縄文 ナショナリズムとスピリチュアリズム
第13回

宇宙考古学 遮光器土偶は宇宙服を着ている?

学び
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日本において、古代社会における宇宙人との接触「宇宙考古学」はいかにして醸成されたのか。縄文時代晩期に制作された遮光器土偶は「宇宙服を着ている」宇宙人来訪説の根拠として論じられ、世界的に知られることとなった。オカルト的スピリチュアリティと縄文が接合する。

「古代宇宙人来訪説」と「宇宙考古学」

地球の危機を煽り、世間を騒がせた宇宙友好協会(CBA)は、1961年8月、ひとりのアメリカ人を招聘した。

ジョージ・ウィリアムスン。

考古学を専門とする活動家であり、空飛ぶ円盤との「コンタクティ」(接触者)として知られていた。彼の議論の特徴は、「古代宇宙人来訪説」にある。これは古代に異星人が地球を訪れ、さまざまな痕跡を残したという説で、ピラミッド、スフィンクス、ナスカの地上絵、モアイ像など、世界中の古代遺跡を<宇宙人が作ったもの><人間が宇宙人に見せるために作ったもの>として解釈する。CBAはこの説に接近し、「宇宙考古学」という造語を生み出した。

1961年8月27日。東京有楽町の朝日講堂で、ウィリアムスンの講演会が開催された。主催はCBA。会場には全国から多くの人が押し寄せ、約500人の参加があったという[地球ロマン編集部1976:169]。

ウィリアムスンの講題は「大いなる前兆と驚異 空飛ぶ円盤飛来の目的は何か」。彼は多数のスライドを準備し、自らプロジェクターを操作しながら話を進めた。会場には、持参した「インカの音楽」を流し、舞台照明なども彼が演出した。

CBAは講演の概要を次のように伝えている。

スライドは古代のインカ・マヤを始め、世界各地の古代文明の遺跡をたずね、偉大なる古代文明は、すべて大空の道を通じて宇宙と何らかの連なりがあったことを証明する。そして、その古代の遺跡の上空に度々出現する円盤も見事に博士のカメラにとらえられ、古代と現代とを結ぶ人類の問題が一見の中に看取されるのである。大いなる前兆とは正に之であろう。

そして最後に、永遠なる宇宙の象徴の如くはたまた人類の母国の如く、博士は四季の富士山を映し出す。博士は日本を愛し、日本人に失われた何ものかを想出させ、偉大な使命のある事を訴えんとするのだ。高まるアマゾンの幻想的メロディーと共に宇宙空間を航行する黄金の円盤を浮かび上がらせる……恰も明日の地球人類の栄光ある日々を啓示するかのうように……。

[地球ロマン編集部1976:169-170]

ウィリアムスンは持論の古代宇宙人来訪説を説いた。そして、「アマゾンの幻想的メロディー」やスライドを使った神秘的演出によって、スピリチュアルな空間を創出した。

講演後、ウィリアムスンは日本各地の古代遺跡訪問を希望した。CBA幹部は、彼を連れて、北海道に向かった。

まず訪れたのは余市(よいち)のフゴッペ洞窟と小樽の手宮洞窟(てみやどうくつ)だった。ここは岩壁に刻画が残る洞窟遺跡で、4~5世紀の続縄文文化を担った人々が書き残したとされる。様々な動物と共に、角をもつ人や四角い仮面をつけた人などが描かれているが、これは祭礼をつかさどるシャーマンだとされる。

一行は小樽の忍路(おしょろ)ストーンサークルにも立ち寄り、縄文後期の環状列石を見学した。さらに、日高地方にも足を進め、平取のオキクルミ降臨伝承地を訪れた。オキクルミとは、アイヌ民族の口承文芸「カムイ・ユーカラ」に登場する国土創造の神のことで、人間界を治めるために平取(びらとり)に降臨したとされる。この場所は、のちにCBAにとって重要な場所となる。

次に一行は西日本に向かった。山口県では石城山神籠石(いわきさんこうごいし)を訪れ、宮崎の高千穂(たかちほ)にも足を延ばした。

ウィリアムスンと日本各地の古代遺跡を訪ねたCBA幹部は、この旅を通じて日本各地の古代遺跡を、宇宙人との交流を示すものと認識していった。彼らは、古代社会における宇宙人との接触を確信し、急速に「宇宙考古学」へと傾斜していったのである。

