いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。

青になるたびに渡ればかつてこの交差点が海だった日のこと

宮益坂道玄坂にふる雨も約束もここに帰ろうとする

待つだけじゃだめなんだよ、とささやいてハチの代わりに狩りを始める

まっすぐに歩くと決意するだけで他者はたいてい避けてくれるね

いる場所をリアルタイムにつぶやいてそういうばかなところも好きだ

人波の海岸線を監視している信号もぼくも血まなこ

君だけが止まって見える雑踏で好きだって言い飽きたりしない

手袋を外してから手を繋いでも皮膚のぶんだけ遠いと思う

消えないで赤く灯っているままの皆既月蝕、ちがう、両目だ

いた、髪の色も長さもちがうけど、きみ、いた、きみ、の、となり、だれ、これ

お揃いでつけていたキーホルダーのスーモまだひとりで生きていた

「ひさしぶり」ではないじゃんかずっといたじゃんかきのうもキスしたじゃんか

恋人のときとおんなじ呼び方でわたしを呼ぶのもうやめにして

ふれようとした手をだれかわからない奴に払われ夢かと思う

三人が同じネオンを浴びているその明滅の滅が光った

クラクションまみれのぼくらもう終わりなんだねごめん、ひかれ、包丁
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この続きは、2023年2月16日(木)17時公開予定。
筆者について
きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。