いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。

奇数では割れないピザのどの味も一枚ずつ余っている月夜

母を追いきみも子猫も駆け出してひとりで剥いている萩の月

缶ビール潰せばベッドに逃げてゆく仔犬、こいぬという名にしよう。

「いる人が見えない 病気」こんなとき(にも/こそ)ぼくはGoogleに訊く

こねこって名前もいいって笑いつつきみの切るサランラップ長すぎ

肉じゃがの具材を具材のまま抱きしめてちりちり鳴くレジ袋

午前0時 眠ってたのにくちづけてきて誕生日おめでとうって

おめでとうではなくどこにいるのって送った午前0時から雨

四桁の西暦のある朝生まれ四桁の西暦まで生きる

生きてさえいればいいとは思えない きみにはぼくを生きてほしくて

暮らしてるふたりが外で待ち合わせするときの会いたさ、迷子みたい

出てみれば図太い声でそれが父だとわかるまで聞いちゃっていた

なんとなく指輪はひとつもつけないでゆく荻窪駅東改札

ぐちゃぐちゃにされた小箱の隙間から朝を見ているLOEWEの財布

ハチ公の見つけやすさに飽きていてスクランブル交差点の中へ

死んでないなら許せない未読無視ごとポケットに入れて渋谷へ
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この続きは、2023年1月12日(木)17時公開予定。
筆者について
きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。