仏教はシルクロードによってインドから中国へともたらされました。その過程で多彩な経典が大量に伝わったこと、また中国の伝統宗教(道教・儒教)が仏教と融合したことで中国仏教が生まれました。中国仏教は、人間の感情を肯定している点や殺生を禁忌としていない点などがインド仏教と異なります。では、そのような中国仏教「禅宗」の心はどのように表現されているのでしょうか?
2024年1月に発売された『図解でわかる 14歳から知るインド・中国の宗教と文化』(山折哲雄・監修、インフォビジュアル研究所/大角修・著)には、古代インドと古代中国について分かりやすくまとめられた記事が満載。ここでは、その一部を抜粋し、紹介していきます。(全6回)
禅語・禅画の世界
禅語は禅の心を短く表す語句です。たった1字の「空」「無」、4字の「諸行無常」「色即是空」などから漢詩のように長いものまであります。
禅の境地は水墨画でも表され、禅画といいます。禅宗は生活の中にある仏教なので、和室でも色紙や掛け軸でよく見られます。
「十牛図」は何を表しているのか
よく知られている禅画に「十牛図」があります。その10の場面は、中国の北宋時代の廓庵という禅僧が禅の入門者のために描いたというのですが、さて、いったい何を表しているのでしょうか。
第一図では、1人の農夫が何やらさがしているようです。「尋牛」という題があるので、牛をさがしています。牛は修行の目的の悟りを表し、農夫はこれから修行する人を表すようです。
第四図でやっと牛をつかまえ、第五図で飼い慣らし、第六図では牛に乗って家に帰りました。とうとう牛を自分のものにしたのです。ところが、第八図では何もない「無」の状態になりました。すると、世界は元のままで何も変わりません(第九図)。結論の第十図では、その農夫が僧の姿になりました。悟りを得たのでしょう。だからといって、僧は寺院にいるのではなく、町の市にいます。世俗の人々の中にいるのです。
この「十牛図」がどういうことなのかは、「十牛図」を見る人がそれぞれ考えねばなりません。第十図の僧はぷっくり太って、福の神の布袋和尚のようです。これも「十牛図」のポイントです。
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本書では、世界史を創った2大文明の基礎である仏教/ヒンドゥー教/道教/儒教を古代までさかのぼり分かりやすくまとめています。「世界の宗教と文化」シリーズ第3弾『図解でわかる 14歳から知るキリスト教』(山折哲雄・監修、インフォビジュアル研究所/大角修・著)は全国書店・通販サイトや電子書店で発売中です。図版が多くわかりやすいと好評の書籍シリーズ「図解でわかる~」は、日本の宗教、ごみ問題、水資源、気候変動などのSDGsに関する課題や、地政学、資本主義、民主主義、心のケア、LGBTQ+などなど、今だから学び直しておきたいワンテーマを1冊に凝縮して3~4カ月毎に刊行されています。
筆者について
2007年より代表の大嶋賢洋を中心に、編集、デザイン、CGスタッフにより活動を開始。ビジュアル・コンテンツを制作・出版。主な作品に『イラスト図解 イスラム世界』(日東書院本社)、『超図解 一番わかりやすいキリスト教入門』(東洋経済新報社)、「図解でわかる」シリーズ『ホモ・サピエンスの秘密』『14歳からのお金の説明書』『14歳から知っておきたいAI』『14歳からの天皇と皇室入門』『14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来』『14歳からの地政学』『14歳からのプラスチックと環境問題』『14歳からの水と環境問題』『14歳から知る気候変動』『14歳から考える資本主義』『14歳から知る食べ物と人類の1万年史』『14歳からの脱炭素社会』『14歳からの宇宙活動計画』(いずれも太田出版)などがある。