古代に現れた「太陽円盤」

CBAの機関紙『空飛ぶ円盤ニュース』は、1962年4月号で「古代オリエントの円盤! 有翼太陽円盤の謎」という特集を組んだ。

原稿の執筆には、代表の松村雄亮と桑田力があたった。彼らは、古代オリエント各地の遺物に描かれた絵や図像のなかに、半ば強引に「空飛ぶ円盤」を見出していった。彼らは「車輪」や「船」、「翼」、「雲」などを宇宙人(ブラザー)の乗り物と解釈し、古代人との交流が示されていると論じた。

古代人の多くは、太陽を聖なるものとして信仰の対象としたが、その象徴として「太陽円盤」が表現されたという。

昔の人達がかつて太陽の円盤と呼んだものは、今日でいう“空飛ぶ円盤”であり、そのウイングの真中に描かれた人像こそ、天金人たる宇宙のブラザー達の姿であったのだ。

[松村・桑田1962:19]

松村・桑田は、この研究によって古代社会の宇宙人来訪の「刻印」が確認されたとし、「真実」が明らかになったとする。そして次のように言う。

もし真実の歴史を知り、何らの偏見もない、ストレイトな受けとり方をするならば現在、地球上の29億人類の中で、誰一人として空飛ぶ円盤を否定し、ブラザーの来訪を認めないものはいなくなるであろう。

静かにものいわぬかの古代遺跡の彫像から、はたまた、息もつまるほどに刻みつけられ、解読者の苦心をなめ尽くした古代粘土板や古代碑文の中からまぎれもない“ブラザーと地球人”との間の歴史的関連がはっきりと浮き彫りにされてきた。

[松村・桑田1962:6]

松村・桑田曰く、このような人間と宇宙人の交流は、古代に限定された現象ではない。宇宙からの「解放者」は、現代の世界にこそ来訪しており、その「事実」に目を向けなければならない。輝きに満ちた世界に生きるか、暗黒の世界に生きるか。われわれはその岐路に立っている。

古代の神話には、必ず英雄と怪獣が登場する。現代人の多くは、この怪獣に「捕囚」されており、「正義」が覆い隠されている。怪獣の餌食になっている現代人を救済する英雄こそ、宇宙人である。「空飛ぶ円盤」の来援こそが、人類の救いである。[松村・桑田1962:6-7]

古代太陽王国 vs. 天皇

このような「宇宙考古学」にのめり込んだCBAのメンバーは、1962年5月15日、「CBA古代日本学術調査隊」を結成し、日本の遺跡のなかに「太陽円盤」を探して、九州へ向かった。彼らが特に注目したのは、熊本県のチプサン古墳だった。これは6世紀初めに築造された前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)で、石室内の石屋形(いしやかた)に装飾があることで知られている。彼らは、ここに描かれた円形模様を「太陽円盤」と結びつけ、古代宇宙人来訪説を補完していった。

調査隊の活動を終えた松村は、調査報告講演を行った。彼は「天皇家こそは宇宙連合のブラザーと仰ぐ正義の古代太陽王国を滅ぼしたブラックである」と説いた[地球ロマン編集部1976:177]。松村にとって、天皇の正統性につながる「天孫降臨(てんそんこうりん)」こそ、宇宙人と連帯した「古代太陽王国」を滅ぼしたもので、太陽王国の復活こそが求められると説いた。

この歴史観は、CBAと友好関係にあった生長の家からの反発を招いた。CBA維持会員で生長の家理事・庶務部長の坂田義亮は、1962年7月7日に内部文書を出し、CBAを厳しく批判した。

坂田は、アダムスキーの著作に関心を持ち、宇宙人の言葉が生長の家の思想と共通すると考えたという。総裁の谷口雅春もCBAに肯定的な評価をしていたため、維持会員となったものの、次第に「陰謀的存在」であると考えるようになり、批判を展開するに至った。

