小さなシアワセの見つけかた 『酒のほそ道』の名言
第8回

そりゃ2次会と言えば、チェーン居酒屋しかないでしょっ。

暮らし
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1994年『漫画ゴラク』にて連載を開始し、現在単行本55巻を数え、累計発行部数800万部を記録するラズウェル細木の長寿グルメマンガ『酒のほそ道』。主人公のとある企業の営業担当サラリーマン・岩間宗達が何よりも楽しみにしている仕事帰りのひとり酒や仕事仲間との一杯。連載30周年を記念し、『酒のほそ道』全巻から名言・名場面を、若手飲酒シーンのツートップ、パリッコとスズキナオが選んで解説する。一生この店に通いたいと心を撃ち抜かれる瞬間。そして、大人数での2次会のお店の最適解。

「おネギと割り下のおかわりお持ちしましょうか?」

『酒のほそ道』第8巻第14話「どじょう」©ラズウェル細木/日本文芸社

舞台は老舗のどじょう屋。友人の斎藤や竹股がそれぞれ、「やっぱどじょうといえば柳川かな」「でも味噌仕立てのどじょう汁もいいよなァ」などと言っているところ、宗達は「ダメダメ。ここはやっぱ丸鍋だよ。どじょうは頭から丸ごと食わなきゃ」と持論を展開し、勝手に注文をしてしまう。

この鍋に薬味のねぎと山椒をたっぷりとのせて堪能する一向。食べ終えると、宗達はひたすらに薬味のねぎと山椒を追加注文し、「どじょう風味のねぎ鍋」をつまみに酒を飲む。その理由は「どじょうなんていくらでも食べられるから、素直に追加してたら勘定がかさむ」というもの。

たびたび「丸鍋の追加はまだよろしいですか?」とやってくる店員さんのプレッシャーに耐えかね、斎藤と竹股はもはや追加注文をしないといたたまれない状態。そこへやってきた店員さんのひと言がこれで、そのあとに「あらいいのヨ無理しなくて。最近どじょうもお高いから…」と続く。

酒飲み的には、この店に一生通いたいと心を撃ち抜かれる瞬間だ。

「そりゃ2次会と言えば、チェーン居酒屋しかないでしょっ」

『酒のほそ道』第8巻第19話「クラス会」©ラズウェル細木/日本文芸社

個人的なエピソードになるけれど、以前、本気の酒場好きたちが多数集まるトークイベントが秋葉原であり、ゲストとして参加させてもらったことがある。イベントが終了し、当然、どこかで打ち上げ的にもう一杯飲んで帰ろうという流れになるが、人数も多いし、時間も深めだしで、ちょうどいい店が見つからない。結果、こんなにも全国各地の渋い酒場に精通したメンバーたちが集まっていながら、最終的に入れたのは、誰もが知る、どこの街にでもあるチェーン酒場だった。

この話も同様の流れで、宗達が高校のクラス会に参加し、メンバーたちで2次会の店候補を検討しはじめる。ビアホール、オーセンティックバー、地酒がうまい店、焼酎がうまい店など、それぞれに好き勝手なリクエストを出すものだから、次第に殺伐とした空気になる一向。そこに宗達が助け舟を出す。

「そりゃ2次会と言えば チェーン居酒屋しかないでしょっ」

完全なる真理であり、酒ほそ史上もっとも宗達がクールに見える瞬間だと、僕は勝手に思っている。

*       *       *

次回「小さなシアワセの見つけかた 『酒のほそ道』の名言」(漫画:ラズウェル細木/選・文:スズキナオ)は8月2日(金)配信予定。

筆者について

1956年、山形県米沢市生まれ。酒と肴と旅とジャズを愛する飲兵衛な漫画家。代表作『酒のほそ道』(日本文芸社)は30年続く長寿作となっている。その他の著書に『パパのココロ』(婦人生活社)、『美味い話にゃ肴あり』(ぶんか社)、『魚心あれば食べ心』(辰巳出版)、『う』(講談社)など多数。パリッコ、スズキナオとの共著に『ラズウェル細木の酔いどれ自伝 夕暮れて酒とマンガと人生と』(平凡社)がある。2012年、『酒のほそ道』などにより第16回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。米沢市観光大使。
(撮影=栗原 論)

