酒場ライター・パリッコさん、初の「育児と酒」がテーマのエッセイ連載。子供のTVや動画視聴に関する制限をどうするか問題から子育て期における一大イベント「子供の初映画館体験」まで。そのとき親は、子供の人生初映画館体験と向き合いながらどう飲むか。
子供向けYouTubeの世界
娘のTVや動画視聴に関する制限をどうするか問題は、これまた「いいのだろうか?」と感じつつ、今のところうやむやになっている。
そもそも僕の実家が、食事中でもなんでもTVがついている家だった。そのせいか重度のTVっ子となり、自分の現在の人格に大いなる影響を与えている自覚はあるが、しかしそれを悪いことだとも思えない。というか、TVのおもしろさに夢中になって、(詳細は省くけど)そこからインスピレーションを得た音楽活動をしたりもし、なんやかやすべてがつながって、今のこの、まったく世のなかの役に立っていないのになんだか生きてはいけている自分がいると思うと、むしろ感謝のほうが大きい。ただそんな意見も、立派でまじめな考えの人からすればけしからんということになるのだろうし、つくづく、子育ての正解はわからない。
娘は2歳くらいのころから、YouTubeに興味を持ちはじめた。親が日常的にスマホをいじってるんだから当たり前だ。驚いたのは、アンパンマンなどのおもちゃを開封し、裏声で人形にセリフを当てながらただ遊ぶだけみたいな動画ジャンルがあって、それが一大シーンを築いている。どうやらそういう系で人気のYouTuberは、おもちゃもどこかから提供してもらえるし、けっこうな利益を得ていたりもするみたいだ。が、僕も妻も、偏見なのかもしれないけれどどうも抵抗があって「あ、ぼこちゃん、それYouTuber!」なんつって、なるべく見せないようにしていた。
そんななかでたどり着いたのが「BabyBus」シリーズ。双子のパンダ、キキとミュウミュウを中心としたCGキャラクターたちがくり広げるミュージカル風のアニメで、リンクをたどると(失礼ながら)どう内容が違うのかわからない短編がいくらでも見つかる。娘が3歳くらいのころは「べいびーばすみたい!」というセリフを1日に何度聞いたことか。が、やはりスマホの画面を長時間見せるのには抵抗があって「じゃあひとつだけね」なんて制限を設けるんだけど、油断するとそのひとつが、短編がたっぷりつながった30分くらいの動画だったりし、しまった! と思うのだった。あとBabyBus、なぜか怪我だの事故だの、けっこうヘビーなテーマのものが多いのにもやきもきした。
アニメへの興味の変遷
やがて「アンパンマン」や「しまじろうのわお!」に興味が移行し、YouTube離れがはじまると、少しほっとした。なにしろ、週に1回放送されるそれらを録画して週末の休みに見せてやっても、基本的に1回30分で終わる。何度注意しても気がつくと画面に目が近づき、「刻一刻と目が悪くなっていってるんじゃないか……」と不安になるスマホ動画ほど神経質にはならなくていいし。
その後は、ベタに女児だなぁという感じで「プリキュア」にハマった。これは保育園の友達の影響も大きいようで、保育士さんに聞けばクラスの仲良し3人組で、ずっとプリキュアごっこをしているらしい。僕がお迎えに行くとその3人から、「わたしたちのせかいからでていきなさい!」とか言われて、謎の必殺技をくらわせられたりもする。
日曜の朝は子供アニメのゴールデンタイムで、8時半のプリキュアにはじまり、「ガールズ×戦士シリーズ」「マジカパーティ」「ワッチャプリマジ!」「ミュークルドリーミーみっくす!」と、後半にいくにしたがって僕には何がなんだかわからない時間が、2時間半続く。今は特にミュークルドリーミーが好きらしく、昨年サンタクロースにお願いしたクリスマスプレゼントは、それのお城セットだった。
それからもうひとつ、娘がどハマりして一時期延々と見ていたのが「魔入りました! 入間くん」というアニメ。不幸な境遇にある入間くんという人間がひょんなことから魔界で暮らすことになり、そこで快進撃を遂げてゆくというストーリーで、あまりにくり返し見たがるので最終的に僕も妻もハマり、妻は原作漫画の単行本を全巻買った。
理想は崩壊し
ところで、子育て期における一大イベントに「子供の初映画館体験」がある。
我が家のそれは、娘が4歳半のとき、『映画トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』にて決行されたが、その日がまた大変だった。