その大きなきっかけは、天皇の存在に対する否定的姿勢にあった。

宗教を否定し、理念を無視するものの如く、天皇制に反対の意をほのめかし、天孫降臨をも否定せんとして古墳などに就き巧妙なる捏造的解釈を与へんとする唯物観でアダムスキの著書の宇宙人の思想とは凡そ異ったものとは思はれるものにすり変へられていることを知り、最早研究の余地さへもない危険思想なるものと判り愕然として手を引くことにしたのであります。

[地球ロマン編集部1976:178]

CBAは天皇制を否定はしないものの、宇宙人と交流を持つことのできた「太陽王国」を礼賛することで、天皇以前の古代社会に大きな価値を見出した。この歴史観が、天皇主義的傾向の強い生長の家との摩擦を生み出したのである。

CBAメンバーとして活動した天宮清は、当時を振り返って、次のように述べる。

UFO観測による円盤来訪の確認。古代研究による過去の宇宙交流文化の想定。その交流文化を現代によみがえらせようとする方向性。その方向性の具体的な実現。こうした筋道が、全国CBA会員に浸透していった。

CBA会員は各自のUFO目撃体験の積み重ねによって、宇宙人を見なくともその存在を確信したのであった。その確信は、過去のCBAにあった「ワンダラー」、つまり選民思想とは異なるものだった。そこには「人間性の回復」という命題があり、学問的にも「失われた古代の精神を回復する」という普遍的な方向性を持っていた。

[天宮2019:388-389]

彼らのなかでは、宇宙人とのコンタクトと古代人への関心が、天皇の存在を超えた「太陽王国」の希求と現代社会における「人間性の回復」という命題につながっていたのである。

天宮清『日本UFO研究史』2019年/ナチュラルスピリット

遮光器土偶は宇宙服を着ている

そんなCBAにとって、「宇宙考古学」の中核を担う主張が登場する。遮光器土偶は宇宙服を身に着けているという「説」である。

『空飛ぶ円盤ニュース』1962年9月号に、鷲尾功「古代日本にも機密服? じょうもんスーツの謎」が掲載された。鷲尾は、フランスの人類学者で考古学者のアンリ・ロートを紹介する。ロートはサハラ砂漠地帯を専門とし、多くの美術移籍を発見したことで知られる。なかでもタッシリ・ナジェールのセフィール「岩面画」の発見で知られ、主著『タッシリの遺跡』は1960年に邦訳も出版された。

セフィール「岩面画」には、丸いヘルメットのようなものをかぶった「人」が描かれている。この絵について、ソ連のSF作家アレクサンドル・カザンツェフは、「数千年前にわが地球にやって来た正体不明の生物のポートレートである」と述べ、宇宙人が描かれた遺物と見なした。鷲尾は、このカザンツェフの見解を紹介したうえで、「日本にもこれに劣らぬ芸術的作品が存在していた」と言い、遮光器土偶を取り上げる。[鷲尾1962:13-14]

遮光器土偶は縄文時代晩期に制作された土偶で、主に東北地方から出土する。「遮光器」とは北方民族のイヌイットが雪中の光除けに着用したもので、大きく表現された目が似ていることから、その名がつけられた。

鷲尾は「カザンツェフがこれを見たら何というだろうか?」と問い、次のように述べる。

王冠のような頭に、眼鏡をかけたような奇妙にメカニックな大きな目玉、口には防毒マスクのようなフィルターをもち、首のワイド・カラー、肩から腕、ももから足先へのふくらんだワンピース状の服装は、正にGスーツ(過重に耐えることができるように作られた航空服)を暗示するかの如く、またタイ辺りの、古典舞踊の衣裳にも似て、現代のわれわれには、この土偶が何故このようなスタイルをし、何の目的で作られたのか、はっきりした答えをきくことはできない。

[鷲尾1962:13]

ここで鷲尾は、「最近来日した米国の一研究家」の見解を提示する。この「一研究家」は、NASAの報告書に基づいて、遮光器土偶の服を「これこそ完璧な宇宙服だ」と述べたという。

大型の遮光眼鏡は開閉式で、着脱可能なものになっている。王冠のようなものは「指向性アンテナ」で、鼻孔上には「フィルター操作レバー」がついている。耳の部分にはヘルメット内に「レシーバー」が装着されており、マイクも付いていると考えられる。「スーツの模様は単なる飾りにあらず、気圧差によってスーツ全体を伸縮自在にする力学的しわざ」である。[鷲尾1962:13]

