育児エッセイを書くつもりはなかったから、育児のおもしろエピソードをメモすることはなかったが、娘の「言い間違い」語録はおもしろくて、これまで忘れないようにメモに残してきた。今回は、娘のこれまでの言い間違い語録を一挙に発表したい。あ、そういえば、この連載のテーマは「酒と子育て」だった。
子供の言い間違いは天才的
この連載の第1回目、ライターの先輩たちに「いつか育児エッセイを書くかもしれないんだから、おもしろいエピソードはメモしておいたほうがいい」とアドバイスを受けても、僕はそれをしてこなかったと書いた。理由は、酒や酒場専門のライターである僕が育児に関するエッセイなど、書くわけがないと思っていたから(今こうして書いているけど)。
ところが実は、ひとつだけ例外がある。それは、娘の「言い間違い」語録。子供の言い間違いというのは、僕らが思いつく言葉遊びなどとははるか別の角度からやってくる、天才的な発想だ。それが自分にないものすぎておもしろく、また、かわいらしくもあって、忘れないようにしようと極力メモに残しておいたのだ。
最近、娘も5歳になり、あまりに突拍子もない言い間違いはずいぶんと減ってきている。成長なんてゆっくりでいいから、もっと新しい言い間違いをしてほしい! と、なんだか寂しい昨今だ。というわけで今回は、娘のこれまでの言い間違い語録を一挙に発表したい。はたしてそれが、親以外が聞いておもしろいものなのかどうかは判断しかねるけれども、僕としては、何度見返してもおもしろいので。
「めんとろじる」って何?
娘が2〜3歳くらいで、まだまだおしゃべり発展途上のころの、たわいない言い間違いはいくらでもある。
生まれたときからぬいぐるみやらなんやらにたくさん囲まれていながら、長いこと、うさぎの「ミッフィー」の発音ができず、「ミッミー」と言っていた。「鳩ぽっぽ」は「あーぽっぽ」。「リカちゃん」は「るかちゃん」。「パンダコパンダ」が「ぱんだこぱんだこ」。「ポシェット」が「ぽちぇっと」。「ソファー」が「そばー」。「遊園地」が「ようちえん」。「自動販売機」が「じーはんばいき」。「わたあめ」が「わたーめん」。「たべっ子どうぶつ」が「ちびっこどうぶつ」。「目玉焼き」が「めだまごやき」。「春巻き」が「はるまきこ」。「キーマカレー」が「ぴーまかれー」。「ポップコーン」が「こっぷこーん」。「牛乳」が「ぐーにゅー」。「シェイク」が「しーく」。「シュークリーム」が「しょーとくりーむ」(「ショートケーキ」と混ざった?)。「ケンタッキー」が「せんたっきー」(ベタだな)。などなど。
僕ら夫婦が「最近、蚊が出てきたよね」とか「うわ、家に蚊がいる!」とか言ってたら、一文字の単語というものを認識するのが難しかったのだろう、娘は「かが」と覚えてしまい、「かがにさされた」なんて言ってくるのは、いまだに直っていない。また、妻も昔から好きな「ケアベア」というキャラクターのことをなぜか「カピバラ」と覚えてしまい、これも同じく。
娘が妻と一緒にだいぶハマってやり続けているゲーム「どうぶつの森」のことは、しばらくの間「もりのどうぶつ」と言い間違えていて、僕は心の中でひっそり、「それ、普通の動物じゃん」と思っていた。
続いては、なんでそうなるのかがよくわからない部門。「矢印」が「ねじるし」。「ミンミンゼミ」が「みんみんずき」。「コンサート」が「こんすた」。くらいまではまだぬるいほうで、薬局の「ウエルシア」を何度教えても「ねねるしあた」と言ったり、公園で会った友達家族がくれて気に入ったお菓子の「しるこサンド」を「おすいこしる」と言ったり、麦茶のことを「めんとろじる」と言ったりするのは、僕の理解の範疇を越えていてめちゃくちゃおもしろい。
言い間違えているのに偶然意味が通ってしまっているパターンというのもいくつかあって、それは歌ものに多い。たとえば定番の「アンパンマンのマーチ」(作詞:やなせたかし/作曲:三木たかし)で2箇所、「愛と 勇気だけが ともだちさ」と「いけ! みんなの夢 まもるため」をそれぞれ、「ふぁいと ゆうきだけが ともだちさ」「にんげん みんなのゆめ まもるため」と歌うんだけど、それなりに意味が通っていて聴くたびに笑う。