2021年11月のある日曜日。最寄りの映画館である「T.ジョイSEIBU大泉」で、特別に作中キャラ「キュアラメール」(の着ぐるみ)との写真撮影がセットになった上映回があるらしく、娘の初映画館体験にとそれを予約した。当初は、親がふたりとも見ることもないかと、僕は向かいのショッピング施設「リヴィンオズ大泉店」のドトールで仕事でもしながら待っていようと思ってたんだけど、よく考えると一生に一度の機会。せっかくだからと家族3人で見ることにした。
午前11時からの上映会だったが、当日の朝はそわそわしてしまって大あわて。「早くごはん食べて!」「早く着替えて!」と準備をし、妻の子乗せ電動自転車に、非電動自転車で並走し、1時間近くも前に現場に到着。会場に設置された記念撮影ブースで写真を撮ったり、併設のミニ原画展などを見ていたら行列ができはじめ、かなり前方に陣取る。並んでいると、「せっかくだからポップコーンもあったほうがいい」という話になり、僕ひとり離脱してこちらも大行列のキャラメルポップコーンを買いに。入場列の最後尾に戻ってひとり並んでいると、なんと上映後だと思っていた撮影会は、入場前に流れ作業的に行われるらしく、僕はせっかくの記念の瞬間に立ち会えないのであった。しかたないので、自分よりだいぶ大柄なキュアラメールを横目に着席。
娘は心配していたぐずりもなく、まだ地面に着くはずもない足を前方に投げ出し、定期的にキャラメルポップコーンをぱくつきながら、まっすぐな目で約70分の映画を見終えることができた。正直、プリキュアの通常回をちゃんと見ていない僕には理解不能の内容だったが、変身シーンのサイケデリックかつ気合の入った映像には脳を刺激されたし、ちょっとシュールな歌のシーンも良く、けっこう楽しめた。これにて無事、娘の人生初映画館体験は終了。
その後の僕の理想コースはこうだった。まず、大泉学園駅前に移動し、大好きな洋食屋「キッチンカウカウハウス」へ。妻子は名物の「牛すじシチュー」か「ハンバーグ」か。僕は期間限定で出ているらしい「辛口牛すじ煮込み」を頼んでみようかな。もちろんハートランドの瓶も。それらに舌鼓を打ちながら、家族で映画の感想を語り合う優雅なひととき。お酒も入ってしまったし、自転車は駐輪場に停め、自分は夕飯の買い物でもして、のんびりと歩いて帰るか……。
ところが現実は違った。映画が終わったあとも娘は、会場にあるガチャガチャなどをやたらとやりたがる。特別にひとつだけと、好きな名前を入力してプリントできるプリキュア千社札風シールを作ってやり、今度は2階のゲーセンにつかまって、映画の半券でやれるクレーンゲームを3回。そううまくいくはずもなく、景品なし。「もういっかいやりたい」のリクエストに対しては、こういったゲームの類はそう甘いもんじゃないと諭し、生活必需品の買い物に向かいのOZへ。その買い物が終わった時点で僕と妻は疲れ果て、必死に自転車をこいで帰宅した。
とにかく腹が減っている。が、もはや面倒なことをしている余裕はない。そこで、市販のトマト&ガーリック味のパスタソースを煮立たせ、そこに昨夜娘用にたっぷり作って余っていた鶏肉のハンバーグを加えてざくざくと崩す。たっぷりとゆでたパスタにあえれば、『ルパン三世 カリオストロの城』に出てきたミートボールパスタの、果てしなく簡易版みたいなものが完成。いざ、むさぼるように食べる。
するとこれが、酸味と肉の荒々しさが疲れた体にバキーンとハマり、異常にうまい。たまらず冷蔵庫をあさると、ちょっと特別な夜にでも飲もうと思って冷やしておいた小江戸ビールの「毬花(まりはな)」が1缶出てきた。どぼんとグラスに注いでごくごくごく。鼻に抜ける爽快な香りが、トマトソースと相性ばっちりだ。
ズルズル、ばくばく、ごくごくごく……あぁ、栄養補給。こんなにも心身に染みる食事はいつ以来だろう。と、申し訳なくも、さっき見たプリキュアの映画以上に感動してしまった。
【お知らせ】
当連載を収録した書籍『缶チューハイとベビーカー』が待望の書籍化! 全国書店やAmazonなどの通販サイトで、2024年6月26日より発売いたします。
筆者について
1978年、東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。酒好きが高じ、2000年代より酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター、スズキナオとのユニット「酒の穴」名義をはじめ、共著も多数。