鷲尾は言う。

宇宙時代の今日、これにメスを入れるのもあながち無意義なことではあるまい。このふくらんだ奇妙な服を見て、皆さんは何を連想するだろうか?…古代日本の宇宙的文化財は、またしても中心地を離れた北辺の地からメカニックな姿態で千古の謎を投げかけている。

[鷲尾1962:13]

鷲尾に見解を述べた「一研究家」は、「CBA特別連絡員」のカート・V・ザイジグだと考えられる[橋本2009:95]。ザイジグはカザンツェフに遮光器土偶の写真を送り、見解を求めた。これを受けて、カザンツェフはソ連で刊行されていた雑誌『アガニョーク』41号に、論考を執筆した。

この論考の要約が、『週刊読売』1962年12月9日号に「宇宙人は日本に来たことがある 話題を呼ぶソ連のカザンツェフ論文」として掲載されている。

カザンツェフは世界各地の遺物の解釈をもとに、独自の「古代宇宙人来訪説」を展開したのち、「アメリカのカリフォルニアにいるカート・ザイシッグという読者から、極めて興味深い写真が送られてきた」として、遮光器土偶を紹介する。そして、「これこそ、例のサハラの壁画にあった『偉大な火星の神』を彫刻したものに違いない」と述べる。「サハラの壁画」とは、アンリ・ロートが発見したセフィールの壁画のことであり、遮光器土偶は同じ「偉大な火星の神」を立体化した「彫刻」であるという。

そのうえで、カアンツェフは次のような説を述べる。

まず、地球上の人間と違う点はその目だ。人間の目はマブタがあるが、この土偶の場合は、薄い膜がかぶさっており、それは、目の中央部でとじられる仕組みとなっている。目が大きいことも、地球よりも少ない光の場所の生物であることの証拠と考えられる。だからこそ、この土偶の目は、地球の明るい光のもとで、細くなっているのだろう。

これらの点から、次のような仮説を出したとしても、それは十分考えられるものだと思う。

―――数千年前、巨大な惑星間宇宙船が、地球上空に飛んできた。そして地球の、そのころ文明の栄えていたあらゆる地方に小さな宇宙艇を送り込む。その宇宙人たちが到着したところはインドであり、日本であり、小アジア、それにアフリカだった。最後には、彼らは南米にも訪れた。

[週刊読売編集部1962:82]

カザンツェフは、この後もCBAから縄文期の遺物の情報提供を受け、遮光器土偶を宇宙人来訪説の根拠として論じた。これによって、遮光器土偶は世界的に知られることとなり、1970年代に興隆した「宇宙考古学」や「超古代史」の定番として、定着していくことになる。

手塚治虫『勇者ダン』と「宇宙考古学」

この議論に刺激を受け、即座に作品に取り込んだ漫画家がいる。巨匠・手塚治虫である。手塚は、CBAの理事を務めており、「宇宙考古学」に強い関心を示していた。

彼は、1962年7月から12月にかけて『勇者ダン』を『週刊少年サンデー』(小学館)に連載した。この漫画は、両親を亡くした少年・コタンが、トラのダンに助けられ、強い絆で結ばれるところからはじまる。やがてコタンとダンはアイヌの秘宝を探す旅に出かけ、ある洞窟にたどり着く。そこは荒れ果てているものの、アイヌの秘密が隠された構造物で、様々な仕掛けがなされていた。コタンが潜入に成功すると、そこには空飛ぶ円盤が置かれていた。

手塚治虫『手塚治虫文庫全集 勇者ダン』2010年/講談社クリエイト

この施設はアイヌ以前の「先住民族」が宇宙人との交流のなかで作り上げたもので、宇宙の高度な科学を伝えられたアイヌ人が、何者かに悪用されないよう地下に隠したものだった。

手塚は作中で、カルデラ湖を探索する花丸博士に、次のように語らせている。

最近、ソ連のカザシツェフ(ママ)という人が、宇宙人が大昔、日本やアフリカやシベリアに住んでいたと思われる遺物があるといいだした…

その人はこういうのだ……。大昔、宇宙人が地球へやってきて、世界のあちこちに住んでいた。そして、まだ文化の進んでいなかった地球人たちに、いろいろなことを教えていた……