もっと奇跡的だったのが、シルバニアファミリーのオリジナルDVDに収録されていた歌「EVERY HAPPINESS」(作詞/作曲:関有美子)。そのなかに「EVERY HAPPINESS 野菜畑も祝福してる」という歌詞があって、それを娘が「やさいばたけも、しょくぶつしてる♪」と歌っているのを聞いたときは、偶然だけどある意味合ってる! と、謎に感心したものだ。
ハンバーガー&ポテト&コークハイ
娘の言い間違いのなかでも、個人的に殿堂入りだと感じるものがいくつかある。
たとえば『トムとジェリー』の『とまとぜりー』。これは、いわゆる大人が発音するところの「トマトゼリー」ではなく、あくまでトムとジェリーの発音で言うところが味わい深い。
「たんこぶ」のことはなぜか「てんこぶ」と呼んでおり、僕が何か娘の意に沿わないこと、たとえば土曜の午後に「こうえんにいきたい」と言われ、「え〜、今日はパパちょっと疲れちゃったから、明日にしようよ」なんて言った場合、「ぱ〜ぱ、そんなこといってると、てんこぶ、じゅうひゃっかいするよ!」などと言われる。「じゅうひゃっかい」が具体的に何回を指すのかはわからないけど、もし10×100=1000回だとしたら、かなり過酷な罰だと言えよう。
一時期、娘がしきりに「ひゃくえんじょうせんせいがね〜」と謎の人物名を出し、何やらあれこれエピソードを話してくれることがあった。漢字表記にすると「百園城先生」とかになるのだろうか。保育園にそんな先生はいないし、なんだか薄気味悪いな……もしかして、子供にしか見えない、霊的なそういう何か? とか思ってこわがっていたら、TVで『忍たま乱太郎』のアニメが流れた際、娘が「ひゃくえんじょうせんせい!」と言い。それが「学園長先生」のことだったと判明したのだった。
間違いなく娘の最高傑作であり、僕が一生かけてもその境地にたどり着けないと敗北感を味わった伝説の言い間違いがある。それは、ハンバーガーにはまだ興味がなく、ハッピーセットのおもちゃとフライドポテトの専門店だと認識していたころの娘が言い放った「マクドナルド」の言い間違い、「ぽてとなるど」だ。
なんという語感の良さとポップさ。さすがに最近は正しく言えるようになったけれど、3歳くらいころの娘は、頻繁に「ぽてとなるどいきたい!」と言い、そのたび「わかったわかった、今日はそうしようか」などと平静を装いつつも、そのセンスにクラクラしたものだ。
そういえば、この連載のテーマは「酒と子育て」だった。
主に土日が多いんだけど、娘が「ぽてとなるど」に行きたがるたび僕は、あんまりファーストフードばかり食べさせたくないなという気持ちの反面、内心「やった!」とも喜んでもいた。
というのも、娘がマックに行きたがるのは、圧倒的にハッピーセットのおもちゃが欲しい場合が多い。期間中、なんとなく男の子向け、女の子向けと分かれ、それぞれ3〜4種類のおもちゃがランダムにもらえるシステムになっている。勝手のわからなかったころはくじ引き感覚で臨んでいたが、マックのハッピーセットって、すごく凝ったおもちゃがついていながら、びっくりするほど安い。なのでたとえば、僕と妻もハンバーガーやチーズバーガーのハッピーセットを頼み、娘が食べやすいプチパンケーキのそれを頼めば、一度に3つ注文ができる。店舗や混雑状況によっても違うだろうけど、そういう場合、気を使っておもちゃをダブらせないでくれる店員さんは多い。つまり、そうするのが最も、娘の欲しがるおもちゃをゲットできる近道なわけだ。書いていて、なんとも親バカだなぁと思うけど。
さて、今日の昼も家族全員でハッピーセットということになった。僕は頼んだチーズバーガーに、冷蔵庫の輪切りハラペーニョとマヨネーズをプラスして“酒のつまみブースト”をする。ドリンクのコーラにはもちろん、ストローで少し飲んで空けたスペースに焼酎を注ぐ。つまり、もらったおもちゃに夢中の我が子は気づいているはずもないが、僕は昼から、ハンバーガー、ポテト、コークハイでごきげんな昼飲みを楽しめるというわけだ。
僕はマックが好きだけど、個人的に行く場合はセットではなく単品を注文することが多い。また、ふだんコーラを買って飲む習慣もない。なのでこのハンバーガー&ポテト&コークハイは、娘がハッピーセットを欲しがるほんの数年間ならではの組み合わせなのかな。と思うと、それはそれで感慨深い。いやまぁ、やろうと思えばいつでもできるんだけど。
筆者について
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』(シカク出版)。