いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。

太陽を直接見てはいけないと言われてたのに包丁を、見た

届かないきみへの愛の先端にこの刃渡りを足して届ける

銀色を財布の色に塗り替えて二度目のはじめましてをしよう

荻窪と渋谷を結ぶ一本の路線は存在しない世界で

脳内で百箇所以上刺したのに想定外にきみがかわいい

新宿で乗り換えたとき七番線ホームも揺れていた気がするの

ほうちょうをほうように書き換えるため冷たい柄から両手をはなす

加害でも被害でもいい 恋よりも濃い関係がほしかっただけ

暗闇を奪うためには手のひらを振る雨にまず濡らさなければ

刃をわたるひかりが君と君を結び刺すことは刺されることだった

恋人の恋人(ぼくじゃないほう)のシャツにドットをつくる返り血

映画のよう 最前列で観ることは初めてだから目は開けたまま

夜の血に色はないのに血と雨が混ざるのを美しいと思った

脇腹が鋭利に熱いままの夜そうか退場するのはぼくか

走馬灯みたいなメリーゴーランド止まるのでなく消えてゆくだけ

サイレンで渋谷はメリーゴーランド きみを残して降りたくないよ
最終回は、6月15日(木)17時更新予定。
筆者について
きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。