ラズウェル細木 × パリッコ

1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。

  1. 第1回 : ああ 初めての店に入るときの期待と緊張。これがいいんだよな。
  2. 第2回 : 刺身をとったあとの魚の頭は、実はオイシイ部分がイッパイ隠れた「宝の山」なのだな。
  3. 第3回 : オレにとってはサァ、スキヤキ作ってるときは前夜祭なの。
  4. 第4回 : 罰としてキミはそのサンマを提供しなさいっ。ボクは部下の監督不行き届きでビールを買ってくるから……。
  5. 第5回 : しょうが焼きはごはんも含めてビールのつまみ。アジフライはからしをつけて日本酒のつまみ。あーあ、ちあわちぇ~。
  6. 第6回 : とりあえず禁酒は明日からにすっか〜っ!!
  7. 第7回 : ウーム。やっぱり酒は百薬の長じゃな~。
  8. 第8回 : そりゃ2次会と言えば、チェーン居酒屋しかないでしょっ。
  9. 第9回 : 最後の雑炊が入るスペースを作るんだ
  10. 第10回 : 酒ってのはマイナスなもんをプラスに変える力があるってことだよ
  11. 第11回 : オレなら一酒、二麦酒、三焼酎だね
  12. 第12回 : これぞもっともウマい冬のビールの飲み方
  13. 第13回 : しめとはかならずしも一度とはかぎらぬものなり
  14. 第14回 : みんなうれしそうに飲んでる酒場のざわめきがいちばんかもしれないなあ
  15. 第15回 : こーゆー卓上の調味料や小物でね、店の善し悪しがある程度わかるんだよ
  16. 第16回 : 雨の休日もあたたかい春の雨ならまた一興だね
  17. 第17回 : おでんが気取らず庶民的だろうと接待は接待なんだよーっ!
  18. 第18回 : 飲みたいものを飲み食べたいものを食べる。それが人生だよ
  19. 第19回 : 酒の一滴は血の一滴
  20. 第20回 : この宇宙にホタテと自分しかいないって感じだね
  21. 第21回 : 飲むときは太るとかやせるとか忘れて思いっきり楽しまなくちゃ
  22. 第22回 : 今夜こそぜったいにフトンで寝るからなーっ!!
  23. 第23回 : 何だって人が気に入ってたメニューを断りもなく勝手に終わらすんだよーっ!!
  24. 第24回 : 心のシャッターを押してしっかり目と口に焼きつけてるからね
  25. 第25回 : どーしようもなくぬるかったらかえって諦めもつくんだけど
  26. 第26回 : 1日飲んでないといちいち感動しちゃうなあ
連載「小さなシアワセの見つけかた 『酒のほそ道』の名言」
  1. 第1回 : ああ 初めての店に入るときの期待と緊張。これがいいんだよな。
  2. 第2回 : 刺身をとったあとの魚の頭は、実はオイシイ部分がイッパイ隠れた「宝の山」なのだな。
  3. 第3回 : オレにとってはサァ、スキヤキ作ってるときは前夜祭なの。
  4. 第4回 : 罰としてキミはそのサンマを提供しなさいっ。ボクは部下の監督不行き届きでビールを買ってくるから……。
  5. 第5回 : しょうが焼きはごはんも含めてビールのつまみ。アジフライはからしをつけて日本酒のつまみ。あーあ、ちあわちぇ~。
  6. 第6回 : とりあえず禁酒は明日からにすっか〜っ!!
  7. 第7回 : ウーム。やっぱり酒は百薬の長じゃな~。
  8. 第8回 : そりゃ2次会と言えば、チェーン居酒屋しかないでしょっ。
  9. 第9回 : 最後の雑炊が入るスペースを作るんだ
  10. 第10回 : 酒ってのはマイナスなもんをプラスに変える力があるってことだよ
  11. 第11回 : オレなら一酒、二麦酒、三焼酎だね
  12. 第12回 : これぞもっともウマい冬のビールの飲み方
  13. 第13回 : しめとはかならずしも一度とはかぎらぬものなり
  14. 第14回 : みんなうれしそうに飲んでる酒場のざわめきがいちばんかもしれないなあ
  15. 第15回 : こーゆー卓上の調味料や小物でね、店の善し悪しがある程度わかるんだよ
  16. 第16回 : 雨の休日もあたたかい春の雨ならまた一興だね
  17. 第17回 : おでんが気取らず庶民的だろうと接待は接待なんだよーっ!
  18. 第18回 : 飲みたいものを飲み食べたいものを食べる。それが人生だよ
  19. 第19回 : 酒の一滴は血の一滴
  20. 第20回 : この宇宙にホタテと自分しかいないって感じだね
  21. 第21回 : 飲むときは太るとかやせるとか忘れて思いっきり楽しまなくちゃ
  22. 第22回 : 今夜こそぜったいにフトンで寝るからなーっ!!
  23. 第23回 : 何だって人が気に入ってたメニューを断りもなく勝手に終わらすんだよーっ!!
  24. 第24回 : 心のシャッターを押してしっかり目と口に焼きつけてるからね
  25. 第25回 : どーしようもなくぬるかったらかえって諦めもつくんだけど
  26. 第26回 : 1日飲んでないといちいち感動しちゃうなあ
  27. 連載「小さなシアワセの見つけかた 『酒のほそ道』の名言」記事一覧
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