娘の体調が悪く行きつけの小児科に連れて行くが、それまで見たことがない長蛇の列が。他の病院も回るが、どこも予約でいっぱい。数日後、ようやく予約をとることができたのだが、この連載の大きなテーマである「酒」の話がなかなか出てこない……。
ある朝、娘が……
先々週の火曜日のこと。朝起きてきた娘が、「おなかがすこしいたい」と訴えてきた。とはいえ、痛すぎて動けないとか、我慢ができないというほどではないと言う。最近よく、布団を豪快に蹴って寝たりしているので、それで冷やしてしまったのかな? とも思ったけれど、やはり心配だ。念のため、妻はその日仕事だったので、僕が保育園の前に病院に連れていって、診てもらうことにした。
地元にかかりつけの小児科があり、なにかあればひとまずそこにお世話になっている。たいていは、診察開始時間である9時の少し前に到着すれば、いちばん乗りか、せいぜい前に1、2組の待ち客がいるだけで、スムーズに受診できる。ところがその日は、様子が違った。
いつもどおりの時間に到着すると、なんと、5、60組はいると思われる親子連れが、病院の外の道路にまで長い長い行列を作っている! 僕は意味がわからず、え? お祭り? ……なわきゃないよな。なんか、ある地域、もしくはある学校の子供たちがいっせいにここで健康診断を受けるとか、そういう特別な日なのだろうか? などと混乱するも、とにかく、この日は最高気温が30℃を超える真夏日だった。屋根もない炎天下の往来で、何時間かかるかもわからない行列に娘を並ばせるのはどうか。
そこで急遽、これまた診てもらったことのある、近くの別の小児科へ行ってみた。すると、今まさに開院の準備をしているところで、行列はなし。ほっとして看護師さんに、「予約はしてないんですが、受信できますか?」と聞くと、「すみません、午前の診察はもう予約でいっぱいで、無理なんです」とのこと。また「午後3時からの診療の予約が、インターネットで午後1時半からできますので、よければそちらをご利用ください。ただ、すぐに埋まっちゃうので急いだほうがいいですよ」とも教えてもらうことができた。
であれば、娘を一旦保育園に預け、時間になったら午後の予約をとって、午後2時半ごろにお迎えに行ってその病院へ行くほうがスムーズそうだ。幸い娘も、それで大丈夫と納得してくれた。
そして予約開始の午後1時半ちょうど。自宅のパソコンから病院のサイトへアクセスし、予約ページへと進む。ところが、一旦は無事に入れたものの、初めてなので勝手がわからず、ちょっとページを戻ってまた進もうとすると、「本日の予約は終了しました」の表示とともに、50組の枠が一瞬で埋まってしまったらしいことが告げられている。 まだ、1時31分にもなっていないのに……。
僕は本格的に焦りを感じ、とにかく娘が診察券を作ったことのある病院に「本日、5歳の娘を受信させてもらえないでしょうか?」と電話をかけまくった。ところがどこも予約でいっぱい。そこでさらに、マップで検索し、自転車で行けそうな範囲の病院にも片っぱしから電話をかけていく。するとようやく「木曜の午後ならば可能です」と言ってくれた病院がひとつだけ見つかり、娘はとても心配ではあるけれど、他に手はないようなので、それでお願いすることにした。
小児医療現場の混乱
一体なにが起こっているんだろう? 何気なく、Twitterで「小児科」と検索してみる。すると、「子供たちの間で発熱が大流行中で、発熱外来も小児科もパンク状態。どこにも診てもらえないし電話すらつながらない」というような悲痛なツイートが山ほどヒットして、やっと現状を把握した。どうやら、「RSウイルス」や「ヒトメタニューモウイルス」なる感染症が猛威をふるっており、小児科の医療現場がかなりやばい状況らしい。木曜までに娘の症状が悪化でもしたらと不安になったし、娘よりもさらに大変な状況にある子供たちを心配する親御さんの不安を思うと、胸が痛んだ。
翌、水曜日の朝。保育園のノートに記入するため娘の熱を計ると、なんと37.5℃。不安で一気に胸が押しつぶされそうになる。が、当の娘は、とても熱があるとは思えないほど元気であり、園の保育士の先生に電話で相談し、容体が急変したりしない限りは、様子をみておいてあげるのでいいでしょうということになった。
しかしもちろん、保育園には連れて行けない。幸い僕はフリーライターで、家にいても仕事はできるし、その週は運良く、取材などで外に出なければいけない予定もなかった。そこで妻と交代で娘の様子を見つつ、TVでアニメ「少年アシベ GO!GO!ゴマちゃん」を飽きずに見ている娘にあれこれ話しかけられながら、いつもの1/3くらいのスピードでしか進まない仕事を、それでも少しずつこなしたりしていた。
1週間ぶりに心おきなく
ついに木曜日の午後となり、無事病院へ行くことができた。念のためコロナも含む検査もしてもらったところ陰性で、診断は「軽い夏風邪ですね」とのことでひと安心。念のため数日ぶん出してもらった薬を飲んでいたら、悪化することもなく回復していった。
と、今回ここまで、この連載の大きなテーマである「酒」の話が出ていない。そりゃあそうだ。保育園というのは、朝に計って熱が下がってたからといって、その日に登園を再開させるのはNGという決まりになっている。しっかり熱が下がりきってから、念のため24時間は自宅待機をしなければいけない。というわけで、水曜日からずっと家で過ごしていた娘が、再び登園を再開できたのが、翌週の火曜日。丸々1週間。それまでの間はなんとも落ち着かず、気持ちが酒を堪能するモードになどなれない。もちろん娘が寝たあとに、ふぅ、なんつってチューハイを1杯飲むくらいのことはしたけど、万が一夜中に体調が急変でもしたら……という心配はずっとあったし。
えぇ、だからね、久々に娘を保育園に送ってった日の酒は、そりゃあもううまかったですよ〜! さすがに1週間ぶんの疲れがたまりまくっていたので、ばーっと必要最低限の仕事だけ終わらせたら、午後からはもう休み休み! 最近ハマってるのが、回転寿司「はま寿司」でのちょい飲みで、いつもは「小ジョッキ」から始める生ビールも、今日は贅沢に「中ジョッキ」いっちゃおう! 午後2時くらいの、人もまばらな店内で、キンキンの生ビールをぐい〜〜〜っと、ひと息でいけるとこまで。その解放感といったら! また、「まぐろ三種盛り」と「サーモン三種盛り」あたりを“シャリ少なめ”で頼むのがいいつまみになるんだな。寿司というよりもどちらかというと、“ほんの少しのシャリをアクセントに食べる刺身”って感じで。あ〜、心と体に沁みすぎる! あ、そろそろ「黒霧島」のロックを追加注文しておくか……。
と、最後はいつもどおり、アホ面で酔っぱらっているだけの自分だったが、アホはアホなりに、小児科の医療現場の実態など、考えさせられることの多い1週間だった。
筆者について
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー、他。酒好きが高じ、2000年代後半より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『つつまし酒 あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』、『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』、『天国酒場』、『つつまし酒 懐と心にやさしい46の飲み方』、『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、『酒場っこ』、『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『のみタイム 1杯目 家飲みを楽しむ100のアイデア』、『“よむ”お酒』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『酒の穴』(シカク出版)。