外食は大好きだけど、子連れの外食は店の選択肢が限られる。加えて飲酒となると、居心地良く過ごせる場所はさらに限られる。子連れ外食の幸福で、少し切ない思い出。そして2年ぶりに子連れで外食してみると……。
ファミレスのありがたさ
僕も妻も外食が好きなので、日本がコロナ禍に突入する以前、つまり約2年とちょっと前までは、ほぼ毎週末ごとに家族で外食に行っていた。
とはいえ、店の選択肢は限られる。まず、僕がこんなにも酒好きでありながら、当時まだ2歳だった娘を連れ、平気で居酒屋に行くというのには抵抗があった。もちろん家庭ごとの方針があり、子供を居酒屋に連れて行くことを否定するつもりもないし、実際、一度も連れて行ったことがないわけじゃない。
あれはコロナ禍直前、「そろそろ試しに一度くらいは」と、地元の大好きな沖縄居酒屋「みさき」に、店が空いているであろう開店時間の午後5時に合わせ、家族で行ったことがある。ママの恵理子さんとは日中の街なかでばったり会うことも多く、僕がベビーカーを押して買い物をしているところなんかを目撃されては、「あら、イクメンちゃん発見!」と声をかけられたりしていた。なので、家族連れでの来店にはとても喜んでくれ、娘も娘で珍しい環境にはしゃぎつつ、「さかなの天ぷら」なんかを喜んで食べていた。
が、それはやっぱり特別な状況で、基本となるのは「昼外食」。そこでありがたすぎたのが、「ファミリーレストラン」の存在だった。それ以前にも、「ファミレスで酒を飲んでみる」なんてコラムを書いたりしたことはあり、そもそもファミレスは好きだった。けれども、その底知れぬ偉大さを実感したのは、やはり子供が生まれてからだなと思う。
ファミレスはその名のとおり、客が家族で来ることを想定しているから、設備が整いきっている。子供用の椅子に、かわいらしい食器類。当時娘は、今よりもだんぜん食べられるものが限られていたが、それでも玉子焼き、からあげ、ポテト、パンなどがセットになったお子様ランチのようなものはなんとか食べてくれた。しかも、そういうものにはたいてい、おまけのおもちゃがついてくる。プラスチックでできたままごとセットや、飛行機や車やら、たわいないものではあるけれど、それを選ぶ娘の目は、信じがたいほどに輝いていた。
また、何よりも大きいのが「子供が多少はしゃいでも誰も気にしない」という点。ファミレスにいる人々は、誰もが「ここはそういう店」という共通認識を持っている。赤ら顔で生ビールを飲みながら「ちっ、ガキどもがギャーギャーうるせえな……」なんていうオヤジがもしいようものなら、そっちのほうが場違いなのだ。この環境は子連れの身にとっては本当にありがたく、「ガスト」「ジョナサン」「デニーズ」には特にお世話になった。しかも幸いなことに、僕は仕事がら「ファミレスでいかに酒を飲むか」の訓練も事前に積んでいたので、娘がお子様ランチ、妻がハンバーグランチなんかを食べている横で、「ピリ辛キムチ冷奴」と「コーンのオーブン焼き」あたりをつまみに生ビールを一杯やったりするのだけど、いやぁ、あの時間の幸せなことといったらなかったなぁ。
「ラーメンハウスたなか」
それともうひとつ、地元でものすごくお世話になったのが「ラーメンハウスたなか」という個人経営の中華料理屋。いわゆる町中華と呼ばれるタイプの店でありながら、かなり広々としていて座敷席も充実。大将に「娘用にチャーハンを味薄めで作ってもらえますか?」などと申し訳ないお願いをしてしまっても快く対応してもらえたし、店に着くなり娘が眠がってしまい、しかたないので座布団の上に寝かせておいて親だけがメシを食う、なんてことも大らかに許してくれた。
たなかに関しては、酒とつまみの充実度も忘れてはいけない。オーソドックスな中華料理メニューが揃っているのはもちろん、150円の「辛味もやし」をはじめとして、「たこの唐揚げ」「レバーの唐揚げ」「男爵コロッケ」「キャベツメンチ」なんていう、ちょうどいい一品メニューが豊富すぎるのだ。それらをちびちびとつまみながら、まずは生ビールを1杯。妻も一緒にいて、しかも歩いて帰れる地元の店なのをいいことに、たいてい2杯めもいく。ここで嬉しいのが「缶ハイボール」の存在で、氷入りのジョッキつきで出してもらえて、350mlの缶が1本350円。しかも、デフォルトが「角ハイボール」の「濃いめ」!
と、思い出すだけでほろ酔い気分になるラーメンハウスたなかだが、残念ながら2021年末に、突然閉店してしまった。そのしらせを聞く直前、地元の酉の市に家族で熊手を買いに行った帰り道のこと。コロナの感染者数が激減していたタイミングだったこともあり、本当に久しぶりに「家族でたなかに寄って帰ろうか?」という流れになった。ところが娘は疲れてしまったのか「もうかえりたい」と言う。そのときは、無理やり連れていってもしかたないし、まぁ、またいつでも来られるし、なんて素直に帰ったんだけど、思えば家族でたなかに行けたタイミングは、あれがラストだったんだな。と、思い返すとちょっぴり切ない。
2年ぶりの外食
それからしばらくして、やたらと流れるTVCMにまんまとのせられ、家族で「スシロー」へ行こうということになった。娘にとっては、約2年ぶりの外食だ。
コロナ以前も、車で妻の実家に帰省する際など、寄りやすいので家族で回転寿司に行くことはあった。が、基本的に娘が食べられるものはないので、店員さんに断り、持ち込んだ麦茶と小さなおにぎりなどを食べさせてやって、そのすきに親が大急ぎで寿司をつまむというような利用のしかただった。ところが、その頃から娘は2年ぶん成長している。まだ寿司は無理だけど、回転寿司屋で食べられるメニューの選択肢も出てきた。といって、フライドポテト、からあげ(しょっぱいと言うので僕がつまみにした)、かぼちゃの天ぷら(これは気に入っておかわりした)、チョコケーキなど、およそ寿司とは関係のないものばかりなんだけど、それらを楽しそうに食べている姿を見て、もっと気軽に外食に連れていってやれたらなぁと、あらためて思った。
ちなみにその日、娘が「あそこに『き・め・つ』ってかいてある!」と言うので、最近ひらがなを読めたり、少し書けたりもするようになってきたのは知っていたけど、「もう漢字も読めるの!?」と驚き見てみると、その指差す先にあったのが、人気漫画「鬼滅の刃」とほんのりデザインが似ている「スシロー」のロゴで笑った。
筆者について
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』(シカク出版)。