いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。第2回は「秋のデート」。
※外部配信では画面が崩れる場合があります。気になる方はOHTABOOKSTANDにてご確認ください。
待ち合わせには早すぎる改札で後ろから君が抱きしめてくる
会ってすぐ次に会う約束をしてそれでも足りないような気がした
文字だけじゃ足りなくなって抱きしめるだけじゃ足りなくなって秋雨
会っているあいだは途切れるからまだLINEは会えたことを知らない
紀伊國屋書店の二階から見えるメリーゴーランドを傘と呼ぶ
私だけ結末を知っている本のどこまで話してしまえばいいの
ずぶ濡れのままめくれない見開きのようにきみとは離れたくない
必要になればいつかのページから呼ばれる栞でもぼくはいい
星を見るための扉をひらくとき君のひらいたままの両耳
一年の夜空すべてを見届けて〈永遠〉で終わらせるしりとり
〈永遠〉の続きをふたり「ん」と漏らしながら吐息で考える夜
あたたかい星に復路の燃料をうなづきながらぶちまけ終わる
この星の外に出てしまわないよう繋いでおいたくちびるだった
約束をするから怖くなる夜にいちばん細い指を選んだ
守れなかったものだけがひかるなら月はだれとの約束だろう
(きみ/ぼく)がいつ芽生えてきてもいいように予定を白いままにして(おく/おけ)
* * *
この続きは、9月15日(木)17時公開予定。
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当連載を収録した書籍『荻窪メリーゴーランド』は、全国書店やAmazonなどの通販サイト、電子ブックストアにて好評発売中です。
筆者について
きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。