その証拠はたくさんある。右のは古代の日本人がつくった土人形だ。上のはアフリカの古代人がかいた洞窟の絵だ。どれも宇宙人の姿じゃないかというのだ。

そこで、私は「アイヌの宝」こそ宇宙人が残していった文明のあとではないかと思ったのだ。

やっぱりそうだったよ。宇宙人はそのすばらしい科学をアイヌ人にいいつけて、地下へかくしておいたのだ

[手塚2010:242]

ここで重要なのは、カザンツェフの「古代宇宙人来訪説」が援用され、土偶が「宇宙人の姿」として紹介されていることである。また、宇宙人の「秘密」をアイヌが継承してきたというのもポイントである。

手塚は、CBAが同じ時期に展開していた「宇宙考古学」に直接的な影響を受けながら、『勇者ダン』を書き進めていった。この物語では、勇敢でイノセントな少年がトラなどの野生動物と心を交わし、行動を共にすることで、宇宙人の存在につながっていく。そこに導くのは、真の知性を持った花丸博士であり、宇宙人を守護するアイヌ民族である。そして、その先に宇宙人との深い交流があり、豊かな文明を築いた古代人の姿が描かれる。一方で、アイヌの秘宝を独占的に入手し、悪用しようとする現代人が批判的に描かれる。

この物語の構図は、核戦争を引き寄せる現代人を嫌悪し、イノセントな心の回復によって宇宙人や古代人とのつながりを希求した人たちの欲望そのものだった。

北海道でのピラミッド建設

1963年9月19日、CBAは熊本のチプサン古墳にアーチと掲示板を取り付け、「古代太陽王国の燦然たる宇宙文明の遺跡」を顕彰する一大セレモニーを挙行した。一連の行動は、行政への許可を取らずに行ったため、10月下旬に山鹿(やまが)市教育委員会から抗議を受けた。

これを機に、CBAは北海道平取のオキクルミ降臨伝承地に関心を集約していく。前述の通り、ここはアイヌ神話に登場する英雄が地上に降り立った場所とされるが、当時は荒廃し、聖地としての姿から程遠い状態だった。

CBAにとって、オキクルミはアイヌと交流した宇宙人(ブラザー)であり、この地を整備することは、宇宙人との交流の場を創り出すことにつながると考えられた。最高顧問の地位にあった松村は、ここに「ハヨピラ」と名付けた巨大な記念公園を造成する計画を打ち出し、1964年3月に土地を買収した。そして、各地からメンバーを動員し、突貫工事で高さ7メートルのモニュメントを作った。これは「オベリスク」と呼ばれ、オキクルミが天を指さす姿が描かれている。また、山腹に直径15メートルの太陽円盤を形どった花壇を造成した。そして、同年6月24日に、同地でセレモニーが開催された。

ここで、次のような松村のメッセージが読み上げられた。

現代もそして古代も変転する人類の歴史の上に燦然たる光輝に包まれ、天空を翔ける宇宙のブラザーを心より迎えんとする国際円盤デー17周年記念日の本日、古代原日本民族たりしアイヌの氏に伝承されましたオイナカムイ、アイヌラックルそしてオキクルミカムイたりし宇宙の偉大なる教師が、ここ沙流川を見おろすハヨピラの聖地に、カムイカラシンタに乗り、降臨され古代アイヌ民族を教化・指導された史実を、時代の最先端を行くユーフォロジー(宇宙科学)を通じ、究明したわれらCBA科学研究部門のメンバーは、その威徳を讃えんと、自からの手により昼夜兼行、突貫作業をもってここに栄えある記念塔を完成する運びに到りました。

[地球ロマン編集部1976:188]

ここでもオキクルミなどは「宇宙の偉大なる教師」とされ、彼らが乗って来たカムイシンタはUFOと見なされている。アイヌの神話が「ユーフォロジー(宇宙科学)」と結合し、独自の解釈を生み出していることがわかる。

このあともハヨピラの建設は続き、最終的には巨大な「太陽のピラミッド」は建設された。そして、このピラミッドの中腹には巨大な遮光器土偶が描かれ、メンバーによる宇宙人との交信が行われた。

