子育ては「ねむい」。眠気との戦いである。今回は、世間的にあまり語られることが多くない印象がある「子育てとねむさ」について。酒場ライターはいかにして子育てと仕事と飲酒とねむさとつき合うのか。
とにかくねむい
ねむい。とにかくねむい。ひたすらねむい。
というのが基本形である状態が、もう数年間続いている。理由はもちろん、子育て中からだ。子育てには、たくさんの心配や苦労、切なさ、そしてそれらすべてをふっ飛ばしてしまうような喜びなど、たくさんの感情がともなう。ただ実は、「ねむみ」というのもまた、大きな要素のひとつであるのだ。世間的にあまり語られることが多くない印象があるけれど、子育てって実は、めちゃくちゃ「ねむい」。なんならもう、眠気との戦いと言ってしまってもいいかもしれない。
なので今回は、「ねむいようねむいよう。たまには一日中泥のようにねむっていたいよう」という愚痴を、つらつらと重ねるだけの回になってしまうかもしれない。人によっては、ただただ「甘ったれんな」という印象しか受けないことだろう。ただ、それはそれとして、こんな僕だってねむいものはねむいんだ。書かせてもらったっていいじゃないか。
さすがにねむい
僕の仕事は、酒場ライター。コロナの影響でだいぶ変化はあったけど、夜、街に出て酒を飲み、昼間はそのことを原稿に書くというのが、基本のスタイルだ。
娘が生まれるはるか前の会社員時代。副業として、ちらほらと原稿の依頼をもらえるようになってきたころ。僕が人生の流れに流されるままにたどり着いた、酒場ライターという仕事が、当時のライフスタイルにぴたりとハマった。
当時は基本的に夕方6時の定時に帰れる仕事だったので、それからぞんぶんに酒場へ行ける。また、僕は完全なる朝型人間だ。夜の9時くらいになればもう目は閉じかけてしまうし（考えてみれば、そんなに強いわけでもないのに夕方から酒を飲んでるんだから当たり前）、そのぶん、朝6時くらいに起きることはまったく苦にならない。朝、家を出るのが9時ごろだったので、なんならそれまでの約3時間に1、2本原稿が書けてしまう。妻がそういう生活に理解を示してくれたことも大きく、つまりは、二足の草鞋が可能だったというわけだ。調子にのって飲みすぎ、終電で帰ってきたって、朝、家を出るぎりぎり5分前まで寝ていれば、夜中の1時から、7時間55分は寝れるわけだ。睡眠時間としてはじゅうぶんだろう。
ところが現在のスケジュールはというと、娘は朝6時半に起きる。夜は、なかなうまくいかない日も多いけれど、できれば8時半、遅くとも9時までには寝かせようということになっている。
朝は、夫婦で娘の世話を分担することになるから、僕も合わせて6時半に起きる。ただ、そこから娘の保育園への送り届けが完了する9時くらいまでは、合間を見てメールの返信などはできても、やはり集中して原稿を書くことはできない。必然的に、急ぎの締め切りが迫っていたりすれば、起床時間を5時、4時と早めていくことになる。いくら朝型の僕でも、さすがにねむい。
最近は夜の酒場取材の機会も増えてきたが、会社員時代とは違い、たとえ夜中の1時に帰ってきたとしても、6時半には起きなくてはいけない。睡眠時間は5時間半。しかも、前夜にしこたま飲んで帰ってきてだ。できれば毎日8時間は寝たい僕にとって、これはねむい。たまに、二日酔いではなくて、眠気がすごすぎて吐きそうになってることすらある。
はぁ、今日もねむいな〜
娘が生まれる以前の休日は、もう感覚を忘れかけてしまっているけれど、とてものんびりとしたものだった。日中はゆっくりと過ごして、なんなら昼寝なんかもしてしまう。夕方近くになると、妻と「夜ごはんどうしようか？」「どっか食べに行っちゃう？」なんて話して、地元の好きな店にでかけてゆく。
ところが近年は、昼間から娘を公園に遊びに連れていったり、習い事に連れていったり、なにかとやることが多い。大好きな昼酒をしている余裕もないほどだ。しかも、6歳という元気盛りの子供を連れての外出は、想像以上に体力と気力を使う。ふだんから酒ばっかり飲んで、まったく運動などしていない自分にとっては、もう、娘の勢いに振り落とされないよう、必死に食らいついているだけ、みたいな感覚だ。それに加えて最近のこの暑さ……。RPGゲームで例えるならば、毒の沼地を歩いているくらいのスピードで、体力がぐんぐんぐーんと減ってゆく。
ただまぁ、昼寝もせずに夢中で遊んで、体力を使いきってしまったのだろう。夕方に家に帰ってきて、気づくとソファの上でスースーと寝息をたてている娘を見たりすると、その寝姿のあまりのかわいさに、すべてが報われてしまうんだけど。
もちろん、休みのたびに必ず外出すると決めているわけではなくて、家族3人、家で過ごす休日もある。そんな日はチャンスだ。娘や妻になにか昼食を用意し、その横で、僕は僕で、冷蔵庫のあまりものをつまみにちびちび飲みはじめたりする。やがていい気持ちになり、「はぁ、今日もねむいな〜」と、床にごろりと横になる。しばらくのあいだ、ひとり夢中でお絵描きなどをしていた娘も、気づけば僕の隣で横になっている。完全に無口になり、だんだんねむそうにまぶたを閉じてゆくその横顔の愛おしさ。別の部屋からは妻が家事をしてくれている音が聞こえている。妻には悪いけど、僕も少しだけ……。ごくたまにではあるけれど、そんなふうに娘と並んで昼寝をするなんて幸せが、人生であと何度味わえるだろうか。
まだまだしばらく続きそうな、ねむさとともにある生活。これも、子育ての大切な思い出のひとつとして、記憶にとどめておきたいものだ。
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パリッコ『缶チューハイとベビーカー』次回第39回は、2023年9月1日（金）17時配信予定です。
筆者について
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家／イラストレーター、DJ／トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく！アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い！物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』（シカク出版）。
