「観光は平和へのパスポート」。世界中の人々が観光で交流し、人種や民族、宗教など互いに理解を深め、誤解や差別・偏見をなくしていくことで、平和な社会の実現にもつながります。
2023年6月に発売された『図解でわかる 14歳から学ぶこれからの観光』(社会応援ネットワーク)には、私たちの住む地域の文化や歴史、自然などを観光資源として認識し、発信していくための知識が満載。ここでは、その一部を抜粋し、紹介していきます。(全6回)
今回は、そもそも「観光」とはどういうことなのか、一緒に考えましょう。
そもそも観光って何?
みなさんは、観光という言葉を聞いて何をイメージしますか? 実は「観光」という言葉には厳密な概念がないのです。2006年に制定された「観光立国推進基本法」でも観光の定義は述べられていません。
一般的には、楽しみを目的とする旅行全般をイメージする人が多いようですが、例えば広辞苑には、「他の土地を視察すること。また、その風光などを見物すること」と書いてあり、旅行と観光は違うものとして説明しています。
「旅行」が「目的地への到達」という「移動」を重視した言葉なのに対し、「観光」は「風景や史跡などの見物」という「経験」を重視している点が、大きな違いです。つまり、旅行の主な目的になりえるのが観光だとも言えます。
観光という言葉は、明治時代にツーリズムの訳語として用いられるようになったと言われています。また、観光という行為自体は、江戸時代あたりからあったようです。もともとは貴族などによる参詣を目的とした旅が、江戸時代になると、観光をともなう「お伊勢参り」や「こんぴら参り」として庶民に広がったのです。「四国八十八カ所参り」や富士山を信仰する「富士講」などが盛んになったのもこの頃です。世の中が平定され、街道や宿場などが整備されたことが大きかったといわれています。
観光とは
観光という言葉そのものの起源と、日本における観光のはじまりをみてみましょう。
「観光」の語源
「観光」という言葉の語源は、古代中国の『易経』という書物にある「国の光を観る」だといわれています。『易経』には、「国を治める者が、自国を旅して人々の暮らしを観る(見る)ことで、よい政治がおこなわれているかどうかを確認した」と書かれています。「観」は「みる」「示す」ことであり、「光」は「魅力や素晴らしさ」のこと。そこから「観光」は、「他国の人に国の魅力を示すこと」であるとも解釈できます。
心をこめて見て、学び、理解する「観光」
明治4年、日本が欧米に派遣した視察団の帰国後の報告書『特命全権大使 米欧回覧実記』には巻頭に「観光」と大きく書かれています。各国の官民が丁寧に使節団を迎えたことに感激し、ただの物見遊山ではなく、心をこめて見て、学んで、理解する「観光」であったことがうかがえます。
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本書では、観光に関する基礎知識から観光企画制作のアドバイスまで、観光に関わる情報を幅広くご紹介。中高生へのヒアリングをもとにした31個の質問から、「観光」をより身近に感じられる分かりやすい1冊となっています。『図解でわかる 14歳から学ぶこれからの観光』(社会応援ネットワーク)は全国書店・通販サイトや電子書店で発売中です。図版が多くわかりやすいと好評の書籍シリーズ「図解でわかる~」は、ごみ問題、気候変動などの環境課題の他、宗教や、資本主義、民主主義の歴史、心のケア、LGBTQ+など、今だから学び直しておきたいワンテーマを1冊に凝縮して3~4カ月毎に刊行されています。
筆者について
全国の小中学生向けの『子ども応援便り』編集室が、2011年東日本大震災時、「メッセージ号外」を発行したのを機に設立。同時に文部科学省等から委託を受け、被災地に「子どもの心のケア」の出張授業や教職員向けの動画配布を行う。以降、全国の4、5、6年生全員に『防災手帳』を無料配布するなど、学校現場からの「今、これが必要」の声に徹底して応えるプロジェクトを展開。心のケア、防災、共生社会、SDGsの出張授業や教材作り、情報発信を続ける。コロナ禍では、「こころの健康サポート部」を立ち上げた。書籍に『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)など。