我が家にこたつのある生活が戻ってきた。娘も大いに気に入り、朝起きて部屋に来ると、迷わず首もとまで潜り込んでいる。そして今冬は、さらにもうひとつの大変革も訪れた。
娘の誕生をきっかけに
妻とふたりで暮らしはじめるにあたり、東京都練馬区の石神井公園という街に住み始めてから、もう14年になる。その間、同じ街のなかで一度だけ引っ越しをした。4年前のことだ。
理由はやはり、娘が生まれたからというのが大きい。以前の家は、5階建てマンションの最上階で、日当たり良好な角部屋だった。特にリビングの大きな窓からの眺めは素晴らしかった。視界のなかに高い建物がまったくなく、見晴らし最高。少し遠目にではあるが、大好きな石神井公園の、こんもりと茂った木々たちも見える。晴れた日など、カーテンを開けるとまるで日光浴をしているような心地よさだ。
ただ、その大きな窓が「出窓」で、ちょっとした立ち飲み屋のカウンターくらいの幅と奥行きがある。そして、窓の外には、横に鉄の柵が2本あるのみ。当時、娘はまだ1歳だったので、もちろんそこに手は届かなかったけど、これからどんどん成長し、うっかり登ってしまい、さらに鍵を開けてしまったら……なんてことを考えてしまうともう、気が気じゃない。
他にも、築年数が古めで、オートロックではなかったところ。ドアモニターがなかったところ。宅配ボックスがなかったところ。また、自分たちは10年住んですっかり慣れっこになってしまっていたが、街道沿いにあり、夜は車の走行音がけっこう聞こえる。特に、救急車や消防車の音は強烈だ。同じ部屋に小さな子供が寝ていると、それもかなり気になるようになった。
そんな理由が重なって、ほんのちょっぴり背伸びした物件ではあるけれど、今のマンションに引っ越しを決めた。引越し後にしばらくしてからフリーライターとして独立し、今でもなんとかそこに住めているのは、まったく幸運なことだと思う。
こたつの復活
ところで僕は、どちらかというと和風の、地べたスタイルの暮らしが好きだ。以前のマンションではずっと、無印良品で買った、大きめの楕円形木製こたつテーブルを居間に置き、冬はこたつとして、それ以外の季節は座卓として使い、過ごしていた。
ところが引っ越しに合わせ、まず、幼児にとって必ずしもこたつが安全でないという理由。また、娘がきちんと椅子に座って食事をとれるように育ってほしいという思い。それから、キッチンと居間がカウンターを通してつながっているという部屋の作り的に、そのほうが似合うだろうということもあり、ダイニングテーブルを導入した。おのずと、春夏秋冬テーブル&椅子で過ごし、冬場は暖房で部屋を暖める生活になった。
それはそれで快適だし、なんの文句もない。けれども僕は、とにかくこたつが大好きのだ。冬になるとどうしてもこたつが恋しくなる。そんななか、今年、我が家に一大転機がやってきた。
「ぼこちゃんもそろそろ大きくなってきたし、きっと喜ぶだろうから、今年はこたつを出してあげようか?」
妻からの提案だった。そりゃあもう大賛成! 我が家にはリビングの隣にふだんあまり使っていなかった和室があり、そこをざっと片づけ、久々にこたつテーブルを出す。ずいぶん長く使い、さらにしまいこんであったから、内部にまでほこりがたまってしまっていたヒーターは、新しく買い替えた。引っ越しをきっかけに捨ててしまった、少々くたびれがちだったこたつぶとんも、新しく購入。晴れて、我が家にこたつのある生活が戻ってきたというわけだ。
新しいこたつぶとんは、新品のフリースっぽいさわり心地というんだろうか、ふわっふわのとろっとろで、重みもちょうどよく、いったん潜り込んだら容易には抜け出せない。じんわりと足元を暖めてくれるヒーターも、あまりにも心地よすぎる。実際、娘もこたつを大いに気に入り、朝起きて部屋に来ると、迷わず首もとまで潜り込んでごろごろしはじめる。それから食事をとるのも、塗り絵やゲームで遊ぶのも、すべてこたつでになった。
夕食時、おかわりの酒をキッチンへ取りにいき、部屋に戻ると、娘が妻に寄り添うように隣り合っている。妻の背中と、ぬくぬくと暖かそうな小さな背中が並んでいるのは、なかなかほほえましい光景だ。
「BRUNO」革命
今冬は、さらにもうひとつの大変革も訪れた。それが「卓上ホットプレートの復活」だ。
かつてふたり暮らしを始めたと同時に購入したサンヨー製のホットプレートには、ものすごくお世話になった。大きな鍋と、2種類の鉄板と、たこ焼きプレートが付属し、よく家で、鍋や焼肉、粉もんなどを楽しんだものだ。あまりに気に入り、保証期間を超えて故障した際、わざわざ工場に持ち込んでまで修理してもらったのもいい思い出。ところがこれも、娘の誕生と同時に出番がなくなった。
もちろん、卓上で使い、まだ小さな娘がうっかり鍋や鉄板に手を触れてしまわないかという心配からだ。子育てをしていると生活のなかに、それまでは想像もしていなかった小さな不満、いや、娘のためなので不満というのは違うな。ほのかな制約というのか、そういうものがちょこちょこ発生するものだということを知った。というわけで、ちょっと過保護なのかもしれないが、娘が5歳になった今まで、卓上でホットプレートを使うことはなかった。
