缶チューハイとベビーカー
第37回

お祭りづくしの夏

暮らし
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夏は子供にとっても大人にとっても楽しみなイベントや祭りが目白押しだ。自分はフリーランスだからあまり関係ないんだけれど、娘にはやっぱり夏休み的な経験をさせてあげたい。夏と子育てと酒と。

地域のお祭りで

コロナの影響で数年間中止や規模縮小が続いてたイベントや夏祭りの類が、完全にとは言えないまでも、今年は軒並み復活してきた感がある。週末に街に出ると、あっちこっちから盆踊りの歌や太鼓の音が聞こえ、なんだかそわそわして、いてもたってもいられなくなってくる。先日も、家族である夏祭りに遊びに行ってきた。

それは偶然前を通りかかった地域の掲示板で見つけた情報で、近所にある小学校の校庭で行われた夏祭り。ヨーヨー釣りやスーパーボールすくいや射的ができて、フランクフルトや焼きそばやかき氷などの販売があって、地域の祭りだからそれぞれが100円とか150円とかで楽しめる。さらに、午後6時から7時まではメインイベントの盆踊りも開催される。これは気軽に遊びに行くのに良さそうだぞと、娘が仲のいい女の子の友達数組に声をかけたら、4家族が参加することになり、待ち合わせをして集まった。

娘たちはいちご味のかき氷を食べ、フランクフルトを食べ、すさまじい行列に並んで遊びをひととおりし、ヨーヨーをふたつ、スーパーボールを3つ、それから、射的で3発中1発があたり、その景品としてえんぴつの形をしたライトなどをゲットした。僕はその様子を眺めつつ、会場では売っていないので、いいのかな? とも思ったけど、特に禁止とも書いていなかったので、近所のコンビニで缶チューハイを買ってきて、もはやすっかり打ち解け、あだ名で呼び合うようになったNちゃんのお父さんと乾杯。これぞ日本の夏! という時間をぞんぶんに楽しんだ。

校庭の中央に建てられたやぐら。その向こうにもくもくと入道雲。さらに、赤から紫へとグラデーションを描き始めた空。午後6時ちょうど。スピーカーから「東京音頭」が流れはじめ、それに合わせてやぐらから太鼓の音が聞こえだす。すると、盆踊りファンって予想以上にいるもので、浴衣を着た老若男女数十人が、その周りをくるくると回りながら踊りだす。なんてエモいんだ。こんな感覚、しばらく忘れてしまっていた。

娘は相変わらずポケモンのアニメが大好きで、その歌のなかに「ポケモン音頭」というのがあり、それに合わせて家で踊ったりしていたので、見よう見まねで友達と、盆踊りのようなことをしている。保育園に通いだしたころはあんなに小さかった子供たちが、きゃっきゃと笑いながら盆踊りをしている様は、遠目に見ているだけで、それはそれは微笑ましい光景だった。

カメさんに会いに

またある日。ことの顛末は別の媒体に『「カメさんキャンプ」の幻影を追って、日高市の高麗ふらり旅』というタイトルの記事として書いたので、興味があったら検索してみてもらいたいんだけど、家族で埼玉県日高市の高麗(こま)という街に遊びに出かけた。というのも、僕は小学校1年生の時から3年間、夏に、高麗で行われる「カメさんキャンプ」というキャンプ体験に参加した。カメさんというお兄さんが自然のなかでいろいろな遊びを教えてくれ、バーベキューや、カレーを作って食べたり、五右衛門風呂に入ったり、友達とロッジに泊まったりといった内容で、ものすごく楽しかった思い出として心に刻まれている。ところが、ネットで検索してもその情報は一切出てこない。カメさんは今ごろどうしているのか? 元気にしているのか? 昨年の夏、なんの手がかりもないまま、思い切って高麗へ行ってみたら、偶然にもカメさんのお知り合いだという方と出会えてしまい、さらにその日、現在は主に農業を営んでいるというカメさんは、残念ながら畑仕事で疲れてお昼寝中ということで会えなかったものの、カメさんの奥様と会えるという奇跡が起きてしまった。

