3. 第3回 : 娘、人生初映画館
  4. 第4回 : 保育園での「仕事バレ」問題
  5. 第5回 : 子育ては常に切ない
  6. 第6回 : 「たぬきや」最後の思い出
  7. 第7回 : 子連れ外食
  8. 第8回 : ぼこちゃん、言い間違い語録
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  10. 第10回 : 子供と酔っぱらいは似ている
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