いまだかつてない盛り上がりを見せる現代短歌。その中でも最も注目すべき歌人・木下龍也と鈴木晴香による共演がOHTABOOKSTANDで実現! 新進気鋭ふたりの新作短歌連載。言葉の魔術師たちが紡ぎ出す虚構のラブストーリー。ふたりが演じる彼らは誰なのか。どこにいるのか。そしてどんな結末を迎えるのか。第3回は、「冬のデート」。
※外部配信では画面が崩れる場合があります。気になる方はOHTABOOKSTANDにてご確認ください。
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クリスマス前夜の前夜 ここはまだ神様のいなかった世界で
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きみの降臨を控えたぼくの部屋だから壁にも撃つファブリーズ
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更新してシャットダウンの真夜中の窓からきみの街を見ていた
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誰にでも尾を振るスマートフォンだった。恋人かと思えば上司から
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ただ寒いだけの冬から連れてきたコートにきみを覚えさせたい
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「ついたよ」も「どこ?」も未読でたくさんの恋に埋もれてうつむいている
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待つというメリーゴーランドをひとりひとりが降りてゆくのにひとり
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ぼくたちのはずだったのにフレンチの窓辺で笑うだれかとだれか
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虚しいという感情は感情のなかでもっとも雪に似ている
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会議室Cの灯りを消したとき雪だったことにはじめて気づく
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半額のケーキに向かってごめんって、ほんとうは君に言いたいことば
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終わろうとしている夜を引き止めるための涙がこの世に落ちた
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「だ」と打ってまた「だ」と打てば「大丈夫だよ」がつくれてそれを送った
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やがて心を剥き出しにする夜が来るの 神様ならもういない
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会いたいというより居たいと思う冬どちらが先に眠ってもいい
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ねえスーモ、毛づくろいしてあげるから同棲にいい部屋を教えて
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この続きは、10月20日(木)17時公開予定。
【お知らせ】
当連載を収録した書籍『荻窪メリーゴーランド』は、全国書店やAmazonなどの通販サイト、電子ブックストアにて好評発売中です。
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筆者について
きのした・たつや。1988年生まれ。歌人。 著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』(ともにナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
すずき・はるか。1982年東京都生まれ。歌人。慶應義塾大学文学部卒業。2011年、雑誌「ダ・ヴィンチ」『短歌ください』への投稿をきっかけに作歌を始める。歌集『夜にあやまってくれ』(書肆侃侃房)、『心がめあて』(左右社)。2019年パリ短歌イベント短歌賞にて在フランス日本国大使館賞受賞。塔短歌会編集委員。京都大学芸術と科学リエゾンライトユニット、『西瓜』所属。現代歌人集会理事。