「民主主義の危機」というフレーズを最近よく耳にしますが、そもそもどういう意味なのでしょうか。それがなぜ歓迎されざるべきことなのか、私たちは明確に言葉にできるでしょうか。古代にすでに存在した民主主義の起源・基礎から、最先端のITとAIによるデジタル直接民主主義までをコンパクトな通史として俯瞰しつつ、これからの世代の民主主義の「あり方」を具体的に考えるための情報集がインフォビジュアル研究所・編『図解でわかる 14歳から考える民主主義』です。
ここでは、本書から一部をご紹介していきます。(全6回)
台湾の行政プラットフォーム
理想の民主主義について素朴に考えてみましょう。現在の民主主義が抱える課題のなかで、最も深刻なのは、選挙や議会制といったシステムの問題ではなく、アメリカや日本の例で顕著なように、民主主義のシステム自体が、国民の間に新たな分断をつくり、世代や経済力や地理的条件によって、民主主義の恩恵から排除される人々が存在していることです。強権国家においては、この分断は、権力という暴力によって、意図的に強固に構築されてさえいます。
ギリシアの全員参加型の直接民主主義が、理想の民主主義の原型であるなら、分断を乗り越える鍵もここにあるでしょう。しかし、それがいまも理想であるのは、例えば日本で1億人が直接自由に討論することなど物理的に不可能と思われているからです。
しかし、台湾の人々はそう考えませんでした。デジタル担当大臣オードリー・タン氏に代表される、1980年代以降のデジタル世代は、誰もが日常的に使用するSNSの機能を使い、個人情報の不正使用や誹謗中傷の防止を徹底した行政プラットフォームをつくりだしました。「ジョイン」と呼ばれるこのシステムは、誰でも自由に政府に対し、自分が願う政策を請願できる仕組みです。請願されたテーマは、ジョインのなかで自由に議論され、賛同者が5,000名集まると、政府機関は正式な検討を始めます。
デジタル技術が可能にしたこの仕組みは、原理的には全国民が参加する直接民主主義のプラットフォームといえます。すべての国民の意見をすくい上げる民主主義の入り口が、いまの日本にも望まれます。
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本書では、民主主義の誕生や歴史、これからの課題についてわかりやすく解説しています。『図解でわかる 14歳から考える民主主義』(インフォビジュアル研究所)は全国書店・通販サイトや電子書店で発売中です。なお、「図解でわかる14歳からの~」は現在第20弾まで刊行されている人気書籍シリーズ。ごみ問題、水資源、気候変動などの環境課題、地政学、資本主義、宇宙開発、食料問題、LGBTQ+などなど、今だから学び直しておきたいワンテーマを1冊に凝縮して3~4カ月毎に刊行されています。
筆者について
2007年より代表の大嶋賢洋を中心に、編集、デザイン、CGスタッフにより活動を開始。ビジュアル・コンテンツを制作・出版。主な作品に『イラスト図解 イスラム世界』(日東書院本社)、『超図解 一番わかりやすいキリスト教入門』(東洋経済新報社)、「図解でわかる」シリーズ『ホモ・サピエンスの秘密』『14歳からのお金の説明書』『14歳から知っておきたいAI』『14歳からの天皇と皇室入門』『14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来』『14歳からの地政学』『14歳からのプラスチックと環境問題』『14歳からの水と環境問題』『14歳から知る気候変動』『14歳から考える資本主義』『14歳から知る食べ物と人類の1万年史』『14歳からの脱炭素社会』『14歳からの宇宙活動計画』(いずれも太田出版)などがある。