今、世界ではなにが起きているのだろう?『図解でわかる 14歳からの地政学』では、地政学(国際的な政治・軍事に関わる事柄を、地理的な様々な条件を基に考察すること)というフィルターを通して、世界の今を俯瞰しています。ここでは、本書からロシア情勢に関する記事をご紹介します。今回は、ロシアという国の誕生から、今起きている問題の根本を見直します。地球に生きる「引っ越しのできない隣人同士」が共存するための、理想と理性の地政学を共に学びましょう。
ハートランドを制したロシア帝国
現在のロシアがウクライナに執着するのは、そもそもロシアという国家がウクライナから始まったためとも考えられます。
ウクライナはユーラシア大陸で最も肥沃な平原と温暖な気候に恵まれた地。ここに9世紀頃、小さな国キエフ公国が誕生しますが、13世紀には東から押し寄せてきたモンゴルに征服されます。このモンゴルの臣下になって徴税を請け負った一派が力をつけ、14世紀初頭にモスクワ大公国が台頭。モンゴルの衰退と同化、内輪もめなどを経て、1613年、のちにロシア帝国を築くロマノフ家の初代皇帝ミハイル・ロマノフが即位し、ロシアの近代史が始まります。
ロシアがユーラシア大陸の東端まで、果てはアラスカまで領有したのも、ウクライナに発する戦士軍団コサックに負うものです。皇帝の命を受けたコサックたちは、ラッコやテンの貴重な毛皮を求めてシベリアに遠征。少数民族を平定し、ついには太平洋に連なるアリューシャン列島に達します。こうして17世紀半ばには、広大な大陸国家の版図が姿を現すに至りました。
20世紀初頭、イギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダーは自著の中で、このロシア帝国の占める領域を「ハートランド」と表現しています。ヨーロッパも含めたユーラシア大陸を制するのは、このハートランドを制したものだ、とも記しています。マッキンダーが危惧したことは、ヨーロッパ諸国にとっては自明でした。国土の大半が寒冷で耕作できないロシア帝国の膨張圧力は、西と南に向かいます。ヨーロッパにとってロマノフ王朝のロシア帝国は、常に巨大な脅威であり続けました。
このロシアの脅威は、皮肉なことにロマノフ王朝の滅亡によって最高潮に達します。1922年、レーニンなど亡命ユダヤ人たちによってソビエト社会主義共和国連邦が誕生。マッキンダーのハートランド論が正しければ、社会主義が世界を制することになる、という事態が生じたのです。
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本書では、ロシア・ウクライナ情勢のほかにも、アジアやアメリカ、中東などの地政学的危機の現場についてわかりやすく解説しています。『図解でわかる 14歳からの地政学』(インフォビジュアル研究所・著、鍛冶俊樹・監修)は全国書店・通販サイトや電子書店で発売中。地球上のすべての隣人のために、今一度世界情勢を見つめなおしてみましょう。なお、「図解でわかる14歳からの~」は現在第19弾まで刊行されている人気書籍シリーズ。地政学のほかに、ごみ、水資源、気候変動などの環境問題、資本主義、宇宙開発、食料問題、LGBTQ+、防災などなど、今だから学び直しておきたいワンテーマを1冊に凝縮して3~4カ月毎に刊行されています。
筆者について
2007年より代表の大嶋賢洋を中心に、編集、デザイン、CGスタッフにより活動を開始。ビジュアル・コンテンツを制作・出版。主な作品に『イラスト図解 イスラム世界』(日東書院本社)、『超図解 一番わかりやすいキリスト教入門』(東洋経済新報社)、「図解でわかる」シリーズ『ホモ・サピエンスの秘密』『14歳からのお金の説明書』『14歳から知っておきたいAI』『14歳からの天皇と皇室入門』『14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来』『14歳からの地政学』『14歳からのプラスチックと環境問題』『14歳からの水と環境問題』『14歳から知る気候変動』『14歳から考える資本主義』『14歳から知る食べ物と人類の1万年史』『14歳からの脱炭素社会』『14歳からの宇宙活動計画』(いずれも太田出版)などがある。
鍛冶 俊樹
かじ・としき 軍事ジャーナリスト。元航空自衛隊幹部。『日本の安全保障の現在と未来』で第一回読売論壇新人賞受賞。著書に『領土の常識』『国防の常識』(共に角川新書)、『戦争の常識』(文春新書)など、監修に『超図解でよくわかる!現代のミサイル』(綜合図書)、『イラスト図解戦闘機』(日東書院本社)。配信中のメルマガ「鍛冶俊樹の軍事ジャーナル」は、メルマ!ガ オブザイヤー2011受賞。