いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。第4回は、「新しい生活」。
柔らかさ。それだけで選ぶ家具があり並んで座ってみる日曜日
カブリエル。IKEAのサメにきみが名を与えるガブリ(噛むからね)エル
無印で買うバスタオル 包み込むときには君のかたちに変わる
音楽も香りも売っている場所で声も匂いもほしい、と思う
だらしなくフローリングに倒れこむきみが新居の最後のピース
本棚にふたりの過去を並べれば『海辺のカフカ』上上と下下
きみの目の中を泳いでゆく夜に近すぎたらみえないってほんとう?
月光に下着の箱が照らされて開封の儀は中断される
言葉まで脱いでしまったようだったふたり名前だけを呼び合って
脱がすときわずかに腰をベッドから浮かせてくれるやさしさが好き
こぼれたら転がる果物が好きで真冬しずかにうつ伏せになる
まっすぐな背筋に覆いかぶさればぼくの猫背もまっすぐになる
夢で会う必要はもうなくなってきみのこの世のまぶたを舐めた
キーホルダーまだ付いてない鍵だから飲み込んでしまいたくなる今朝も
顔文字じゃなくてはじめて顔で見る「いってきます」がいとおしい朝
ふたりからさんにんになるときにまたスーモ、話を聞いておくれよ
* * *
この続きは、11月17日(木)17時公開予定。
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筆者について
きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。