そこから高麗の人々との縁が少しだけできて、「清流青空マーケット」というイベントの存在を知った。そこにカメさんが出店し、育てた野菜などを販売していると知って、家族で遊びに行ったのだ。会場は森のなかにある広場といった感じで、そこに、食べもの、お菓子、飲みものなど、自然な素材を使った様々なブースが出ていたり、音楽のライブや、ワークショップなども行われていて、とてもいい雰囲気だ。娘も、ケーキを買ったり現地にあった手作りの遊具で遊んだりと楽しそうにしている。

そして、カメさん。本当にいた。色とりどりに並んだ野菜の横にバーベキューコンロがあり、そこで焼きそばを焼いている。僕が会うのはもう40年ぶりで、すっかり白ひげをたくわえているけれど、優しそうな笑顔は当時のままで、すぐにわかった。ご挨拶をし、思い出話をたくさんさせてもらい、カメさんの焼いた焼きそばを食べ、そして娘を紹介する。娘は今6歳で、ちょうど僕がカメさんと初めて出会った年になっている。娘自身はよくわかっていないものの、世代を超えてカメさんに会わせてもらうことができて、なんだか勝手に、妙に感動してしまった。

まだまだ夏は終わらない

今週末は、地元では定番のお祭り「灯籠流し」と「ちゃが馬七夕」が、連日控えている。さらに、我が家のある地域からはバスに乗っていかないといけないくらいの場所ではあるものの、これまた地域の祭りで、子供たちが手持ち花火を自由にできるという情報があり(都内で気軽に花火をするのは意外に難しい)、クラスの友達のお父さんお母さんに声をかけてみたら、けっこうな家族が参加するという。土日ともなればあっちこっちから聞こえる、ドーンドーンという花火の音。まだ本格的な花火を見せてあげられたことのない娘に、どこかひとつくらい連れていってあげたいものだ。自分はフリーランスだからあまり関係ないんだけれど、娘にはやっぱり夏休み的な経験をさせてあげたいから、秩父方面のとある宿に旅行に行くことも決めた。そういえば、昨年「プールとビール」という回で書いた地元のプールにも、今年も連れていってやらなければいけないし。

というわけで、なんだか今年は、妙に忙しい、イベントだらけの夏になりそうだ。娘にいろいろな経験をさせてあげたいという気持ちはもちろんあるけれど、ぶっちゃけ、それ以上に自分が楽しみにしてしまっていることは、ここだけの秘密にしておきたい。