しかし、このピラミッド建設を最後に、CBAの活動は失速していく。機関誌『空飛ぶ円盤ニュース』は1967年4月・5月合併号を最後に休刊状態となり、目立った活動が見られなくなった。

このオカルト的スピリチュアリティと縄文が接合する流れは、1960年代後半から70年代にかけて新しいムーヴメントを巻き起こしたヒッピーにバトンタッチされていく。

【参考文献】
天宮清 2019 『日本UFO研究史』ナチュラルスピリット
金光不二夫 1978 「宇宙人の残した形見」『宇宙人と古代人の謎』文一総合出版
週刊読売編集部 1962 「宇宙人は日本に来たことがある-話題を呼ぶソ連のカザンツェフ論文」『週刊読売』1962年12月9日号
地球ロマン編集部 1976 「ドキュメントCBA」『地球ロマン』復刊2号
手塚治虫 2010 『手塚治虫文庫全集 勇者ダン』講談社
橋本順光 2009 「デニケン・ブームと遮光器土偶=宇宙人説」吉田司雄編『オカルトの惑星-1980年代、もう一つの世界地図』青弓社、2009年
藤木伸三 1969 「宇宙人の残こした名刺」『世紀の奇談』大陸書房
松村雄亮・桑田力 1962 「古代オリエントの円盤!―有翼太陽円盤の謎」『空飛ぶ円盤ニュース』1962年4月号
鷲尾功 1962 「古代日本にも機密服? じょうもんスーツの謎」『空飛ぶ円盤ニュース』1962年9月号

*   *   *

*中島岳志『縄文 ナショナリズムとスピリチュアリズム』次回第14回は2023年3月24日(金)17時配信予定です。

筆者について

中島岳志

1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。なかじま・たけし。北海道大学大学院准教授を経て、現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大仏次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。著書に『パール判事』、『秋葉原事件』、『「リベラル保守」宣言』、『血盟団事件』、『岩波茂雄』、『アジア主義』、『下中彌三郎』、『親鸞と日本主義』、『保守と立憲』、『超国家主義』、『保守と大東亜戦争』、『自民党』、『思いがけず利他』などがある。

  1. 第1回 : 戦後日本が「縄文」に見ようとしたもの
  2. 第2回 : 岡本太郎の縄文発見
  3. 第3回 : 岡本太郎「縄文土器論 四次元との対話」
  4. 第4回 : 岡本太郎 対極主義と伝統
  5. 第5回 : 縄文とフォークロア
  6. 第6回 : 民藝運動と縄文
  7. 第7回 : 濱田庄司の縄文土器づくり
  8. 第8回 : 最後の柳宗悦
  9. 第9回 : 島尾敏雄の「ヤポネシア」論
  10. 第10回 : 吉本隆明『共同幻想論』と「異族の論理」
  11. 第11回 : ヤポネシアと縄文
  12. 第12回 : 空飛ぶ円盤と日本の危機
  13. 第13回 : 宇宙考古学 遮光器土偶は宇宙服を着ている?
  14. 第14回 : 原始に帰れ! ヒッピーとコミューン
  15. 第15回 : 縄文回帰とスピリチュアル革命
  16. 第16回 : 偽史と革命
  17. 第17回 : 太田竜――「辺境」への退却
  18. 第18回 : アイヌ革命論
  19. 第19回 : 自然食ナショナリズムとスピリチュアリティ
  20. 最終回 : 陰謀論と縄文ナショナリズム
連載「縄文 ナショナリズムとスピリチュアリズム」
  1. 第1回 : 戦後日本が「縄文」に見ようとしたもの
  2. 第2回 : 岡本太郎の縄文発見
  3. 第3回 : 岡本太郎「縄文土器論 四次元との対話」
  4. 第4回 : 岡本太郎 対極主義と伝統
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  6. 第6回 : 民藝運動と縄文
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  11. 第11回 : ヤポネシアと縄文
  12. 第12回 : 空飛ぶ円盤と日本の危機
  13. 第13回 : 宇宙考古学 遮光器土偶は宇宙服を着ている?
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  19. 第19回 : 自然食ナショナリズムとスピリチュアリティ
  20. 最終回 : 陰謀論と縄文ナショナリズム
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