ところが昨年末。さすがにそろそろホットプレートを使っても大丈夫かね、なんて話していたところ、妻が見つけてきたアイテムがある。以前から良い評判を聞いていて、いつか欲しいと思っていた「BRUNO」というホットプレートの、ミッフィーとのコラボモデルだ。かわいい。そして、娘がとても喜びそうだ。それを思いきって買い、ついに我が家に「こたつ×ホットプレート」という、冬の晩酌における最も幸せなシステムが導入されたのだ。
我が家は3人家族なので、悩んだ末、いちばん小さい「コンパクト」サイズを選んだ。オレンジ色で四角いデザインがおしゃれで、サイドにはミッフィーの絵柄が描かれ、フタの持ち手もミッフィーの形になっている。基本、付属するのは「平面プレート」と「たこ焼きプレート」の2枚。加えてこの限定モデルには、6つの円形のへこみでパンケーキなどを焼ける「マルチプレート」もついてきて、そのへこみそれぞれに、ミッフィーや仲間たちを描いたでっぱりがある。つまり、焼いたものの表面にキャラクターが浮き上がる仕組みというわけだ。また、なんと運良く、よく行く薬局のたまっているポイントで、専用の鍋が交換できることが判明。さっそくそれも注文した。
以来、BRUNOは大活躍。まず作ってみたのは、マルチプレートを使ったお好み焼きだった。いわゆる「大阪焼き」、関西で言うところの「リング焼き」のようなサイズ感。タネを作って、豚肉を敷いたホットプレートで焼き、ひっくり返してまた焼くと、裏側にキャラクターが浮かび上がる。最初こそ「おやさいがはいってる! や〜だ!」などと言っていた娘も、そのかわいらしい見た目につられてひと口食べてみたところ、細かく刻んだキャベツはあまり気にならなかったようで、よく食べてくれた。
それ以上に大活躍なのが、娘の好物であるたこ焼き用のプレート。といっても、娘はたこを嫌がるので、食べるのは「素たこ焼き」だが、頻繁にリクエストがある。たこ焼きのなにがいいって、生地ににんじんやら玉ねぎやらのすりおろしをたっぷり加えて焼いても、バレずに食べてくれるところ。まだまだ好き嫌いの多い娘が、どんな形であれ野菜を食べてくれるのは嬉しい。トータルで24個の穴があるうち、半分はたこや紅しょうが抜きゾーンにして焼いてやると、12個くらいはぺろっと食べてしまう。ごていねいにひとつずつにソースをつけ、小さな指でかつおぶしと青のりをつまみ、ちょんとかけては食べる姿が、なんとも愛らしい。ちなみに市販のパンケーキミックスに指定の量の水と玉子を加えて溶き、このプレートで焼くだけで、簡単に「ベビーカステラ」風のものも作れるので、子供のおやつにもおすすめだ。
そして鍋。これまたいつもと違う真新しさから、娘が食べられるものを増やしてもらえ、ありがたさを実感している。
最近よく作っているのは「鍋キューブ」の濃厚白湯味で作る、鶏白湯ベースの鍋。以前は、液体がたぷたぷに入った、でっかい鍋のもとをよく使っていたが、我が家のBURUNOはコンパクトサイズなので、量が調節できる鍋キューブがものすごく便利だ。1袋にキューブが8個入りで、それで2、3回は鍋ができるし、個包装なので日持ちもする。
具材の定番は、最近娘が好きになった豚ばらの薄切り肉と豆腐。それから鶏ひき肉で作る鶏だんご。ひき肉に、片栗粉、玉子、そしてたっぷりの“刻んだえのき”を加えるのがポイントで、きのこの旨味が加わり、食感もぐっと良くなる。けっこうたっぷり加えてしまっても、娘は気づかずにぱくぱくと食べてくれるので、「えのきが入っているとも知らずに……」と、心ひそかにほくそ笑みつつ酒をすする瞬間がたまらない。
野菜は、ねぎや白菜も大好きだけど、最近は夫婦でレタスにハマっていて、鍋に入れる野菜の王者って、もしかしてレタスなのでは? とすら感じはじめている。熱を加えたことによって押し上げられる甘みと香り、さらに、汁気を吸った肉厚な食べごたえがたまらない。まぁ、これらのダイレクト野菜たちについては、娘はまだ食べたがらないんだけど。こんなにうまいのに。
言わずもがな、今回紹介したどれもが、ビールやチューハイに最高に合う。こたつで熱々をはふはふ言いながら食べつつ、キンキンの酒をごくり。これ以上に楽しいレジャーなんて、他にないんじゃないか? などと、少々大げさにつつましき幸せを噛み締める冬なのだった。
そういえば初代のサンヨー製ホットプレートはどうなったのかというと、さすがに使い込みすぎた鉄板類はだいぶくたびれてしまっていたので、ご引退願うことになった。が、本体と鍋はまだまだ現役で使えそう。そこで、近所に借りている仕事場に持っていくことにした。ひとりこそこそと仕事場で鍋をする機会。いつやってくるのかはわからないけど、それはそれでわくわくするものがある。
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パリッコ『缶チューハイとベビーカー』次回第25回は、2023年2月17日(金)17時配信予定です。
筆者について
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』(シカク出版)。