*     *     *

パリッコ『缶チューハイとベビーカー』次回第38回は、2023年8月18日(金)17時配信予定です。

筆者について

パリッコ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』(シカク出版)。

  1. 第1回 : 缶チューハイとベビーカー
  2. 第2回 : のびた「アンパンマンうどん」で酒を飲む
  3. 第3回 : 娘、人生初映画館
  4. 第4回 : 保育園での「仕事バレ」問題
  5. 第5回 : 子育ては常に切ない
  6. 第6回 : 「たぬきや」最後の思い出
  7. 第7回 : 子連れ外食
  8. 第8回 : ぼこちゃん、言い間違い語録
  9. 第9回 : 娘、初めて父のトークライブを見る
  10. 第10回 : 子供と酔っぱらいは似ている
  11. 第11回 : ボーナス“酒”チャンス
  12. 第12回 : 卒業
  13. 第13回 : 不安と混乱の1週間
  14. 第14回 : 特別な夜
  15. 第15回 : 娘が生まれた日
  16. 第16回 : ぼこちゃん、カルビ焼肉を好きになる
  17. 第17回 : プールとビール
  18. 第18回 : 子乗せ電動アシスト自転車がパンクした夜
  19. 第19回 : インプットの時間が足りない問題
  20. 第20回 : ピクニックあれこれ
  21. 第21回 : 酒場ライターと子育て
  22. 第22回 : 家族と会えなかった10日間
  23. 第23回 : 妻が妊婦だったころ
  24. 第24回 : 子連れ外食 その2 「サイゼリヤ」と「しゃぶ葉」
  25. 第25回 : こたつ鍋の喜び、ふたたび
  26. 第26回 : 雪見酒の日
  27. 第27回 : 忘れる記憶、忘れない記憶
  28. 第28回 : 記録することは、未来の酒の肴を仕込む行為でもある
  29. 第29回 : 子供の成長
  30. 第30回 : 子を叱る
  31. 第31回 : 3年ぶりの家族旅行
  32. 第32回 : すこし不思議な話
  33. 第33回 : 家族で鳥貴族
  34. 第34回 : 初めてのパパ友飲み会
  35. 第35回 : いつか娘と酒が飲みたいか?
  36. 第36回 : 初めての、娘がいない夜
  37. 第37回 : お祭りづくしの夏
  38. 第38回 : 子育ては「ねむさ」とともにある
  39. 第39回 : 酒と運転
  40. 第40回 : 思い出の追体験
  41. 第41回 : カラオケパーティー
  42. 第42回 : 遺伝子の不思議
  43. 第43回 : 保育園最後の……
  44. 第44回 : 仕事が進まず、飲むしかない
  45. 第45回 : さらばベビーカー
  46. 最終回 : そして酒飲みの子育ては続く
連載「缶チューハイとベビーカー」
  1. 第1回 : 缶チューハイとベビーカー
  2. 第2回 : のびた「アンパンマンうどん」で酒を飲む
  3. 第3回 : 娘、人生初映画館
  4. 第4回 : 保育園での「仕事バレ」問題
  5. 第5回 : 子育ては常に切ない
  6. 第6回 : 「たぬきや」最後の思い出
  7. 第7回 : 子連れ外食
  8. 第8回 : ぼこちゃん、言い間違い語録
  9. 第9回 : 娘、初めて父のトークライブを見る
  10. 第10回 : 子供と酔っぱらいは似ている
  11. 第11回 : ボーナス“酒”チャンス
  12. 第12回 : 卒業
  13. 第13回 : 不安と混乱の1週間
  14. 第14回 : 特別な夜
  15. 第15回 : 娘が生まれた日
  16. 第16回 : ぼこちゃん、カルビ焼肉を好きになる
  17. 第17回 : プールとビール
  18. 第18回 : 子乗せ電動アシスト自転車がパンクした夜
  19. 第19回 : インプットの時間が足りない問題
  20. 第20回 : ピクニックあれこれ
  21. 第21回 : 酒場ライターと子育て
  22. 第22回 : 家族と会えなかった10日間
  23. 第23回 : 妻が妊婦だったころ
  24. 第24回 : 子連れ外食 その2 「サイゼリヤ」と「しゃぶ葉」
  25. 第25回 : こたつ鍋の喜び、ふたたび
  26. 第26回 : 雪見酒の日
  27. 第27回 : 忘れる記憶、忘れない記憶
  28. 第28回 : 記録することは、未来の酒の肴を仕込む行為でもある
  29. 第29回 : 子供の成長
  30. 第30回 : 子を叱る
  31. 第31回 : 3年ぶりの家族旅行
  32. 第32回 : すこし不思議な話
  33. 第33回 : 家族で鳥貴族
  34. 第34回 : 初めてのパパ友飲み会
  35. 第35回 : いつか娘と酒が飲みたいか?
  36. 第36回 : 初めての、娘がいない夜
  37. 第37回 : お祭りづくしの夏
  38. 第38回 : 子育ては「ねむさ」とともにある
  39. 第39回 : 酒と運転
  40. 第40回 : 思い出の追体験
  41. 第41回 : カラオケパーティー
  42. 第42回 : 遺伝子の不思議
  43. 第43回 : 保育園最後の……
  44. 第44回 : 仕事が進まず、飲むしかない
  45. 第45回 : さらばベビーカー
  46. 最終回 : そして酒飲みの子育ては続く
  47. 連載「缶チューハイとベビーカー」記事一覧
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